第一話
転校生は人気者①
能力は多種多様で、その力の強さもそれぞれだ。同じタイプの能力を持つ者でも、発動条件やリスクなど細かい部分が異なってくる。
国民は皆、五歳の時に血液を精密に検査される。超能力に反応する数値が出た者は、LIMITに招集され二次検査。特殊な機械で身体をスキャンされ、能力の種類を特定される。自覚がなくまだ能力が開花されていないケースでも、ここで全てが発覚することになる。
超能力は、遺伝など血筋によるものが多いが、一%ほどの確率で一般家系から生まれることがある。蒼もその一%に含まれる一人だ。
一般の人間が小学校に入学する頃、能力を持つ者は代わりにLIMITへ入学する。一般学校で学ぶ教科、教養はもちろん、各超能力についての座学から、強化、コントロールの実習まで、力の使い方を学び、幅広く知識をつけていく。学生生活は二十歳まで続き、その道筋を逸れることを選ぶことはできない。
蒼は、春休み前と変わらぬ席につく。新年度といえども、年齢ごとにクラスを分割されているだけで、二十五名のメンバーはもう十年以上ずっと一緒だ。久しぶりに友人達と会えるのは喜ばしいが、何かが変わるわけでもなく、高揚もない。
教室に着いたのは蒼が一番乗りだったが、十分ほど経てば、次のバスが到着したのか次々とクラスメイトが登校してきた。久しぶりの再会に、それぞれ挨拶を交わしている。
「樹、久しぶり」
気だるげな様子の
「おはよー、蒼ちゃん。彼女できた?」
「久しぶりに会って、開口一番が、それ?」
相変わらずな樹に、蒼は溜め息を吐く。ひひっ、ととても上品ではない笑い方をして、「で、どうなんだって?」体ごとこっちに向けてニヤニヤする。
「……まあ、できてないけど」
「なんだよ、また童貞のまま学校来たの? 恥ずかしくない?」
声量を抑えるわけでもない樹の向こう脛を思いっきり蹴ろうとするが、わずかに早く察知され、椅子に足を折りこんでかわされる。
「捨てたくなったらいつでも言ってよ。優しいお姉ちゃん紹介してやるから」
そう言う樹の右手の動きは、一言でいうと
「いらないよ! 僕は誠実に恋をして、そういうことは好きな人とするんだ」
「あっそ。見知った奴らのなかで生活してて好きな人とやらがいつ出来るか知らねえけど、まあ頑張りな」
そうだ。蒼が周りを見渡せば、会話に花を咲かせているクラスメイト達は、六歳の時から変わらないメンツ。内部で付き合ったり別れたりといったことはこれまでにあったが、蒼自身がその輪に加わることはなかった。
校内でいえば、年齢が違うクラスには見知らぬ女の子達が多数存在しているわけだが、上下の関わりがあるのは年に数回の行事ごとのみで、その際も結局年齢ごとでチームになる為、蒼のような内気な性格で交友が広まることはなかった。
超能力者達は、一般人と同じ街に住むし、共存している。LIMITの外での交流が制限されているわけではないが、一般学生の目には、やはり超能力者は特殊に映るらしく、敬遠している。というのは、一般学校に通う蒼の妹、
こと恋愛に関して、完全に詰んでいると言わざるを得ない。
チャイムが鳴ると、それぞれに話をやめ、席に着く。一般学校でいうと高校一年の年から蒼たちのクラスを受け持つ担任の早瀬は、年度が変わってもこれまでと変わらず、当たり前のように二、三分遅刻してくる。そして、扉から入って教壇に辿り着く前から、もう話し始めている。
「おはようさんー。皆元気? 生きてた? 出席とるの面倒だから、周りに誰かいない奴教えて。あ、皆いる? オッケー」
そんな短い間で、生徒が周囲を確認しきれているはずがないが、早瀬の中では全員出席と判断されたようだ。蒼が見渡したところ席は全て埋まっているのでそれで間違いないが、早瀬の大雑把さは几帳面な蒼からすれば信じられないところだ。
教卓に手をついた早瀬は一息つくと、「あー、煙草吸いてえ」とぼやいた。
「あ、皆にいいお知らせあるよ」
ぽん、と手を叩いた早瀬に、「えー、なんですかぁ?」
「転校生、
何故かライブMCのようなトーンで左手を扉の方に向ける早瀬。「えー!」という驚きの声が教室中のあちこちから漏れ、にわかに賑わう。
ゆっくり扉が開かれ、そこから顔を覗かせた少女は、一瞬、
「はじめまして。湊瑚白です。よろしくお願いします」
艶やかな長い髪が、さらりと揺れた。
真っ黒な髪は、胸の辺りまでの長さでまとまっている。前髪は眉の辺りで揃えられていて、色の白い肌との対比が美しい。どこか宙の一点を見つめる目は大きく、鼻は小さい。口元はきゅっと引き結ばれている。
早瀬が窓際に移動し、いつの間にか煙草を吸っている。少しだけ開けた窓の外に煙草を持った手を出し、吸いこんだ煙を外に向けて気持ちよさそうに吐いた。
教室は一時、静まり返っていた。少なくとも蒼にはそう感じた。そして、その静かな空間で、心臓がばくばくと音を鳴らし、体内に流れる血がほんの数度温度をあげたように、脈を打ちながら全身を巡っていく。蒼の体に、そんな異常が現れていた。なんだこれは?
誰かが「かわいい……」と呟くと、それぞれが声を出すことを思い出したように、そこら中できゃっきゃと会話しだした。
「樹……」
無意識に、蒼は隣にいる友人の名前を呼んでいた。「お?」と言って、樹は肘をついて支えた顔を、蒼のほうへ向ける。
「僕、好きな人、できたかも」
かあっと、自分の頬に血があがるのを蒼は感じた。耳まで熱い。まるで、火の中に飛び込んだようだ。
樹はゆっくりと二回まばたきをし、「は?」と間の抜けた声を出した。
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