まさかこんなところで
「すっごい顔、なにそれ?」
「この世の全ての理不尽を呪ってる顔です」
「いや、確かにそう思うのはわかるけどさ……その、風土君、露骨過ぎない?」
「最近、使い魔の使い魔のせいで顔芸をたしなんでおりまして」
「やめた方がいいと思うのは、私だけかな?」
困りながらも幼く可愛い顔を傾ける夜鐘先輩。
だが、これくらいで俺は止まらない。今すぐ夜鐘先輩のご実家に行って一億程分けてもらえないか聞くくらい許されそうだ。
「話を変えよっか?」
どうやらそれは夢と消える事になるだろう。
「……はぁ、それじゃあ聞きますけど、何でお茶なんです?」
「だって選んだの風土君だよ?」
まるで自分には非がない。そう言いたげな夜鐘先輩の顔。
「お茶を奢る事になるなら最初からご飯行ってましたよ。そもそも疑問だったんですよ。何故食事処でお茶じゃ駄目なのかって」
「あー、風土君! それはデートをないがしろにしてるよ!」
おかしい、何故か俺が責め立てられているような気がする。
というか、夜鐘先輩の視線がかなり強い。
頬を膨らます夜鐘先輩は、人差し指をテーブルの上に突き立て、コツコツと叩きながら言う。
「まずはお茶をしながら次にどこに行くか相手と相談する。相談して初めてデートの次のプランが決まる。次がご飯なら、どんなお店に行くかも相談しなくちゃっ! それがデートってものなんだよっ、もう!」
「歩いてるうちに……――」
「――それは、仲が深くなってからやる事なのっ! うん!」
ずいと肉薄した夜鐘先輩は、全て言い切ったかのように、荒く鼻息を吐いた。
まったく、何なんだこの抗議のような講義は?
「まったく、
「「っ!?」」
そう、追撃のように聞こえた俺への文句は、明らかに夜鐘先輩とは違う声だった。
そもそも夜鐘先輩は、現在俺の事を「風土君」と呼び、今俺は「風土」と呼ばれた。
そして、この煽り慣れた口調。俺との歴史を感じさせる悪態のつき方。頻繁に会っているヤツである事はわかった。
そう、隣に座った女子こそ、
「楓っ? 何でこんなところにっ?」
「八王子スクエアで自主練する前に
だらっと椅子の背もたれに、文字通りもたれかかった楓に、正面に座っていた夜鐘先輩が怪訝な目を向ける。
「魔法士学校の制服……だよね?」
聞いたのは、当然俺にである。
これは、楓も予想していたのだろう。既にストローに口を当て、ちまちまと我関せずというようにドリンクを飲み始めていたのだ。
というか、絡んできたのにその態度はどうなんだ?
おっと、一応夜鐘先輩には説明しておかないとな。
「一応、俺の魔法の師匠です。朝桐楓。中学ん時の同級生でもあります」
「ま、魔法の師匠?」
「あれ? 知りません? 俺、魔法も使うんですよ?」
「え、ちょ、えっ!?」
なるほど、どうやら知らなかったようだ。
まぁ、仕方ないか。魔法のお披露目したのは夏期休暇前だし、夏期休暇直後なら、たとえ生徒会でも知らなくて不思議ではない。
「風土く――え、ホントなの……?」
徐々にその問題性を理解してきたのか、夜鐘先輩の目の色が変わって行くのを感じた。
しかし、すぐにその色は戻ったのだ。はて、何故だろう? 俯いた時、俺の手元を見てから時が戻るように元の目に戻っていった。
てっきり士族間の軋轢を気にしてるのかと思ったが、はて?
「もしかして、今日のアレもただの体術でやられたと思ってます?」
「え……違うの?」
「
「あ……そう」
どうやらこれ以上はお腹いっぱいで入らない感じだな。
まぁ、普通に考えたらそうか。仕方ない。
楓と夜鐘先輩は他士族の学校。これまでもなかったように、俺が紹介こそしても、自分から挨拶なんかはしな――――
「――――召喚士学校二年、生徒会会計長の夜鐘瞳」
あれ? 挨拶までし出したぞ?
そう出るとは思わなかったであろう楓、勿論俺も、目はまん丸である。
「あ、はい。魔法士学校一年、会計の朝桐楓です。宜しくお願いしま、す?」
まるで窺うように聞く楓。だが、それだけ不思議な事だったのだ。
「うん、宜しくね」
夜鐘先輩の楓への笑顔は、確かにぎこちなかったけれど、それは、士族間をちゃんと乗り越えて挨拶した証とも言えた。
「む、よく考えたら今日観たいテレビあったんだ! ごめん、風土君! ご飯はまた今度でいい?」
「あ、ええ。構いませんけど?」
「ほんとごめんね! 朝桐さん、統一杯は?」
「い、一応男女総合でも出場予定です……けど?」
「じゃあその時また会おうね! うん! それじゃ、ばいばーい!」
「あ、そうだ。安静にしてくださいねー」
「うーん、タクシーで帰るー」
何故最後だけあんなに急いでたのだろう。
まぁ観たい番組があるのであれば仕方ない。奢り損しはしたが、ちょっと面白いものも見れたので、見料だと思えば安いものか。
タクシーで帰るのであれば、人の目もあるからいいか。
「ねぇ、何で安静?」
「あぁ、実は今日な?」
楓に今日あった出来事、デートに付き合わされた事、ある意味見張りクエストだったという事。それらを全て話してやった。
すると楓は、名探偵顔負けの鋭い目付きになる。そして顎先に添えられた親指と人差し指。何かを推理するように。いや、推理が終わったかのように言ったのだ。
「はっはーん……」
と。
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