ジェシーの別荘へ……?
「……おい」
「何だよ」
「何だよじゃねぇよ風土。何でジェシーに言われるがままブーメランパンツ買っちゃったんだよ!」
「しょうがないだろう、試着出来なかったんだから。それに、ブーメランパンツじゃない。ブーメラン海パンだ」
「似たようなもんだろうが! じゃあ何で女共は試着出来たんだよ!?」
そんな純太の情けない言葉に、楓がさらりと反応する。
「女の子の試着は下着の上からするのよ」
「なら、俺たちだって……!」
言いながら純太の言葉の勢いは徐々に尻すぼみになっていく。
どうやら、男子の下着の欠点に気付いたようだ。
「普通の水着ならともかく、ブーメランになるとトランクスやボクサーパンツの上に穿いてもなぁ」
俺の指摘に降参したのか、純太は顔を覆って嘆く。
さっきまで猿だったのに、羞恥心を取り戻すと人間になるようだ。
「ハッハッハ~! 当日が楽しみダヨーッ!」
ジェシーの嬉しそうな表情に、玲も楓も苦笑する。
完全に晒し祭りコースではあるが、女の子との外泊というのは、青春時代に相応しい。
皆の強化合宿という名目もあるしな。
「姉御ぉ! 姉御の水着はどんなのなんすか!?」
「物理的に消えたいのですか、翔?」
「そんなぁ……!?」
確かに、ナイアの水着は気になるところだ。
しかし、これを口にしてしまっては翔と同類だろうし、物理的に消えたくもない。
「顔に出てるわよー」
と、ジトっとした目で言うのは楓の言葉だけであって、決して俺の本意ではないと言っておこう。そう、興味本位なだけだ。
◇◆◇ ◆◇◆
俺たちは、夏休み初週の楽しみが出来た。
ジェシーの別荘は、南房総の外れにあるそうだ。
夏休みの二日目である七月二十八日の日曜日。これが出発の日だ。自分でも珍しくスマートフォンのスケジュール帳に予定を入れてしまったくらいだ。
あのナイアでさえも、テンションが上がっていた。本人は隠していたがわかる。あれはそういう顔だった。
当日は八王子スクエアの前に、ジェシーのお手伝いさんが皆を迎えに来てくれるそうだが……なんだ、お手伝いさんって? そんな日本語始めて聞いた気がする。
そんな楽しみを明日に、今日七月二十七日の土曜日――――福島のイビリを乗り越えた終業式の日を乗り越えたというのに、俺は学校に呼び出されていた。
「とても帰りたそうな顔をしていますね」
生徒会室の椅子にボケっと座っていたら、背後から聞こえた女の声。その声が誰のものか、俺はすぐにわかった。
「
「カマを掛けただけです」
「ぐっ!?」
振り返りながら言った俺は、一瞬で高山先輩の鋭い瞳に囚われ、身体をビクつかせてしまった。
そう、俺を呼んだのは
「人が悪いですよ」
「確かにそうですね」
「でも謝罪は無し……と」
「では、暑い中お呼び立て申し訳ありませんでした」
見当外れな事に対しての謝罪にビックリである。
「素敵な丸い目です」
「よく言われます」
「どなたにですか?」
言いながら高山先輩は、瞳を妖しく光らせた。
まるで全てを見透かされているような、そんな瞳だ。
「…………見栄を張りました」
「結構です」
「あのっ!」
挨拶すらかわされないこの異様な空間を、俺はいい加減壊したかったのだろう。正面に座った高山先輩を前に、立ち上がりながら言う。
高山先輩は、ただ視線だけを上げる。
「何でしょう?」
「な、何で俺は今日ここに呼び出されたんですか?」
「心当たりがないと?」
「…………なくはないかなぁ」
俺は高山先輩を直視出来なかった。
俺の頭に過ったそれは、文字通り頭がトゥルトゥルの福島講師だった。
え、でも何でバレたんだ? あの時の事を知ってるのは、俺の
「私が見ていましたので」
「っ!? な、何の事でしょうか……?」
「勿論、昨日の火水君と福島講師の事です」
完全にバレている。
「い、一体どこから……?」
「二階にある渡り廊下。そこから火水君に詰め寄ってる福島講師が見えました」
「あんなところから……」
この学校は、校舎がコの字型になっている。
確かに渡り廊下からならば、進路指導室の状況を見る事が出来る。
「念のため、動画に収めました。そこから福島講師が火水君に何を言っているのか確認しました」
凄いな、読唇術まで使えるのか。
「火水君の対応は、塚本講師の入れ知恵だと思いますが……」
それについては喋ってはいけない。それは、俺を助けてくれた塚本講師の立ち場を悪くする可能性が含まれているからだ。
「それはどうでもいいのです」
「へ?」
「問題は、そのやり方では生ぬるいという事。これに尽きます」
「ど、どういう事ですかっ? 話がサッパリ見えません」
「全原会長の名の下に、我々生徒会は、一般生徒である火水君に対する暴力行為を働いた福島講師を強く糾弾します」
「うぇ?」
「現在、全原会長は校長と会議中です。何せ、あの福島講師をけしかけたのは、校長だと言っても過言ではないからです」
「で、でも何で生徒会が俺を助けてくれるんですかっ? 俺が邪道な戦い方で選考会を――」
「――結果を残したのは事実です」
高山先輩は、淡々と言って俺の言葉を切った。
そしてこうも付け加えた。
「我々生徒会は……一年生、火水風土を全力で守ります」
一体何がどうなってるんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます