使い魔は使い魔使い

壱弐参

出会いと一歩

 夕暮れと共に天に雨雲が広がり、ポツポツと降る滴が地を潤してゆく。

 カミナリの前兆、腹の底に響く重低音が何か不吉なものを予期させる。

 俺こと《火水ひみず 風土かざと》は、召喚士の端くれである。端くれと言ってしまうと、その端の方々に失礼な程低レベルな召喚士だ。

 自分で言うのもなんだが、俺には才能がない。皆無と言っていいだろう。

 召喚士のメッカ、東京にある《国立上等召喚士養成学校》に入学出来たはいいが、その入学試験は召喚力サモンクラフトと言う中身……つまり容量と簡単な筆記試験のみで合格出来るシステムになっている。

 しかし、俺は別段巨大な召喚力を内包している訳でもない。容姿端麗な訳でもない。両親にコネクションがある訳でもない。そう、単純なギリギリ合格だ。


『この脳無し!』


 厳しい講師の痛烈な言葉だった。


『こっち来るな、この間抜け!』


 初めて出来た友達が俺に才能がない事を知って、自己防衛の為に俺を避けた言葉だ。


『何で辞めないの?』


 罰ゲームで俺と仲良くなり、俺を校舎裏に呼び出した時に言った、クラスのアイドルの言葉だ。

 勿論、辞めたかったさ……。

 しかし、両親が許さなかった。

 両親は俺の召喚士としての素質に期待している。晴れてプロの召喚士になると国からの援助金と多大な名声が得られる。夢を見るようなものだが、両親はそれに縋っていた。

 何故縋ったのか? 両親はこの国立上等召喚士養成学校に通っていたんだ。勿論、夢破れて普通の企業に就職し、今は共働きをしている。

 大事に育てられた俺は、文句の一つも言う事が出来ず、悲痛を訴えられずに電話を切った。

 だが、俺より才能のあった両親が夢破れる超難関の学校なんだ。俺なんかに卒業出来る訳がない。

 毎年三年生が卒業し、正式なプロ召喚士になるのは僅か十数人。勿論これは最大数で、年々減少傾向にあるそうだ。

 俺が何故才能がないのかっていうと…………そもそも、召喚が出来ないんだ。

 今まで一度も召喚に成功した事がない。召喚陣サモンスクエアの形成まではうまくいくが、その中から目的の武器や道具……通称=《アイテム》が出て来ないんだ。

 入学二日目の実技テストで見事にコケて、その二週間後の実技テストで落ちこぼれのレッテルを貼られ、一ヶ月前の実技テストで見離された。

 入学して三ヶ月。一人飯、屋上飯、便所飯の黄金ルートを辿った俺だが、今日ようやく転機が訪れた。と、思いたい。

 この二ヶ月の間ずっと予約待ちをしていた召喚力サモンクラフト増加室の使用許可が出たんだ。

 召喚力増加室は、普段上級生が高度召喚等の練習するために使われる。

 俺が何故ここを使いたかったかと言うと、先生の言っていた召喚の際の感覚の話がどうもしっくりこなかった。

 授業中の先生曰く――

「体を感じ、内から生まれる召喚力を感じ、召喚するアイテムを想像し創造するのです。そう、体から自然にスッと出てくるイメージです」

 と、言ってたのだが、やはり俺の場合は違う感じがした。

 アイテムを想像し、創造するとこまではいいんだが、それを出そうとする時、何かが邪魔してるような感覚になる。

 何かが詰まっている感じ……俺の召喚力ではギリギリで押し出せないイメージだ。

 そこで考えたのが、この召喚力増加室だ。

 本来この増加室では力の上下コントロールをより明確に行う訓練をするのだが、さっき言った通り、俺の能力発動には何かが詰まってる感じがする。

 という事は召喚力が増加すれば力技でそれが出せるんじゃないか、そういう考えに至ったわけだ。

 外は生憎の天気で、少し湿り気の含んだ空気は尚更緊張感を向上させる。暗幕で覆われた窓からは時折雷光が漏れている。

 小さい体育館のような建物だが、この召喚力増加室は非常に頑丈に造られている。

 窓は開閉出来ないタイプの強化ガラスだし、床板以外は基本的に鉄とコンクリートで出来ている。

 床板に刻まれた大きな召喚陣が力を増加させ、天井に刻まれた召喚陣が建物を保護する力を備えている。

 俺は召喚陣の中央に立ち、「ふぅっ」と息を吐いた。

 集中が大事だ。体内からいつも以上の力が湧いてきているのがわかる。

 頭の中で出したいアイテムを想像し創造――イメージ力が大事だ。構築したアイテムのイメージを持ちながら宙に召喚陣サモンスクエアを描く。

 召喚陣って言っても、所謂、五芒星を一筆書きし、円で囲んで描くだけの簡単なものだ。五芒星は召喚力を使用して描くと、宙に紅く光りながら刻印される。

 本日俺がイメージしたものは……鉄のナイフだ。これを強く……強くイメージする。

 描いた五芒星の光がユラユラと揺らめいている。そのイメージを残しながら五芒星の中央を掌で押し出すように押さえる。

 信じろ……出せると信じるんだ。いける……いける……イケルッ!


「出ろぉおおおっっっ!!」


 体の中で何かを思い切り押し出している感覚……。

 苦しい……集中し過ぎて頭の中の血管が弾けてしまいそうな、そんな気持ち悪さが俺を襲う。


「で、出やがれっ! この野郎ぉおおおっ!」


 その時起こったのは、小さな破裂音。

 そして耳につく金属音が混ざったような音を出しながら、目の前に現れたのは……銀髪の……女だった。

 極めて露出度の高い純白のローブに身を包んだ女がゆっくりと目を開ける。

 吸い込まれそうな金色の瞳。あどけなさを残す顔の中に備える冷たいガラスのような表情。

 俺が、自分の立ち位置に違和感を感じる程、絵になるようなその佇まい。


「え……ナイフは?」


 渇いた喉からうまく声が出ない。


「マスター……」

「いや、マスターって……え?」


 目の前の女は俺をマスターと言った。透明度の高い、しかし心地よく、胸にスッと入ってくるような声だ。

 しかしちょっと待て……マスターというと事は……コイツは…………俺の……使い魔っ!?


「う、嘘だろ、使い魔を出せるのは特等召喚士だけのはずだっ。そ、それに俺が出したのは……ナイフのはずだ! なんで使い魔の……なんで人間が出てくるんだよっ!?」

「私は……あなたのナイフ。鋭く鋼鉄の芯で出来たナイフ。そしてこの身体は、マスターが想像し創造した、マスター好みの肉体をベースとしています」


 た、確かに俺の大好きなJKアイドル《倉田くらた 愛菜あいな》ちゃんの顔に……そっくりだ。

 つまりこれは俺の想像と創造が妄想となってしまったという事なのかっ?


「じゃ、じゃあずっと俺が召喚を出来なかったのは……」

「マスターのイメージ力、即ち召喚力サモンクラフトが、私のキャパシティと微妙に合っていなかった為と思われます。……これは召喚力増加効果のある召喚陣ですね?」

「あ、あぁ……」

「今回の私の召喚により、マスターの召喚力の容量が拡張されています。今後はこの増加室を使わずとも私の召喚が可能となります」

「そ、それじゃあっ!」


 やっぱり俺の考えは間違ってなかった。

 コイツが詰まっていたせいで後ろに並んでるアイテムが出せなかっただけだったんだ。


 よかった……俺は、出来損ないじゃなかった……。


「今後は最優先で私が召喚され、マスターの身をお守り致します」


 ん? 今なんつったコイツ?


「……なんだって?」

「今後は最優先で私が召喚され、マスターの身をお守り致します」

「ちょ、って事は現状俺はお前しか召喚出来ないって事!?」

「はい、勿論マスターの召喚力が高まれば、私の次に別のアイテムを召喚する事は可能でしょう」


 おいおいおい、明日は実技テストなんだぜ。


「お前一人で何が出来るんだよ、周りの実力者達は剣や弓、凄い奴は簡易式の銃まで出せるんだぜ!?」

「私はマスターのナイフです」

「ナイフが銃に勝てるのかよ!?」

「先程も申し上げたはずです。《鋭く鋼鉄の芯で出来たナイフ》だと……」


 鋼鉄のナイフさんはとても無邪気な顔で笑って見せた。

 その顔は、最初の印象とは違う……少し、暖かな気持ちにさせるような笑顔だった。


「それとマスター……」

「な、なんだよ?」

「私に……名前を頂けないでしょうか? 私は使い魔であると共に、マスターのパートナーでもあります。《お前》という言葉にはいささか壁を感じてしまいます」


 あぁ、そういえば使い魔には最初名前を付けてあげなきゃいけないんだったな。

 こんなの学校で習う範囲じゃないから趣味で調べてる奴しか知らない事だが、俺には両親とよく召喚士の話をした時の記憶があり、それがその中にあったのを思い出した。

 名前……か。

 まさかこんなに早く名付け親になるとは思わなかった。気に入ったアイテムに名前を付ける人はクラスにもいたけど、使い魔で……人間だもんな。

 愛菜ちゃんにそっくりだし、《鋭く鋼鉄の芯で出来たナイフ》か。


「よし、今日からお前はナイアだ」

「ナイア……有難く頂戴致します」


 夜が始まると共に天から雨雲が去り、滴が潤した小さな湖に生じていた波紋が消えてゆく。

 満月の前兆、心を満たす静寂という名の騒音が、何かの期待感を予期させる。

 これが、俺とナイアのファーストコンタクトだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


火水ひみずぅ、今日も盛大な不発弾楽しみにしてるぜ~」

「は、ははは、今日は何かいい予感が――」

「はんっ、てめぇが召喚出来たら世も末だろ。ま、せいぜい頑張りな!」


 クラスでの座学の授業後。

 今の男子生徒は《高山たかやま 純太じゅんた》。

 俺が唯一話をするクラスの友人……になるのかな?

 皮肉は言ってくるが、決して悪意のこもった事を言ってこない。

 勿論、その事に周りの皆は気付いていない。

 しかし、俺にはわかる。最後の「せいぜい頑張りな」が証拠だろう?

 本当に嫌いなヤツには、そんな事言ってこない。純太だけが言ってくれる俺へのエール。これがあったからこそ折れても折れきれずにやってこれたのかもしれない。


「なんだゴミムシ、今日のテスト受けるつもりなのかよ? サボって便所で飯食ってた方がいいんじゃねーかおい?」

「さっさと辞めればいいのに」


 これが悪意のある言葉のお手本だ。

 大丈夫、ある程度の悪口にはもう慣れた。この上暴力行為があったら耐えられなかったかもしれないけど、この国立上等召喚士養成学校では、そういった行いは減点対象となるんだ。

 卒業を目指す生徒達にはそんな事出来やしないだろう。ま、ちょっとした陰湿なイジメ行為が精一杯って事だ。

 因みに俺はイジメに屈した事はないぞ。基本ポジティブ野郎だしな。

 俺が屈しそうになったのは自分の才能の無さだ。

 ……それも今日で終わりになる……はずだ。

 実技テストの塚本講師がクラスの生徒を廊下へ並べ、クラスの皆を率いて校舎の外れにあるテスト会場へと歩いて行く。

 テスト会場には召喚力増加室同様に召喚陣が描かれ、その効果はかなり特殊だ。

 現在、出席番号一番の高橋と、三番の矢田が互いに剣を出し合って戦っている。そう、基本的な戦闘は対人の白兵戦なんだ。

 勿論、学年が上がれば徐々に高度な授業へと変わっていく。

 このテスト会場では、召喚したアイテムで相手を傷つければ予め設定された《ライフバー》を削る事が出来る、簡単なアクションゲームシステムを採用している。

 ライフバーはテスト会場の中央上部に設置さている。

 相手を傷つけると言っても、実際に傷が出来たり、血が出たりする訳ではない。

 勿論衝撃により少し痺れるけど、怪我をする事はない。それがこのテスト会場最大の利点であり特徴なんだ。

 ほら、今高橋が矢田を斬りつけた。初期設定の二千に設定されていたライフバーが千五百まで減少した。これをゼロにした者が勝者となるが、テストの得点は勝ち負けで決まる訳ではない。

 勿論、戦闘技術という点で評価はされるが、講師がこのテストの中で確認するのは状況判断能力と適正召喚だ。正確に相手の召喚アイテムを分析し、それに応じた最良の召喚アイテムを召喚する。

 ほら、矢田が剣を無召喚で上書きして消した。再度五芒星を描き召喚したのは……弓だな。

 一度召喚したアイテムは《無召喚》を行い上書きで消してしまえばいいのだ。それくらいは俺にも出来る。……多分。

 因みにテスト開始直後のファーストサモンに関しては自由だ。

 同じタイミングで召喚するから相手の不得手に合わせる事は出来ない。そして、召喚から次の召喚へは、俺達一年生レベルだと、どうしても十秒程かかってしまう。

 召喚技術の向上と召喚力の増強により、それはどんどん早く、速くなっていく。

 この学校の三年生なら六秒程まで縮められるそうだ。昔やっていたテレビで、上等資格を持った召喚士は五秒程で召喚してたかな。

 近接戦闘技術も並行して鍛えなくてはいけない為、非常に難度の高い学校である。

 さて、そろそろ俺の出番だと思うが――


「次、火水、嵐山っ!」


 周りにクスクスと笑い声が目立ち始める。

 勿論、ややイケメンの嵐山に対してではない。そう、全クスクスが俺へ向いていた。

 だが……それも今日までだ。テスト会場の強化ガラスで覆われているブースの中へ、嵐山と共に入る。


「開始早々に決着とか辞めてくれよ、火水?」

「…………」


 やや整った顔立ちが卑しく歪んでいる。悪意を込めると人の顔はああまで変わってしまうんだな。《人の振り見て我が振り直せ》とはよく言ったものだな。

 ビィーーー。

 戦闘開始五秒前を知らせる電子音が会場に響き渡る。

 三、二、一……。


「始めっ!」


 すぐさま右手で五芒星を描き、先端をなぞるように円で囲む。嵐山もここまでは同じ速度だ。

 イメージ……愛菜ちゃん……ナイア……出来る、もう出来る……出ろっ!


「出て来い、ナイア!」


 嵐山がショートボウを召喚した時、相対する俺の召喚陣から不協和音が鳴り響き、紅く揺れる光の中からナイアが現れた。

 クラス全体と講師を巻き込んだ、見事なスタンディングを見た瞬間でもあった。

 スタンディングオベーション、称賛する行為の事を指すが、これはそうじゃない。

 本日のクラス全員のスタンディングは各々の感情が違っただろう。

 俺が召喚に成功した事に驚いた者。

 俺が使い魔を召喚したした事に驚いた者。

 その使い魔が人間だった事に驚いた者。

 その人間が今をときめくJKアイドルにそっくりな事に驚いた者。


「マスター、ご指示を……」

「実技テスト中だ、嵐山君を適確な攻撃で倒さなければならない……出来るか?」

「イエス、マスター」


 背中で俺の指示を聞いたナイアは、俺が指差した嵐山を深い金色の瞳で見据えた。


「くっ、使い魔とか冗談だろっ!」


 嵐山が俺に向かいショートボウの弦を引く。

 ナイアはいつ描いたのか召喚陣を発動させていた。

 召喚陣? え、嘘だろ? 使い魔って召喚出来るのっ?


「出ろ」


 瞬間、ボンと煙を巻き上げ、嵐山が放った矢を金属質の網が受けとめた。


「ま、まじかよ……」


 嵐山が驚き、クラス全員の注目が俺……じゃなくナイアに向けられる。

 確かにあの召喚技術は異常だった。


「ナイアお前……召喚士だったのかっ!?」

「申し訳ありません、聞かれなかったものでご報告を忘れていました。このゲームはプレイヤーへのダメージにより決着するという簡単なシステムですね、適確な攻撃により相手のライフバーを消せば勝利……という事ならば」

「くそっ!」


 嵐山がショートボウを無召喚で上書きして消滅させ、速度を優先させて雑な召喚陣を描く。

 雑に召喚陣を描くと失敗の可能性が出てくるため、本来はオススメ出来ないやり方だ。もしこれで失敗すると自分のライフバーが削られてしまう。

 ナイアが上等召喚士顔負けの速度で召喚陣を発動させる。


「出なさい」


 またもや煙が巻き上がり現れたのは……金色にテカるリーゼント・スタイル。

 黒い短ランに赤いインナーシャツ、ドカンを履き、黒いローファを履いていた。

 ぎらついた目つきで周囲を威嚇し、鋭く吊り上がった細い眉毛がそれに拍車をかける。大股に足を開き安定のハンドポケット……現れたのは……いかちぃヤンキーだった。


「っしゃあおらぁあああっ!」


 強化ガラスが震えるかの様な怒声……いや、怒っているのか?

 見かけないタイプ故か、単純に恐ろしいのかわからないが、女子達がビクついている。


「姉御ぉ、呼びやしたかぇっ!?」

「翔、あれを効率的に排除しなさい」

「わぁああああsb@rあvobd絵i☆brjgっしたぁっ!!」


 何言ってるかわかんねーよ。

 翔君は、奇声に近い返事を出し、本日星座占いが最下位であろう、可哀想な嵐山君の元へ走っていく。


「くっ、来るなっ!」

「しゃらくせぇえええっ!」


 怒涛の勢いで距離を詰める翔君は、どうやら嵐山君と友達になりたいようです。

 強化ガラスの中に俺、ナイア、翔……対して勇敢な嵐山は一人。

 なんか、どんどん嵐山が可哀想になってきた。

 嵐山が召喚した鉄剣が、翔の硬い拳ではじかれ、カランカランという金属音を出しながら転がって行く。


「おぅお前ぇ、あに姉御に喧嘩売ってんだらぁあああっ!!」


 胸倉を掴まれ片手で持ち上げられるややイケメンの嵐山。


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

「ごめんで済むなら雅夫は国道1号コクイチで捕まらねぇんだよ! お、舐めとんのかワレ?」


 震えてる、おい震えてるってば。


「あ、あのナイア……そろそろ――」

「かしこまりました、そろそろ止めを刺します。では翔、華やかに散らせなさい」

「っっっしたぁっ!」

「違ぇよ!」

「かしこまりました、翔、違う止めの刺し方を指示します」


 ……まぁ、この中ではダメージを負う事はないからいいか。


「ひ、ひぃっ!」

「往生せぇやぁああっ!」


 嵐山の奇声ともとれる悲鳴がテスト会場内に響く。

 翔が渾身の右ストレートを放ち、見えない障壁で守られながらも嵐山が吹き飛んでいく。ある一定の衝撃を受けるとこの召喚陣が効果を発動し、それを緩和させる。

 吹き飛ばされた嵐山も、宙にネットがあるかのように受け止められ、ゆっくりと落ちてくる。


「そ、それまで!」


 講師の声が試合終了を知らせるが、テスト会場の皆は沈黙をもって答えていた。


「翔、ご苦労だった」

「姉御の為ならなんのそのでさぁっ!」


 そして、ナイアは無召喚を発動し、翔を消していった。


「あ、ナイア……ありがとうな」

「身に余るお言葉です、マスター」


 俺はナイアに礼を言うと、無召喚を発動した。銀色の砂が崩れ去るようにナイアが消えていく。

 沈黙の中強化ガラスのブースを出る。何とも言えないような視線に囲まれながらも自分が先程まで座っていた席に戻る。

 これが俺の、初めて、、、の実技試験だったんだ。

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