課業外も稼業中
蒼風
第1話 経験値0から始める恋愛相談
代行稼業部の方へ
私は同じクラスのとある一人の男の子に片思いをしています。彼は色んな子と仲が良くて中々話す機会を得られないまま時だけが過ぎてしまいとても辛いです。頑張ってLINEをするようにまで発展しましたが、気を遣い過ぎて固い話しか出来ていません。どうすれば良いのでしょうか。アドバイスをください。
また、時間があればで良いのですがそちらの部室に伺うことは可能でしょうか。
よろしければ返事をお願い致します。
2年2組
「…参ったなー」
放課後。
夕陽が差し込む教室で一人机に伏せながら一枚の手紙と睨めっこをする。
朝、玄関の靴箱から靴を取り出そうとすると几帳面に折り畳まれた手紙が落ちた。
所謂ラブレターかと思いきや、恋愛相談の手紙だった。
人生初の手紙による恋愛相談。
ラブレターすら貰った事がないこの俺に何故こんな今どきの女の子みたいな悩みを話すのか甚だ疑問が湧いたが、直ぐに消えた。
彼はとある部活に入っている。
それもまた、ちょっと変わった部活である。
代行稼業部。
この学校内で起こりうる悩み全ての相談に乗り、全て解決しちゃいますというなんとも神様みたいな部活である。もちろん無償である。
彼はその部活に所属している。
とりあえず、部室に行こうと頭を切り替え教室から出る。
コーヒーが飲みたい。
こんな甘い青春の1ページに記されてそうな相談を受けるのならこっちは苦いものでも摂っておかないと自我が保てなくなりそうだ。
教室の近くのホールにいくと自動販売機がある。そこでブラックの缶コーヒーを買った。
缶コーヒーを片手に握りしめながら、靴を履き替え玄関を抜ける。
代行稼業部の部室は隣接するグラウンドの奥にあるプレハブを使っている。
ここのグラウンドは広い。彼はグラウンドで活動しているサッカー部やホッケー部を眺めながら外柵沿いを歩き、学校の裏門近くまで辿り着くと、部室の前に一人の女子高生が立っているのを捉えた。
あぁ、手紙の彼女だな。
何となく察してしまう。
結局、返事する前に来ちゃうのかよ…
彼は佇む女子高生に近づいた。
「…飛鳥さんですか?」
彼女は彼の存在に全く気づいてなかったのだろう、両手と片足を上げて「にゃ!?」と奇声を挙げた。
いや、猫かよ…
可愛いからおじさん許しちゃうけど。
「…う、うん。飛鳥 叶恵。ごめんね、返事してもらう前に勝手に来ちゃって…」
叶恵はしゅんとしながら指をいじいじし始めた。
「…大丈夫すよ。とりあえず中に入りましょう」
二人はそそくさと部室の中に入った。
部室の時計は5時を指していた。
今日はそこまで居れないかもな……
彼は飛鳥にソファーに座るよう促し、自分もポケットの缶コーヒーを取り出しつつ対面に座る。
「へぇー、やっぱり1人でやってるんだね」
飛鳥は部室の中をきょろきょろ見渡しながらぽしょりと呟いた。
「手紙読んでくれた、よね?」
飛鳥はコテっと首を傾げながら彼に微笑んだ。
ちくしょう、かわいいじゃねえかよ……
さっきの猫の声といい…
彼は首をぶんぶん振りながら飛鳥の顔を改めて伺うと「読んでないの…?」と急に悲しげな顔になった。
いや、読んでなかったら貴方の名前知りませんでしたけどね…
「ちゃんと読みましたよ。きっちり最後まで」
「お、じゃあ…」
飛鳥はさっきと打って変わって期待を膨らませたような笑顔になる。
彼は一度缶コーヒーを呷り、一息吐いて口を開いた。
「……無理です」
課業外も稼業中 蒼風 @kyorochan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。課業外も稼業中の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます