あなたとわたし、いつまでも
@Kamomil26
あなたとわたし、いつまでも
「元号、あとちょっとで変わっちゃうね」
まだ少し寒さが居残る夜空の下、私ーー植田向日葵がそういうと、横にいる私の親友の櫻田葵は薄く笑った。
「と言っても、実感はわかないけどね」
「でも、なんかそわそわしない? こう、空気が違うっていうかさ!」
コンビニで買ってきたものが入った袋を葵に預けると、私はブランコを漕ぎながら空を見る。昼は子供たちでいっぱいの公園も、さすがに夜になるとがらんとしている。
「何それ」
葵は口に手を当てて笑みを浮かべる。風に舞って葵の綺麗な黒髪がたなびいた。
「葵はさ、大晦日とかクリスマスとかの時ってわくわくしたりしなかった? それと一緒だよ」
「うーん、ちょっとわからないかな」
「ええー!?」
「ほら、うちってみんな忙しいでしょ?だからさ、そういう日でも家で一人なことが多くて、私はすごく寂しかった。だからなんだと思う」
「あ、その……ごめん」
自分の言葉が無神経なものだったことを理解した私は、謝罪の言葉を告げて目を伏せた。葵の家の事情は、よく知っていたはずだったのに。
「違うの、別に向日葵を責めるつもりじゃなくてね?」
葵は慌てて訂正すると、私の頬に手を伸ばす。葵のお気に入りの香水の匂いが、ふわりと私の鼻に届いた。
「それに、今はもう寂しくないわ。だって……だって、こうして私のそばにいてくれる、優しくてかわいい恋人がいてくれるもの」
私を撫でながら、葵は優しく微笑んだ。私の胸が破裂してしまいそうなほどに高鳴っていく。顔が風邪でもないのに熱くなっていくのがわかる。
「もう、葵ってば」
私も笑い返して、葵をそっと抱き寄せた。
「向日葵?」
「私も、お返し」
私がそう言って顔を近づけていくと、葵は私が何をするのか理解して、咄嗟にあたりを見回した。
「ちょっと向日葵、ここじゃ誰かに見られるかも」
「葵とだったら、いいよ」
むしろ私がどれだけ葵を好きなのか見せつけたいくらいだ。葵の耳元で囁くと、葵は肩を少し跳ねさせて潤んだ瞳をこちらに向ける。
「もう、ずるいんだから」
葵は観念したようで、目をつぶってこちらにゆだねてくる。私は葵の髪にそっと触れると、ゆっくりと顔を近づけて、そしてーー唇を重ねた。
「んっ」
葵から甘い吐息が漏れる。私は葵の反応を見ると、今度は舌を葵の中へねじ込んでいく。
「んんうっ……!」
葵は一瞬驚くものの、私が頭をなでると次第に受け入れていき、しばらくすると葵の方からも舌を絡めてくる。
周りで誰かが見ている可能性など微塵も考えず私たちは溶けて消えてしまいそうなほどに熱く抱き合いながら、お互いを貪りあう。
「はあっ、はあっ……」
長い長い時間が過ぎて、私たちはお互いの肺の空気をすべて交換し合ったのではというくらいに絡み合ったあと、ようやく唇を離した。
「……もう、向日葵ったら」
「えへへ、ついしたくなっちゃって」
葵は非難の目を向けてくるが、口はどうしようもないほどににやけていて、私も思わず口端を緩めた。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「そうしましょう」
私たちは連れ立って立ち上がる。涼しいというよりは寒い夜風が、まだ熱の残る体を通り抜けていった。
「あ、そうだ。葵」
「ん? 何、向日葵?」
先を歩いていた葵は振り返ると、不思議そうにこちらを見て来る。私は葵に近寄って袋を奪うと、満面の笑顔で、確信をもって言った。
「私たち、ずっと一緒だよ」
葵はきょとんとした顔から一転、顔をイチゴのように真っ赤にすると、その日一番の笑顔で口を開いた。
「そうね、ずっと一緒よ」
私は葵に手を差し出した。葵も私の手をとった。私たちは二人並んで、帰り道を歩いていく。私たちは手が決してほどけないように、固く、固く手をつないでいた。
あなたとわたし、いつまでも @Kamomil26
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます