第15話 彼女の戦う理由と、十連ガチャ

 電車の中に一人揺られながら、めいぷるさんのポーチを持っていることに焦っている自分がいる。


 カラオケで歌う前にみんなで荷物を一箇所に置いたんだけど、俺のバッグの上にめいぷるさんの小さなバッグを置いていて、何かでチャックを開いた時に入ってしまったらしい。全く気がつかずに持って来ちまった。


 直ぐにめいぷるさんにチャット通話をしたら彼女は慌てた様子で、


『忘れちゃってましたごめんなさいー! あ、あのー。すいません。可能でしたら、ちょっと取りに行きたいのですけどいいですか?』


 いいに決まってますよ。めいぷるさんも俺も抜けてるところがあるからな。ポーチの中身は確認していないが、財布とかは身につけていたんだろうか。


『勿論です。でもめいぷるさんにご足労は掛けられませんから、俺が今から行きますよ! どちらにいますか?』

『え、来てくれるんですか。うう、本当にごめんなさい! 東口駅が最寄りですけど、ケータさんの所からじゃ遠いですよね?』

『大丈夫ですよ! 東口駅で待っててください。すぐ行きますから』


 あちゃー。結構遠いなと思いつつも、まあ仕方ないと俺は自宅の最寄り駅で下車すると、直ぐに反対側に停車している車両に乗った。まさかUターンしていく事になるなんて想像もしてなかったけど、今日は厄日かもしれない。


 電車に揺られること三〇分以上もかかって、やっと到着した東口駅を降りた改札の向こうにめいぷるさんはいた。


「あ! 圭太さーん」


 竪琴の音色みたいな声がした先をみると、めいぷるさんが一生懸命右手を振っている。良かったと思いつつ早足で近寄る俺は、彼女が妙にそわそわしているのが気になった。なんか急ぎの用事でもあるのかな。


「ごめんなさい! 私が忘れっぽいばっかりに」

「気にしないで下さい。それよりこの後用事でもあるんですか? なんか落ち着きがない感じですけど」


 ポーチを受け取っためいぷるさんはちょっとホッとした顔になって微笑を浮かべ、俺もなんだか嬉しい気持ちになった。ゲームでも日常でも癒しの専門家って感じがするね。


「ええ。実は家族が入院してて。面会の時間に間に合わないかもと思って焦ってて」


 ゆるキャラのキーホルダーがついた可愛らしいポーチを見つめながら、めいぷるさんは何か思いつめるように俯いた後、ちょっとだけ顔を上げて上目遣いでこっちを見た。やめてくれ、なんか分からんが惚れてしまいそうだ。


「あ……ご家族が入院されていたんですか」

「はい。……病気で」


 そうだったのか。まずいことを聞いてしまったと後悔した俺は右手で後頭部を掻いて、気まずくなってしまったから帰ろうと思い、


「早く良くなるといいですね。じゃあ、俺はこれで」


 背中を向けて早足で改札に向かおうと思ったんだけど、めいぷるさんの声が俺を追いかけた。


「あ、あの。圭太さん! ちょっとだけいいですか?」


 クルッと向き直ってUターンする俺。あんまり重い話は、正直聞きたくないんだけどな。彼女に言われると断れない。


「凄く……変なお願いだとは思うんですけど。そのう……一緒にお見舞いしてもらえませんか?」

「へ?」


 俺があなたのご家族のお見舞いを? 何で? 脳内を一瞬で埋めつくすほど?マークが浮かんだけど、目をウルウルさせためいぷるさんのお願いを断ることなど俺には到底できるはずもなく、気がつけば駅から徒歩十分ほどの総合病院に足を踏み入れていた。


 めいぷるさんは慣れた感じで受付を済ませ、六階にある病室に辿り着く。この扉の先にめいぷるさんのご家族がいるわけだが。彼女が扉を開いて先に入って行った。


 当たり前の話だが、全然知らない人との面会なんて初体験だ。この世は謎だらけだとつくづく思うし、先に部屋に入っためいぷるさんも俺にとっては推理小説より難解な存在だった。扉の前で立ち尽くす俺。正直帰りたい。


「おお……今日は遅かったじゃないか」

「父さんごめんね。ちょっと用事があって。今日は会わせたい人がいるの。あ、どうぞ!」


 マジか……やっぱ入んないと駄目か。俺が厳かにスライド式の扉を開くと、中には痩せこけたおじさんがベッドで寝ていた。老け込んでいるのかおじいさんに見えるし、何本もいろんなところに通されている管が、妙に痛々しい印象を強くする。


「初めまして……圭太って言います」

「ほう。圭太さんか。初めまして」


 おじさんは俺を見て少しだけ口角をあげている。多分笑顔を作っているつもりなんだろうけど、どうしても中途半端だった。正直いきなり知らない高校生が入ってきたら誰でもこんな反応になるだろう。


「あのね、今日私お友達に会ってきたの。南口駅の近くにカラオケがあって、みんなで歌ってきた帰りなのよ。今までは恥ずかしくて人前で歌えなかったのだけど、初めて歌えたの」


 おじさんはウンウンと頷いている。きっと娘が可愛くて仕方ないんだろう。俺は突っ立ったままも何なので、パイプ椅子を引きずりめいぷるさんの隣に座る。二人の会話は続いた。


「安心したよ。お前は昔から友達が作れなかったから」

「うん。私もう寂しくないよ。この人もいるし」


 自然とめいぷるさんは話を振り、おじさんは再び俺を見つめる。めちゃめちゃ緊張してきた。


「知らなんだなー。彼とはいつから?」

「ん。先週から」


 そう言ってめいぷるさんは俺に頼りなげな視線を向ける。分かってますよ、はい。


「はい。同じ高校で彼女とは知り合って結構経つんですが、話すようになったのは最近なんです。たまたま入った委員会が一緒だったんですよ。意外と趣味も共通していたし、気がつけば二人で会う機会も多くなっていまして」


 ついさっき思いついた架空の設定をぎこちなく喋り続ける俺を、おじさんは興味深げに聞いていた。


「……良かった。本当にこの子は昔から大人しくて、引っ込み思案で気が弱くてね。とにかく危ない目にあったり騙されたりしないか心配だったんです。あんたは随分としっかりしている人みたいだから、側にいてやってくれたら安心ですよ」

「は……はい」


 俺はボソボソと喋るおじさんの小さな声を聞いて、何とも言えない悲しい気分になってきた。さっきめいぷるさんから聞いたところによると、詳しい病名は教えてもらえなかったがおじいさんはもう末期の病に侵されていて、助かる可能性は絶望的らしい。


 それからは二人の会話をただ黙って見守る感じだった。面会の時間が終わり際になり、めいぷるさんと俺はおじさんに別れを連れて退室。二人でエレベーターまでの道を歩きながら、俺は盛大な溜息を漏らしちまった。


「ごめんなさい。変な嘘に付き合ってもらって」

「いえ、俺は大丈夫ですよ。でも、わざわざ架空の彼氏なんて作らなくても良かったんじゃないですか?」

「ええ、そうですよね。でも父はいつも私のことを心配していて、最近は特にいろんなことを訊いてくるんです。友達はちゃんと作れているのかとか、大学には行けそうなのか、とか。そろそろ彼氏の一人でも作ったほうがいいんじゃないか、とか……よく言われて。嘘でもいいから安心させてあげたくて、それで」


 最後の言葉の辺りでめいぷるさんは顔が真っ赤になった。あんまり意識されてると俺も困る。エレベーターを降りて病院を出て、もう一度東口駅までの道のりを歩いていた。普通の住宅街を肩を並べて歩く俺達は、カップルと言っても全然違和感がないだろう。


「お前が元気に生きていけるのが分かればもう未練はない……って、この前は言われました。父は会社でとっても頑張っていた人で、休みの日は社会人野球に参加したり、私を釣りに連れて行ってくれたり、本当に元気で明るい人だったんです。なのに、半年ほど前に突然体調を崩しちゃって病院に行ったら、病が進行していることが分かったんです」


 歳を取っても元気でハツラツな人に限って、急に大きな病気を患うことはよくある話だ。


「助かる見込みはないってお医者さんに言われて、私もお母さんも泣きました。今は医療費でお金が無くなってしまって、お母さんは必死で働いています。私はアルバイトをしていますけど……とても足りなくて」

「…………」


 こういう切ない話をされた時、一体どういう反応をすればいいのか分かる人がいたら教えてほしい。なんて言ってあげればいいのか分からなくて、徐々に気まずくなってきた。


「そんな時、ある人からCursed Heroesについて教えてもらったんです。ランキング報酬にあるアイテムのことも」

「ランキング報酬にあるアイテム?」

「ご存知ないんですか? どんな病気も治癒することができる『黄金の羽』を。でも、三位までに入らないと獲得できないと言われました」

「あまり関心がなかったので知りませんでした。それをあなたに教えてた人って誰です?」


 とっさに嘘を言っちまった。本当は関心が無かったというより、下手に知って興味を持っちまうことが怖かったんだ。のめり込むことが怖くて、ランキング関係は意識して見ないように務めていた。黄金の羽ねえ。いつの間にか俺達は駅に入っていた。


「誰にも名前を教えちゃいけない約束なんです。ごめんなさい。その人は自身も一度ランキングに入っていて、私の前で『黄金の羽』を使っているところを見せてくれました。今でも忘れられません」


 めいぷるさんの前で使った? 実際に見せたっていうのか、一体何者なんだ?


「その時に私は決めたんです。ランキングに入って『黄金の羽』を手に入れて、父の病気を治そうって」


 彼女の目的は、お父さんの病気を完治させることだったのか。あの姿を見る限りもう長くないことは俺にでも解る。死が迫っている肉親を救う為に命懸けのゲームに参加表明した。自分の身を危険に晒してでも救いたい命があった。だからか、彼女が必死になってルカと組みたがっていたのは。


 駅構内は人で溢れかえっている。少しは気の利いた一言を発したいけれど、俺は陳腐な言葉しか頭に浮かばなかった。


「めいぷるさんが……そこまでの動機を持っているとは知らなかったです」

「……ごめんなさい。長々とお話ししてしまって」

「気にしないで下さいよ。じゃあもう遅くなっちゃうんで、俺はここで」

「はい。あの、ケータさん、今日は本当にありがとうございました! これからも改めてよろしくお願いします!」


 彼女が改札越しで深々と頭を下げてきたので、俺もぎこちなくペコリと挨拶を返し、ホームまでの階段を急いで登った。別に電車が迫っていたわけでもないし、俺の家に厳しい門限があるわけでもない。めいぷるさんの近くにいることが気まずかったんだ。


 だって俺には、彼女のような動機はない。覚悟もない。結局今も戦うつもりなんてないじゃないか。めいぷるさんは解ってない。俺なんかただの半端者なんだよ。ルカはどうなんだろう? まあアイツはきっと能天気な理由だと思うけど、それならランスロットは? アイツこそ金の亡者だろう。


 電車の中でモヤモヤと考え事をしていると、そういやまだUSBの中身を見ていないことに気がつく。最寄駅を降りて自宅に戻った時には妹が玄関で待ち構えていた。


「おにーちゃん遅い! 今日は一緒におままごとしようって言ったじゃん!」

「そんな約束したっけ? いや、おままごとはちょっとな」

「遊ぼうよー! 早くー」


 学校が終わった後小学生同士遊びまわってるくせに、まだ遊ぶのかよ。俺には到底理解できないと思いつつ、結局のところ遊びに毎回付き合わされてしまう。おふくろはそんな俺を見て苦笑いだが、結構悪くない毎日だと最近は思う。


 日々の雑事を全て終わらせた後、俺はやっとランスロットからもらったUSBをデスクトップPCに差し込んだ。どれどれ、一体何が入ってやがるんだ? USBの中に入っていたのは一本の動画とメモ帳しかなかった。あの野郎、マジでエロ動画とか入れてないだろうな。


 警戒しつつ動画をクリックして再生させる。映っている背景は何処なのか分からないが、広い病院かな? または研究所か何かか。真っ白な部屋の中にPCとか机とかが乱雑に置かれている中に、ただ一つデッカいカプセルみたいなもんがある。


 日焼けカプセルを直立型にして、サイズを何人か入れるくらいに広げたらこうなるかなっていう大掛かりな代物だ。しばらく誰も映っていなかったんだけど、小さな足音が聞こえてきた。


「カイお兄様! 今日は何をするんですか?」


 この動画を撮影している奴はカイっていうのか。小さな女の子がトテトテ走ってきた。多分うちの妹と同じくらいだろう。


「今日はね、とっても画期的な実験をするんだよ。漫画やアニメでもよくあるよね、登場人物がワープして遠くの世界に行ってしまうやつ。あれの反対さ」

「はんたい?」

「そう。違う世界から、カッコいいヒーローや、素敵なヒロインを呼び寄せることができる装置だ。今回俺は革命を起こせたと思っているんだよ」

「すごーい! 本当にそんなことができるの」

「できるはずだよ。お前達、準備を始めろ」


 撮影をしているカメラの後ろから、白衣を着たおっさん連中がやって来て、PCとかよく分からん機材とかをいじくり始める。なんていうか、三流のホームコメディでも観させられているような気分になってきた。


「さあ世紀の瞬間だ! スイッチを入れろ」

「はい」と白衣の男の一人が言うと、小さな子供はワクワクしながらジャンプしている。

「わーい! 世紀の瞬間!」


 これSF映画かな。俺は早くも睡魔に襲われ始めたが、次の瞬間からちょっとずつ眠気が抜け、画面に吸い込まれ始めている自分がいる。


 カプセルは物凄い勢いで電流が走り出し、真っ白だった部屋の中は奇妙な黒いも靄がかかりテーブルからPCから全てが揺れ始めた。


「きゃー! お、お兄様ぁ」

「大丈夫だよ。さあ、見ているんだ」


 絶対大丈夫じゃないだろ。この男の優しい声に違和感を感じ始めた俺は、震度6くらい出てるんじゃないかと思うほど部屋が揺れている中、カプセルの周りがドス黒く光り出していることに気がついた。カプセルからはドライアイスみたいな煙が下から吹き上げて来て、部屋の中はもう滅茶苦茶になっている。


 周りにいた白衣の連中がテーブルの下敷きになったり怯えて逃げたりしている中、黒い輝きに包まれていたカプセルがゆっくりと開くと、中には確かに人がいた。


「成功だ……成功だぞ! 俺の研究が成功した!」


 とはしゃぐ男。画面が揺れるから酔っちまいそうだ。


「こ、怖い。本当にヒーローなの? お兄様、ねえ!」


 女の子が怯えてる。カプセルの中から出て来たのは、金髪の髪をした中学生くらいに見える少年。身長もそこそこ高そうだし、今後の人生に約束された勝利のようなものを感じさせてしまう風貌だけど、何処ぞの子役俳優だろうか。そして、映像はここで終わり。なんという中途半端。


 真っ暗になってもう一度再生を押すか選べる画面になり、俺の脳内もまた真っ暗になった。これ何のドラマ?


 ランスロット、お前一体何を伝えたかったんだ? 全然分かんねえよ!

 イライラした俺は奴のメモ帳など見る気にもなれずベッドに飛び込みCursed Heroesを起動する。こういうムシャクシャしてる時は、パーッとガチャでも回しちゃうのが一番だなと思った俺は、初めて十連武具召喚ってやつをすることにした。


 Cursed Heroesは最初に使用するキャラクターを決めるため、自分が使用できる武器種はかなり限定される。例えば俺はアーチャーだから弓しか使えないし、ルカは剣しか扱うことができない。だからガチャの時は、俺の場合弓しか出現しないように抽選テーブルが作られているみたいだ。


 ベッドの上で寝そべりながら、俺は顔だけは真剣勝負に臨む武士みたいになっていたと思う。この運営はガチャが回せる石を全然配ってくれないから貯めるまでに超苦労した。現在石の合計数は150個。三十連もできるから、一個くらい最高レアリティであるDarkness5の弓が手に入るはず。


「よし、まずは一回目」


 一撃必中の念を込めた指が召喚ボタンをタップすると、画面中央にデカイ魔法陣が現れ、時計回りに一個ずつ宝箱が落下してきた。実は落ちて来た宝箱の色でほとんどの場合レアリティが確定してしまう(稀に途中でレアリティの昇格演出があったりはする)ので、ここが一番重要な瞬間かもしれない。


 色は三種類で、Darkness3が茶色、4が銀色、5が金色の宝箱となっている。


 だから……だから10個の宝箱が全部茶色だった瞬間は滅茶苦茶テンションが下がる。

 つまり今回だ。

 途中昇格など起きる筈もなく、現在所持している鉄の弓を超える武器は登場しなかった。ちくしょうめ!


 まあいい。俺には後二回ほどチャンスが残っているからな。十連召喚の結果画面など光の速さですっ飛ばして、二回めの十連召喚をタップした。今度こそ頼む! 俺は普段信仰していない神様に祈りを捧げる。


 天界から降り注ぐ宝箱は最後に魔法陣に着地する瞬間まで色が分からない。しかし今回は何か違う予感がある。気のせいかもしれないが、若干演出に遅れが生じたような気がする。単なるオカルトだが、こういう時って超引きが良かったりするんだよな。良い予感がするぜ、さあ来い!


 気のせいだった。

 一回目をほぼ再現する形で揃った一〇個の茶色い宝箱からは、ほぼ見覚えのあるラインナップが並んでおり、目新しい存在など皆無。嘘だろ、もう一回分しかない。


「あー。おにーちゃんガチャしてる。ねえねえ、あたしにもやらせてよー」

「うわっ! なんだよいきなり」


 不覚にも部屋のドアに鍵をかけていなかったせいで、妹が俺のベッドにダイブすることを許してしまった。背中をよじ登るようにやって来て、ガチャをやっていることを嗅ぎつけやがった。


「ねえねえ、ガチャさせてよ。あたしもやりたいー!」

「ダメだ! これは貴重な最後の一回なんだよ。由紀は遊んでないでお母さんのところに行ってろ」

「ヤダヤダ。あ! お兄ちゃん、あれ見て。UFO」

「ふん、そんな低レベルな作戦に引っかかると思うな」

「えい」

「あ!」


 やられた。最後の十連タップボタンを妹に押されてしまった俺は、かつてない絶望に支配されながらガチャ演出を見守るしかなくなった。なんてことだ。嫌な予感だけが脳内に居座る中一個ずつ茶色い宝箱が落ちていき、最後の一つが落下した時、初めて金色の輝きを肉眼で確認した。


「うおおお! き、きたー!」

「なになにー? 凄いの出たの?」


 茶色い宝箱六個と銀色の宝箱三個は省略するが、最後の一個は俺にとってたまらない一品だった。金色に輝く宝箱が重厚感のあるスローモーションで開かれた先には、グレートボウというタイトルと共に黒い弓が姿を現した。

 良かった! これで俺はやっと鉄の弓から卒業できる。ありがとう妹よ。


 妹に礼を言いつつ特別にお小遣いまで上げてしまった俺は、喜びに胸を踊らせて眠りについた。ちなみに鉄の弓は攻撃力が40程度しかないが、グレートボウは120であり、Darkness5弓武器の中では弱いが十分な威力だ。

 この引きがきっかけで俺は、今まで以上にゲームにハマってしまうことになる。


 あまりに嬉しかったので、いつもより友人達とのチャットに即レスで返しまくっていたが、沙羅子からはチャットが来ていなかったから変だと思った。


 実は俺にとって忘れもしない事件が密かに始まっていたのだが、あの時気がつくことはどうしても無理だっただろう。それは五月二七日月曜日に学校へ行った時に気がついたんだ。

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