第83話 王都から消えたビアンカ

ひょんなことから俺の奴隷となった男を背負い、俺は王都の方へ向かう。今はサファイアたちの目があるので、普通に移動をするだけだ。


王都に近づくと、誰の目もないのを確認し、森に隠れる。そのままエリーが待機に使っていた場所まで移動した。まだ、ラトルの村からは戻ってないようだ。


エリーが戻るのを待っていると、先に奴隷の男が目を覚ました。



『俺のこと覚えてます?アランといいます。サファイアから君を守ろうとしてたんだけど、残念ながら今君は両手両足ないままなんです…』



『覚えてます。何故僕は生きてるのでしょうか?サファイア様に斬られて、このまま死ぬんだと意識が遠退いていったところまでしか記憶がありません。』



『俺の薬で、血と痛みは止まったはずなんですが、今は痛みありますか?』



『痛みはありません。ただ、体が重い感じがします。』



『それは大量の血を失ったから暫くは仕方ないですね…



それで状況を説明しますと、君は今、俺の奴隷となっています。


君をどうにか救おうと思って、サファイアと交渉したところ、俺が君を生涯奴隷として最低限の命を繋ぐ生活を保証する誓約をする代わりに、奴隷としての全ての権利を譲り受けました。


それを破れば俺は死ぬことになるので、受け入れて下さいね。』



『な、何てことを…僕はもう自分では、何も出来ない体なんですよ!?そんな僕のために命を賭けるなんて…あなたは、いい人を通り越してバカです!』



『そう言わないで下さい…ちゃんと体が回復したら、それなりには働いて貰うんで。』



『!?僕の体は治るんですか?欠損した部位を治すには、かなり特殊な治療方法が必要だと聞いたことがあるのですが…それこそ一生贅沢出来るほどの財が必要だと…』



『俺には、身近なところでもその方法を2つ知ってます。だから安心していいです。まずは君のことを聞かせてもらっていいかな?』



『本当に僕は治るんですか!?とても信じがたい話ではあるのですが、本当ならうれしいです!ありがとうございます。


僕は「ギル」と申します。年は12歳で、ジョブは細工師です。スキルを使って、アクセサリーを作ることが出来ます。


ただ、まだ低レベルなので大したものは作れません。まして、今の体では…』



『そうか…ギルに1つ聞きたいことがあるんだ!もし、少しでも情報を知ってれば教えて貰えると助かる。』



『私の命を救って頂いた上、手足まで治して頂けるとのこと。まして、僕の主になられてるアラン様のためでしたら、僕の持つ全ての情報をお教え致します!!』



『ありがとうギル。それじゃー王国の囚人が帝国に運ばれてることは知ってるかい?』



『はい。その件に関しては、よく存じてます。詳細までは分かりませんが、サファイア様は、その件を早く纏めるために王国に来たのですから…


…本当にサファイア様との契約は解消されてることを確信しました。このように奴隷の間に知り得た情報を口にしても心臓が苦しくならない…』



『何!?サファイアはその件の当事者なのか!?』



『正確には名前のみの代表です。サファイア様は帝国の皇帝の娘、第2皇女様であられます。交渉能力などの政治的な力はありませんが、その名前だけでも大きな影響力を持つのです。



実質的なリーダーは、副官を勤めている「ゲバン」という大臣が行っておりました。ゲバン大臣は帝国内でもかなり大きな力を持っており、特に軍事の面では他を圧倒する権力者です。


今回王国で起きたクーデターも、全てゲバン大臣が計画されたものと伺っております。


僕の知る限りでは、昨日の移送便で王都内の全ての囚人が帝国に向けて運び出されたと思われます。だから、サファイア様は本日帝国に戻ることにされたのです。



ただ…帝国の何処に移送しているのかは僕は知りません。僕の知ってるのは、比較的王国との国境から近い地とだけ…



おそらくは、サファイア様も正確な場所までは知らない…というよりは、そのようなことに興味がないかと思われます。


あまりお役に立てずにすいません。』



『いあ。期待してた以上にたくさんの情報を得ることが出来ました。その情報が確かなら、俺はこの後、ギルを治した後、全力で帝国との国境へ向かわないといけません!


帝国へ、向かってる囚人を救いに行きます。



そしてギルには、お願いがあります。これから3時間ほど後、王都の宿で俺は仲間と待ち合わせをしてるんです。そこに、俺の手紙を持って向かって欲しいのです。


仲間の名前はアクティーとましろ。俺の名前を出して、俺からの手紙を見せれば信用して貰えると思います。


そして、2人と一緒に3人で帝国の国境付近の街まで来て欲しいのです。帝国との国境近くの街の名前は分かりますか?』



『王都側でしたら、砦の街「バルマ」です。国境から、ギリギリ見える場所にあり、ここから馬車で5~6日ほどの距離です。』


『分かりました。では、そのバルマの街の宿で待ち合わせましょう。』



俺は、急ぎアクティーへ向けて手紙を書いた。手紙を書き終えて一息ついた頃、エリーが戻ってきた。



『うわっーーーー!何故こんな王都の側に、こんな強力なモンスターがいるんだ!?』


ギルが、大騒ぎを始めてしまった。



『主、このうるさい男は何なのです?殺しましょうか?』



『いや、こいつはギルといって、俺の奴隷となった男だ。失った手足を治してあげたい。エリーの尻尾を少し分けてもらえるか?』



『奴隷を持たれたのですか?尻尾を切ったところですぐ回復しますので、どうぞ必要なだけお取り下さい!!』



『ではエリーの尻尾で薬も作っておきたいので、少し多目に貰うね…出来るだけ痛くないよう一瞬で切るからね。』



尻尾の先の方、50センチほどを魔法剣を使って切る。エリーの傷口は直ぐに血が止まり、回復していっているようだ。



俺は今切り出したエリーの尻尾の肉を食べやすいように薄く切ってあげてギルにあげようと近づいたが、未だにギルが大騒ぎをしている。



『ギル、大丈夫です!この子は俺のテイムしたモンスターのエリー。もう騒がないで下さいね!』


そういうと、ギルはパッタリと何も声を出さなくなった。そして、少し苦しそうにしていた。どうやら、命令と判断されてしまったらしい。




『ギル、大丈夫だから…落ち着いて。』


胸を優しく撫でてあげてると落ち着いたようで、



『取り乱してすいませんでした。もう大丈夫です。あのような凄いモンスターをテイムされてるとは…アラン様は、一体何者なのですか?』



『何者も何もないです。ただのアランです。


さっ!これを食べて下さい。加工前だからちょっと食べにくいかもしれませんが、それで手足が良くなります。』



ギルは、言われた通りに肉を食べていく。欠損していた手足はみるみるうちにきれいに生えてきた。


何度見ても凄い光景だ…



『凄い!本当に元通りです。ありがとうございます!!このご恩は生涯忘れません。奴隷印とは関係なく、何があろうとアラン様のために尽くしていくことを誓います!』



『そんなに仰々しくならなくてもいいですよ。でも、よろしくお願いします。


これは、元の足から取ってきた靴です。それを履いて、このお金を持って、伝言をよろしくお願いします。


俺はこれから直ぐにエリーとビアンカを追います!』



『ビアンカ?』



『俺の婚約者なんです。理不尽な理由で王都の牢に入れられていたんです。確証はないですが、先程のギルの話を聞く限り帝国へ運ばれてるのではないかと思っています。』



『その婚約者を助けるのがアラン様の本当の目的なのですね?ご武運をお祈り申し上げます。


僕も、アクティー様とましろ様と合流しましたら、出来る限り早くバルマへ向かいます。』



俺は、ギルと別れ直ぐに帝国の方へ向かうのだった。




それから2時間後、宿の部屋には既にアクティーとましろが戻っていた。


『どうだった?』


『ダメにゃ…牢には誰もいなかったにゃ!もぬけの殻ってやつにゃ。どこに行ったかの情報も見つからなかったにゃ…』


『こちらも同じ…見事に誰もいなかったわ。。これは、ビアンカも既に帝国に運ばれたと考えた方がいいのかもね…アランが戻ったらこれからどうするか話し合いましょう!』



その時、扉がノックされる。


返事をせず、身を隠していると、

扉が開かれ1人の男が部屋に入ってくる。


男はキョロキョロと部屋を見回し、誰もいないのを確認するとそのまま部屋の中に入ってくる。


『動かないで!何者!?』


突然首にナイフを突きつけられてる状況に驚いた男は、カチンコチンに固まり、何とか口を開く…



『僕はギルと申します。アラン様の使いで、こちらにいらっしゃるアクティー様とましろ様に手紙を届けに参りました。

お願いです。殺さないで下さい。』



『アランから?手紙を見せなさい!

変な行動したら、即殺すから動かないでね!!』



ギルは震えながらも手紙を差し出し、抵抗の意志のないことを示し続けた。


『この子はアランの奴隷になったらしいわ!心配無さそうね…もう自由に動いてもいいわよ。


どうやら、アランはエリーと先に帝国との国境まで移動を始めたようね…国境の街バルマで待ち合わせらしいわ。私たちも直ぐに準備して王都を出ましょう。』


『あの…誰と話してるのですか?』


『ましろよ。あーアランはましろの名前しか教えてなかったのね?ましろはネズミなの。』



『私はましろにゃ、よろしくにゃ。』


ましろはベッドの上から挨拶する。



『うわっ!ネズミが喋っている!?エリー様といい、アラン様の周りは凄い存在だらけですね!』



『そうかもね!アランがギルにお金を預けてるって書いてるけど、いくらくらい?』



『20万ルピー渡されました。こんな大金を今日奴隷になったばかりの僕にアッサリ預けられるのはアラン様の凄いところですけど、怖いところでもあります。


ここにたどり着くまで、誰かに襲われないか、怖くてずっと冷や冷やしてました。』



『アランらしいわね…いろいろ気遣いできる癖にそういうとこ常識がないのよね。。


でもそれだけあれば、馬車を買えそうね!早速馬屋に向かいましょう!!』




ギルとアクティーが馬屋に行くと、そこにはギルの見知った顔があった。そう、サファイアだ。



サファイアは、普通に歩いてるギルに気づくと、驚き駆け寄ってくる。




『何故あなたが!?手足は、どうやって治したのです??』



『サファイア様…私の怪我はアラン様から治して頂きました。詳細については、アラン様の情報に関することですので奴隷として話すことは出来ません。御許し下さい。』




一瞬の間の後、サファイアは突然笑いだした。



『面白い!面白い男ですわ♪そういうことでしたのね…完全にやられましたわ!


でも、欠損も治せる程の薬を作れるなんて、気に入りました!!


ギル、あの男に伝えなさい!いくらでも金は稼がせてあげるから、私の部下になりなさい!帝国に必ず会いに来るように言っときなさい!!』



何故かサファイアは、嬉しそうに去っていった。



ギルとアクティーは、馬車を購入し、急ぎ食材を買い、夜が近いにも関わらずその日のうちに旅立つのだった。



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