第77話 王都の現状

アランとアクティーは、翌朝朝早くラトルを出た。


エリーの上は、座席以外の場所はとても硬く、とても乗ってられないのだが、アクティーは俺の上に座ることで2人乗りを可能とした。



このまま、王都に近づくとラトルの村の二の舞で大騒ぎになることは分かりきっていたので、人目を避け、街道は通らず森を抜けて王都に近づいた。


そして、王都の姿を覗ける高台まで移動すると、そこでエリーと別れた。


『何かあったら呼ぶから、その時は俺のところまで来てくれ!一人で置いておくのは申し訳ないけど、今回は隠密行動しないといけないから許してくれ。』


『分かりました。それまでのんびり待機しております。』



今の会話で分かるように、エリーの便利能力の一つで、主と認められると、遠くからでも来て欲しいと願うことで呼ぶことができるのだ。エリーには、呼ばれたことと、俺の場所が何となく分かるらしい…


もう、神様が乗り物としての造った生物説は間違いないと思っている。


余りにも便利過ぎるのだ。どこでも走れ、座席はあり、雨も降り込まず、温度も快適、遠くからも呼べ、怪我をしても自動で直ぐに回復する。


さらに主やその仲間が怪我をしても、その尻尾を食することで回復までできる。



逆に、神は何故こんな便利な生物を造らねばならなかったのかが気になってしまう俺だった。





王都の門は、意外にも混雑していた。商人たちが命を賭けてでも、戦争前で確実に高値で買ってもらえると、集まって来るのだろう。


行列に並んで、入門税を払って王都に入る。



王都の中は、以前より人の歩みが少なく、活気はなかった。しかし、決して絶望してる人間ばかりではなかった。民は強いのだ。



俺たちは宿だけ取り、別行動をする。


アクティーは、暗殺者独自の情報網から情報を調べるようだ。


ましろは、以前紹介してくれたネズミのビッグに協力を仰ぐようだ。


俺はというと、取り敢えず、冒険者ギルドに向かうことにした。理由は、よくよく考えたら、俺は王都に知り合いと呼べる相手がほとんどいないのだ。


冒険者ギルドのジークハルトと、王都学園の先生たちくらいなのだ。



冒険者ギルドに入ると、やはり以前のような活気はなかった。


今はまだ朝早い時間である。通常、新たな依頼が張り出されることもあり、人の多い時間のはずなのだが、酒場に何人かの人がいるだけで、人そのものがいないのだ。


『おはようございます。ご無沙汰してます。』

俺は、受付でボーッとしているジークハルトを見つけ、声を掛ける。


『ん?お前は…あのときの適正なしの坊主か!?久しぶりだな?こんな時にどうしたんだ?』


『実はしばらく王都を離れていた間に、クーデターが起きて大変な状況になっているようじゃないですか?


先程王都に戻ってきたんですが、王都の今の状況をジークハルトさんに聞かせてもらえないかと思って、ここに来てみました。』



『そういえば、お前は王女と友達だったか?それじゃーラトルに向かった方がいいんじゃねーのか?』


『ラトルには、昨日行ってきました。実は、俺は王都に取り残されたらしい婚約者を探しに王都に来たんですが、今の状況を知らないと何も動けないと思いまして…』



『そうか、今の王都は常にピリピリしているぞ!いつラトルの軍と戦争状態になるか分からないしな。


しかも、どちらが勝ってもいいことなしだしな。』


『どういうことですか?』


『そんなことも知らないのか?ユリウス王子が勝てば、王国は帝国の飼い犬の国に成り下がる。まあ、今もそこはあんまりま変わらねーけどな…今よりさらにひどくなるのは間違いねーだろ!


そして、ラトルの王族が圧倒的な戦力差を跳ね返し、奇跡的に勝っても、内戦で疲弊した王国を帝国が放っておかねーだろ?帝国が、友好関係にあったユリウス王子を討ったことを理由に攻めてくるのは目に見えてやがる!


そうなれば、帝国の属国にされちまう。』



『それだと、どちらにしろおいしいのは帝国だけですね?』



『そうだ。王国が元の状況に戻るには、ラトルの王族がユリウス王子を討ち、さらにその後すぐ攻めてくる帝国から国を守り通す必要がある。


そんなの不可能だろうよ!


だから見ての通り、冒険者の殆どが王都を見捨て、ここから離れてこの有り様だ!!


これはギルド始まって以来最大のピンチだ。』



ジークハルトがため息を吐く。



『ここも大変そうですね?』


『そうだ…大変なんだ!


よし、せっかく来たんだ。2~3個依頼を受けていけよ!!

今ならランク関係なく大きな依頼も受けさせてやるぞ?』



『今は婚約者を探すことに全力を尽くしたいので、勘弁して下さい。婚約者がクーデター起きたときに、ちょうど謹慎させられていて、牢に入れられていたようなんです。


謹慎は1週間程度の予定だったんですが、クーデターの後から、そのまま音沙汰がないようなんです。』



『おい坊主…もしかしたらだが、お前の婚約者とんでもねー目にあってるかもしれねーぞ?


噂程度の話なんだが、帝国の奴らが王都中の囚人を帝国に運んでると聞いた。


本当かは分からないが、もし帝国に運ばれてたら、追いかけようがねーだろ!?


帝国に運ばれる前に何としても見つけてやりな!?』



『帝国にですか!?何のために…


奴隷にするにしろ、わざわざここから運ぶことを考えたら、手間がかかり過ぎの気がしますが…?


何にしろ、余計に急がなければならないのは、間違いないようですね。


情報ありがとうございます。』




俺はその後、あることを済ませ、冒険者ギルドを出たが、次にどこへ向かっていいのかさっぱりであった。


なぜなら、俺の残りの知り合いは学園の先生たちのみ。囚人の情報を知る可能性は低いだろう。


さらに、俺は学園ではかなり有名人となってしまっていた。顔を出せば下手をすれば、王宮にまで俺が王都にいることが伝わる恐れがあった。



ましろやアクティーとの約束の時間までまだ3時間ほどある。

俺は次の行動を決めた…



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