第39話 教育論
俺は明日の授業の準備を入念に行った。
翌日、現在の先生は、先生の資質をテストされるということで、益々自慢のように難しい知識をこれでもか!と見せつけるような授業だったそうだ。
俺はというと、昨夜は夜なべして作ったテキストを駆使して、如何に分かりやすく、理解させるかに重点を置き、最後にその日に学んだことを小テストし、理解出来てなかったところをさらに補足で説明するという、日本の家庭教師なら当たり前なようなスタイルで臨んだ。
当然、俺の勝利だ。日本の文化レベルを舐めんな!
『アランが秀才タイプということは、試験の満点を見れば、分かっていたが、このように人に教える才まで、あったとは驚きだ。
それに、この授業で使用していた資料…これは、とんでもないものかもしれんぞ。このようなものをたくさん増やし、本にすれば誰でも簡単に学ぶことが出来るようになるかもしれないな。』
レオナルドも、俺の教育の方法は認めてくれたらしい。
『僕の言った通りだったでしょ?アランの教え方は、分かりやすいだけでなく、勉強を楽しくしてくれる教え方なんだ!』
ハリーが自慢気に話す。
その時だ、扉が乱暴に開かれる。
今までの先生が飛び込んで来て、俺を睨んでくる。
『こんな子供の方が私より優秀な先生ですと?
理解しかねますな…私は生まれて此の方、学術で誰にも負けたことなどないのです。』
遅れてナディアとマリンが部屋に入ってくる。
『ハリー様失礼しました。先生へ、契約解除の件をお話したところ、部屋を飛び出し、こちらへ向かったようです。』
『あー、もう来ている。』
レオナルドが答える。そして、続ける。
『先生の優秀さは皆知っております。しかし、人に教えることに関してはどうやら、このアランの方が天才だったようです。』
『それが分からん!人に教えられる知識の量が多いものが、優秀な先生だと思うのだが…何故そんな小僧に私が負けねばならぬのだ!?』
俺が口出すと俺が恨まれるのは分かっているが、教育論を話さずにはいられなかった。
『教育を舐めないで下さい!
あなたがどんなに知識を蓄えてるかは知りません。しかし、人に教えるってことは、決して知識をひけらかすことではありません。
その生徒のレベルまで自分を落として、如何に分かりやすく物事を砕いて伝えるか、理解することの楽しさを教えるかです。そして、生徒が理解したことを共に喜び合える人間関係も必要なのです。
もう1度言います。教育を舐めないで下さい!』
今までの先生は、怒りで顔を真っ赤にさせ、
『この若造がっ!言わせておけば調子に乗りおって!!』
そこへレオナルドがやって来て、俺の作ったテキストを今までの先生へ渡す。
『これをご覧下さい。これは、今日の授業のためにこの若者が作ってきたものです。これを使い、説明を受けると誰でもその内容を理解することが出来る仕組みになっています。
さらにどこまで理解できてるかを図るテスト。間違えたところはすぐに補足で詳しく説明をされ、授業の終わりには分からぬところはなくなっておりました。
この若者は、知識量では先生には勝てるはずもありません。しかし、先ほども言いましたが、こと教えるということに関しては、先生よりも上と言わざるを得ないです。ご理解頂きたい。』
テキストの方をチラリとだけ見て、内容すら見ずに、
『ふんっ!少し工夫をしただけの愚か者に騙され、私を切ったこと、すぐに後悔しますぞ!私は心が広い。ハリー様、もう一度教えてくれと頼みに来るのを待っておりますぞ!!』
今までの先生は部屋からそのまま出ていった。
『アランは、中々の怖いもの知らずのようだね?あの先生が何者なのか知ってあのような発言だったのかね?』
『いえ、誰だか知りませんが…』
レオナルドはため息をして、
『王国学園学園長 ミグルス・ミドローアだ。別に、【王国の頭脳】とも呼ばれている。』
『偉い人なのは、分かりました。しかし、それでも教育者としては認められません。』
『アラン、さっきのように敵を作ってよかったの?』
ハリーが聞いてくる。
『あまりに教育に関して、無責任な人だったから、つい我慢出来なくなってしまってな…敵を作らないよう考えろなんて偉そうなこと言ってたのに、悪い見本になっちゃったな?
まあ、ハリーが変に恨まれるよりは、俺が憎まれた方がいいんじゃないか?
それにしても、あんな人が学園長だから、この国全体の学力水準が低いんじゃないか?』
『アランから見て、この国の学力の水準はそんなに低く見えるかね?』
『えー、失礼ながらそう感じます。識字率の低さ。足し算、引き算すら出来ない者の多さ。この程度なら週に1時間の授業でも、1年学ばせれば全員マスター出来る内容です。
ハリーのように、学ぼうという意欲がある者ならば、1ヶ月で可能です。その倍あれば、掛け算、割り算もマスター出来ます。
俺の生まれ育った村では、当番で、分かる者が分からない者に教えるシステムを作ったので、今では10歳以上の識字率100%ですし、計算の早さはともかく、全員足し算、引き算、掛け算、割り算の計算出来ますよ。』
『全員だと!?一体そのシステムは誰が考えたんだ?村長か?』
『考えたのは8歳の時に俺が考えました。俺は村長の長男なので、それを広めやすかったのです。』
『アランには、何度も驚かされるな…それが本当なら君の村はとんでもない村だぞ。普通はそれだけの学のある人間は全体の1割にも満たないからな…』
『それでは、不便ですし、旅の商人なんかに騙され、損を被る村人もいたんです。それで、改善させました。』
『アランの故郷は確か「ラトル」だったか!?王都に一番近い村だったな…これは、使えるかもしれないな。。』
レオナルドは、何かを思い付いたようだが、多くは語らない。
『アラン、先程の授業のような資料を、文字の習得と足し算、引き算の習得が可能になるよう作れるか?
勿論ハリー王子の勉強を見ることが最優先事項だ。それ以外の時間は資料作成に全て使って貰って構わん。どうだ?』
『出来ますよ。村でも、簡単な物なら以前作りましたし。村では本当の基礎だけのものを、「版画」にしていくらでも「印刷」出来るようにしてました。』
『版画?印刷?何だそれは?』
『同じ物を何度も作るときには、毎回書き写すの大変じゃないですか?だから、1度大変だけど、木を削って大きな印鑑のようなものを作るんです。それを紙にペタっとしたら、何度でも同じ資料や本を作ることが出来ますよ。
俺、昔から器用だけは高かったので、そういうの作るの得意だったんですよ。』
『そのような技術をどこで知ったんだ?』
『思い付きです。』
(前世の知識とは言えないよな…)
『フム…一度俺とアランで、ラトルへ行ってみる必要がありそうだ。村の者の学力の確認、アランの作った勉強を教えるシステムの確認、その版画というものも実際に見てみたい。』
こうして、俺は村へ再び帰ることになるのだった。
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