第22話 就職試験始まる
翌日からも俺は宿と冒険者ギルドの往復の生活となった。毎日冒険者ギルドが空く時間に行き、閉まるまで訓練をする毎日。あっという間に就職試験の前の日になってしまった。
(今日でこの訓練に集中出来るのも最後になるな…出来ればマスターしたかったが、ちょっと無理そうだ…)
今日は、朝からジークハルトがいたので挨拶をする。
『ジークハルトさんおはようございます。今日もお世話になります。今日でここで訓練を出来るのも最後になりました。
約1週間ずっと訓練場をお借りしてご迷惑をお掛けしました。』
『おう。おはよう。1週間も経ってないのにもう諦めたのか?』
ジークハルトが辛辣に言う…
『死ぬまで魔法剣に関しては諦めたりはする気はないのですが、明日は朝から近衛兵の就職試験なんです。それを受けることになっているので、この訓練に集中できるのは今日までなんです。』
『そうか。お前近衛兵志望だったのか?一流の冒険者になるために努力してるかと思ったら、就職試験のための努力だったのか?』
『それはどちらも違います!
魔法を使うことは、俺がこの世界に魔法が存在していることを知った瞬間からの夢なんです!
ずっと魔法を使いたいと思って生きて来ました。
それなのに魔力なしで生まれ、せっかく苦労して魔力を手に入れたのに魔法の適正なしですよ!
ジークハルトさんに魔法剣という目標を与えて貰えたのに、途中で諦めるなんて選択肢はないですよ!!』
『はっ?魔力なし?魔力を手にいれただと?』
(はっ!魔法のことで興奮してつい余計なこと言ってしまった…ダンジョン攻略は内緒にしてくれって自分から皆に頼んでおいて、自分で口を滑らすなんてどんなアホだよ…)
『いえ…何でもないです。では、今日も訓練場をお借りします!失礼します。』
俺は、慌てて頭を下げて地下の訓練場に逃げていった…
(そうか…あいつ魔法を使いたいがために、どこかのダンジョン攻略したのか!
それで、色々と納得いったぜ!こんなわずかな期間にレベルがそんなに上がってたのも、死線を何度も越える経験をしたのも…
純粋な夢のために努力してきたやつだから、真っ直ぐなんだな。。
そこまでして、ようやく魔力を得た結果が、魔法の適正なしか…とことんかわいそうな奴だな。。よく腐らないでまだ努力を続けてる…
しかし、この技を会得するのは物凄い緻密な魔力コントロールが必要だ。成人したばかりの新米には無理な代物なんだ。。諦めず10~20年努力したらきっと使えるようになるはずだが…)
ジークハルトは、アランの事情を先程の会話だけで理解した。
しかし、アランの魔法への情熱を本当の意味で理解してなかったことをたった数時間後に知ることになる。
俺が、いつものように魔力のコントロールの訓練をしていると、ジークハルトが地下へ降りて来た。
『訓練場をギルドで利用ですか?』
これまでも何度かあったことなので、そう思って尋ねたが、
『いや!時間が出来たから、お前とちょっと話そうと思って降りて来た…』
『俺とですか?』
(さっきの話のことか?ダンジョンのこと問い詰められたら不味いな…どうしよう。。)
心の中で1人焦っているとジークハルトが話し出した。
『アラン…お前、魔力の剣を本気で会得するつもりか?』
一体今さら何でこの質問なんだ?と思いながら
『勿論です!諦める理由がありません!!』
『そうか…あの技は魔力の扱いがうまいやつでもマスターするのに10年掛かる技だ。
お前にその覚悟はあるのかを問いに来たんだ。。
その覚悟がないなら、正直他のことに努力を回した方が強くなれるはずだ。』
『俺は強くなりたいから、この技を出来るようになりたいわけではありません!
先程も言いましたが、魔法は俺にとって夢であり、ロマンなんです!効率も、役に立つかも二の次なんです。
マスターはいつかしたいですが、それは10年後でも構いません。
今は取り敢えず、ある程度だけでも扱えるようになっただけでも感動してるんです!!』
『・・っ?おい!今何って言った?』
『…??マスターは10年後でも構わない?』
『違う!その後だ!!』
『今は取り敢えずある程度だけでも扱えるようになっただけでも感動してるんです?』
『それだ!本当に多少でも使えるのかよ!?
ちょっと見せてみろ!!』
俺は、今までの練習の成果を見せる。ナイフ2本に魔力のコーティングを作るイメージで覆う。ナイフは2本とも見事に紫色に輝いている。
『っ!ハアハア…やはりまだまだです。3秒も持たせることが出来ません。。でも、この3秒も俺には涙が出るくらいの代物なんです!!』
『ォィ…オイ…オイオイオイ!!お前は、本当に何者なんだよ!?たった1週間で何で使えるんだよ!?
しかも2つの武器同時になんて意味分からねー!!』
『・・?』
ジークハルトが何かを驚いているが、俺には意味が分からない…俺の困惑が表情に出ていたのだろう…
『俺がなぜ驚いてるのかが意味分からねーって感じだな?
まず、俺がさっき言っていた10年掛けてマスターのレベルがお前がさっきしたように武器に紫のコーティングを這わせて維持をすることが出来るようになるってことだ!
つまりは、お前は1週間で10年分の進化を果たしたってことだ!
しかもだ…それを2本同時に行いやがった!!
今までの何人もこの技を教え、マスターさせてきたが、そんなことするやつはオマエが初めてだ…!
それが如何にスゲーことなのか分かるか?どんだけ器用に魔力のコントロールしてやがる!!』
『そうなのですか?無我夢中で、ただやってきたので実感はないですが、そう言って貰えると嬉しいです!』
『アラン…お前本当に近衛兵になりたいのか?もし拘りがないなら、試験を受けるのなんて辞めて、俺の弟子になれ!
俺が一流の冒険者に育ててやる!』
(伝説の冒険者から、直接弟子にしてやるなんて物凄い光栄なことじゃないか…しかし。。エリスさんを裏切れない…)
『弟子に誘って頂き、とてもありがたいです。
近衛兵になりたいかと言われると実はそうでもないのですが、先日、王女の1人と友となり、その方の部下として支えることを約束しました。
明日はその方の紹介で試験を受けることになってますので、試験を受けない訳にはいかないです。』
『そうか…お前も面白い運命の中にいるようだな!?王女と友になるなんて、普通一生ねーぞ!それはそれで面白そうな展開か…お前が将来どんな奴になるか楽しみになってきたぜ!
もし、明日の試験に落ちたら、面倒見てやるから、すぐ俺のところへ来い!!それでいい。』
『すいません。ありがとうございます。あのランクアップ試験でジークハルトさんと出会ってなかったら、魔法への道が完全に途絶えてました。
しばらく腐れていたかもしれません。ジークハルトさんの気まぐれで、あの技を見せて貰えたことにどれだけ感謝してもしきれません!』
俺は大きく頭を下げる。
『俺は、冒険者に強くなる可能性を少し見せているだけだ。常に死の危険の付きまとう仕事だからな…少しでも強くなって貰わねーと困る…
最後にアドバイスだ!あの技は維持するだけで魔力をそれなりに消費する。無理に長く魔力を帯びさせる必要はねー!
オンとオフを素早く切り替えられるようにしろ!攻撃の瞬間や、防御の瞬間の短い時間だけオンにすることが出来れば実戦でも使えるようになる。』
『アドバイスありがとうございます。早速訓練してみます!』
俺は再び頭を大きく下げる。ジークハルトは何も言わず上へ戻って行った…
その夜、ビアンカと合流した俺は、食事を取りながら、お互いの近況を報告し合う。ビアンカは予想通り、うちの親からみっちり知識を詰め込まれたらしい…今にも死にそうなげんなり顔でこの一週間の地獄の日々を語っていた。
俺のこの1週間を報告すると、魔法の適正に関しては同情してくれたが、ジークハルトとの出会いから、弟子にスカウトの話になるとプルプルと震えだし今にも殴りかかって来そうなほどの殺気を放っていた…
『しかし…やはりビアンカと一緒にいるのが一番安心できる♪一番俺らしくいられる時間だ!』
『な、急に何を言ってんのよ!?恥ずかしいじゃない!』
『何を照れてんだよ?俺もやっとビアンカと付き合ってることを実感出来るようになってきたんだよ。久しぶりに会えて嬉しかったんだからそれくらい言葉にしても許されるだろ?』
『ダメなんて誰も言ってないでしょ!あまりに不意討ちだったからびっくりしただけよ!』
『何だか俺まで恥ずかしくなってきたな…よし、明日は試験の本番だ!明日に備えてそろそろ宿に帰って寝るか。』
宿への道は、いつものようにふざけ合う2人に戻っていた…まだ今の俺たちには恋人らしくベッタリイチャイチャという関係は少し早いようだ…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
試験の朝、近衛兵の就職試験会場前
『アラン、ビアンカよく来てくれたな!今日は就職試験頑張ってきてくれ!』
『おう!お二人さん!相変わらず仲良さそうだな!?今日は試験頑張れよ!』
会場前には、エリスとイアンがわざわざ応援に来てくれていた。
『エリスさん、イアンさんもわざわざ来てくれたんですか?ありがとうございます。やれるだけのことはやってきます!』
『この1週間死ぬほどした勉強を無駄にはしません!試験行ってきます!!』
俺たちは受付で手続きを済ませ、受験番号を貰った。俺は44番、ビアンカは72番。
『アランいいわね!縁起がいい数字ね♪』
これは嫌みではない…
日本では四が死を連想するということで不吉とされているが、この世界では四は縁起がいい数字なのだ。理由は魔法の四大元素と言われる火水土風が生活に大きく恩恵を与えているからだと言われてる。
逆にこの世界で不吉と言われる数字は6だと言われている。
これは、俺には理解しずらいのだが、四大元素に光と闇を加えて6大元素、6は闇を指し、魔物や孤独を連想させる数字とされている。俺の考えでは闇もないと困るのでは?とは思ってしまう。
話は逸れたが、44は縁起がいいのだ!元日本人の俺にはなんとなく生理的に忌み嫌ってしまうのだが…
『ありがとう!合格出来るようにお互い頑張るぞ!』
俺たちは、学校の教室のような部屋に案内された。机には、番号の書かれた紙が置かれてあり、自分の受験番号の紙の机に座るように指示される。
説明によると、制限時間120分の間に数学と歴史のテストに挑む。早く終わった者から順に、答案用紙を提出し、2次試験の体力測定に移動する。
その際に、最初に机に置かれていた番号の書かれた紙を持って行けとのことだった。よく見ると、紙の裏には測定結果を記載する用紙になっていた。
『それでは、1次試験開始!終わった者は言葉を発することなく、私のところへ答案用紙を持ってこい!』
。。。うん。数学楽勝…日本なら小学3年生でも、ほとんど暗算で解けるレベルだ…見直し含めて20分で解き終わる。おそらく満点だ。
歴史もこの世界に来て、常識を知るためにかなり勉強をしてきたから楽勝だ…こっちは15分で終わってしまった。こちらもおそらく満点だ…
王宮に仕える者を選別する試験がこれでいいのか…この世界の学力のあまりの低さに要らぬ心配をしてしまう俺だった。
まあ、これ以上ここにいても仕方ないし、次行くか…俺は開始から35分で席を立った。
『なんだ!?トイレか?係りの者が一緒に見張るが行ってもいいぞ!緊張するだろうからな…』
『あっ…いえ、見直しも含めて終わったので…』
と前に答案用紙を提出しに行く。
試験中なので、ざわつきはしないが、指導員のせいで他の受験者に完全に注目されてしまったじゃないか…バカやろー!
俺は慌てて、2次試験の方へ移動した。
『もう来たのか!?今年のトップは早いな!お前の測定には、俺が付き添う。』
2次試験は、学生の頃の体力測定を思い出す内容だった!100メートル走、ジャンプ力、幅跳び、握力、遠投、2キロ走。ただ1つ違うのは、今は27レベルというステータスの補助があり、それなりの結果は残せた気がする…
俺の2次試験が終わりを迎えようとしている頃になり、ようやく他の受験者も会場に現れ始めたようだ。
全ての2次試験の項目を終えると、係りの人に訓練場に向かうように言われる。そこで、最後の試験を行うことになるらしい…
言われた通り訓練場に到着すると、そこには1人の男が待っていた…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます