第20話 冒険者ギルド

それから村へ戻ると大騒ぎとなっていた。


先に帰った村人から、ゴブリンキングやゴブリンジェネラルの話が広がり、その討伐に村長とアランとビアンカ、そして賢者のジョブを持つ貴族のお嬢さまとその部下が向かったということで、皆安否を心配していたのだ。


父は村長として、皆の前で演説をし、エリスたちの活躍で討伐が無事完了したこと。被害はなかったこと。討ち漏らしも無かったことを伝えた。


それにより、村を挙げての大歓迎ムードとなり、宴会の準備が始まった。



宴会の準備が行われている間、俺たちは、村長の家、つまりは俺の家に集まり父と話をすることとなった。


『エリスさん、まずは最初に村を代表してお礼を言わせてくれ!今回のこと、本当に助かった!ありがとう。』


『そんなに気にしなくても大丈夫だ!私もご子息に世話になっている。


そして、これからも世話になりたいと思っている!そのために、私はここまでやって来たのだ。』


『というと…?』


『まずは、これはパウロ殿以外の者には秘密にして欲しいのだが、私の父はクリスタリア王国の現国王ヴェルサス・ルイ・クリスタリアであり、私は第2王女エリス・クリスタリアだ。


ローランは母の家の姓となる。』



『ななななななななななななな…な…なにーーーっ!?』

驚きで大声で叫んでしまったために屋敷にいた者が、集まってしまう。


『何事ですか!?何かありましたか?』

母が妹を抱き抱えやってくる。


『い、いや…何でもない!ちょっと驚いただけだ。皆を驚かせたようで済まなかったな。』


『いえ、大事なかったのならそれでいいですわ。』

母たちはまた部屋の外に出ていく。


『ごほん!っ…先程の話なんですが、本当の話なんでしょうか?』


『本当の話だ!それから、口調は今までの通りで頼む。』


『じゃーエリスさんも周りからその事実をあまり知られたくないようだし、今まで通りでいかせてもらう。


っで!王女様が、俺に何を頼もうってんだ?』


『アランとビアンカを私の部下にしたい!そのためにこの村を無期限で離れることを許可して頂きたい。』


『えっ!?こんな不肖の息子をスカウトするために、王女様自らこの村まで来てくれたのか?そこまでする価値がこの息子にあるとはとても思えないのだが…』


『それはパウロ殿がアランのことを過小評価し過ぎだ。ここにいるイアンからもアランを部下にすべし、と進言されるほどの魅力がご子息にはあるのだ。


しかし、私には勝手にアランを部下として雇う権限を持たないのだ。


そこで、1週間後に王都である、近衛兵の就職試験を私の推薦でアランとビアンカに受けて貰いたいのだ!


それに合格したら、私の護衛として側に置かせて貰いたい。


どうだろう…村を出る許可を出し、試験を受けさせて貰えないだろうか?』



『王女様にそこまで言って貰える価値がこの息子にあるとは、未だに思えないが、男としてそこまで言われて応えられないのは男の恥だ!


死ぬ気でその期待に応えてこい!!』



『許可を貰えるか!パウロ殿、感謝する!』

エリスとイアンが喜んでいる。



こうして俺とビアンカは、1週間後にある近衛兵の就職試験を受けることになった!


え!?ビアンカの許可は?元々ビアンカの将来の夢は近衛兵と公言していたので、その試験を受けるのに許可など必要なわけがなかったのだ。



その日は夜遅くまで、歌って騒いで飲んでの宴だった。


『アラン、就職試験頑張ってくれ!


試験の詳細については、イアンから2人に教えておくように命じているので、後で確認しておいてくれ!


私とイアンは明日の朝、王都に戻る。王都でクリスのことを報告、アランやビアンカの推薦状を出さねばならぬのでな!他にもあの時に話したように祖父母や父ときちんと向き合ってみようと思っている。』


『エリスさん、頑張って下さい。俺も応援しています。』


『ありがとう!アランも頑張ってくれ!』



イアンの話によると、近衛兵の就職試験の内容は、筆記試験から始まるらしい。この国の歴史、数学…つまりは足し算、引き算、かけ算、割り算である。歴史は、村長の息子として学んできていたことなので、おそらく問題ない。数学は元日本人なので、楽勝だ。


次に体力検査、一通りの身体能力を測るようだ。これも、今の俺ならステータスが上がったので問題ないかと思う。


その後は、試験官たちと面談し、その総合で評価されるらしい。それだけ聞くと日本でもありそうなごくありふれた試験内容である。だが、この面談の内容は試験官次第という何とも曖昧な試験内容である。年によっては、試験官と模擬戦をさせられたり、ただの面接で終わったりと様々らしい…


イアン曰く、この試験官に近衛兵団団長 ブライト・ガンクレットが出張ってきたら下手するとその年の合格者は0になってもおかしくないとのこと。



試験の日までの1週間、ビアンカは父や母のところで座学の勉強をすることになった。ビアンカは勉強はちょっと苦手だからな…


俺は座学の心配はないため、別行動をとることにした。何をするかというとせっかく魔力を持つことが出来たので、先に王都に行き、魔法の勉強をしようと思ったのだ!


お小遣いも沢山あるので、資金にも心配ない♪昨夜、エリスたちとダンジョンでの稼ぎを分配したのだ。


クリスがいなくなった分の分配は、皆が俺が貰うべきだということで意見が一致し、俺に五分の二が入ることになった。



全部のルピーを拾えた訳でもないにも関わらず、遊び人の効果か、10ルピーの出も良く、おおよそ5000ルピーもあったのだ。


つまりは俺の取り分は約2000ルピー!日本円でいえば20万円だ!移動も含めて1週間での稼ぎとしては、多すぎるくらいだ。



そもそも、魔法はどのようなものなのか…俺は魔力もなかったのに幼少の頃から抜け道を探してひたすら学んだもんだよ!


魔法とは、体内に存在する【魔力】を形を変えて、力へ変えたものである。その形を変える手助けをするのが【詠唱】であり、変化した力をどのような力にするかを決めるのが【イメージ力】だ。


詠唱をすることで、このイメージもしやすくなる利点もあると言われている。


そして、魔法には様々な属性があり、この適正がなければその属性の魔法を使うことは叶わない。では、適正はどうやって調べればいいのか…


それを調べるための魔道具が存在するのだ。王都にも様々な施設に存在しているのだが、例えば冒険者ギルド、傭兵ギルド、各ジョブのギルド、成人の儀を行った神殿、王立魔法学園等である。



俺が今回利用するのは、冒険者ギルド!


冒険者ギルドとは、依頼をされたモンスターを討伐したり、依頼を受けた素材を納品することにより、報酬を受けることができるところであり、それを生業とする者を【冒険者】と呼ぶ。


冒険者には、その強さや経験により【ランク】があり、F<E<D<C<B<A<Sと全部で7つのランクに分かれている。


F~Dは登録の時点でギルド職員から実力を見てもらい初期ランクが決まる。


そこからは、依頼をこなすことにより、【ギルドポイント】というものが貯まり、一定数までいけばランクが上がっていく。ただし、Aランク以上はギルドポイント以外にランクアップ試験まであるという。


冒険者の登録は、登録手数料さえ払えば誰にでも登録可能だ。実力ある子供なら、7歳くらいでも、ゴブリン程度なら討伐する子もいるからだ。


しかし、その依頼中に怪我をしようと、死のうと本人の実力不足であり、何の保障などない。自分の実力にあった依頼を確実にこなすしかないのだ。


中には身分証変わりに登録する者もいる。依頼をこなすために街の外へ出入りの多い冒険者は、ランクに応じて優遇されるからだ。


その優遇のみを目的とした登録や、冷やかしのような登録を減らすために、登録手数料には200ルピーも必要なのだ。


さらに3年間依頼を1度も達成していないと、それまでのランクやギルドポイントは抹消される。


これは、いつの間にか死んでいく冒険者が多いためギルドの情報整理のためだと言われている。


ランク維持のためだけの依頼達成など、その気になれば100ルピーで薬草を店で買い、それを50ルピーでギルドに納品するだけでも可能なのだ。実際に子育てで忙しい女性にこの方法は有名である。



話が大きく逸れてしまったが、冒険者ギルドでは登録している冒険者の実力向上のために、魔法の適正を調べる魔道具を無料で利用できるのだ。利用しない手はない!


早速ギルドに登録しに行こう!



俺は冒険者ギルドの扉を開いた。冒険者ギルドの中は依頼者専用窓口と冒険者専用窓口があり、冒険者専用窓口の手前には大きな掲示板があった。


おそらく依頼がランク別に並べられているのだろう…さらに奥が酒場となっており、まだ昼を過ぎたばかりなのに既に多くの冒険者が飯を食べたり、酒を飲んでたりしているようだ。



冒険者専用窓口は、3つの窓口があり、今の時間は空いているようで、どの窓口も誰も並んでいなかった。


向かって左側は、年配の女性スタッフ、真ん中は厳つい男性スタッフ、右側は若い女性のスタッフ…うん。迷わず右側に並ぶよね!


『すいません!冒険者登録したいんですがどうすればよいですか?』


『いらっしゃい!登録料200ルピー掛かりますが大丈夫ですか?それと文字は書けるかしら?書けないなら有料の代筆サービスもありますよ。』


『お金も文字も大丈夫です!』


『じゃーこの書類に記入してね!名前以外の内容はどうしても答えたくない内容は秘密って書いて貰ってもいいわよ。』



名前 アラン

性別 男

年齢 12歳

ジョブ 


(ジョブは秘密にしといた方がいいか…)


ジョブ 秘密

ジョブレベル



(あれ?そういえば俺今は何レベルになってたか…オータス)


名前 アラン

種族 ヒューム

年齢 12歳

力 166(184-36+18)

体力 244(204+20+20)

俊敏 321(269+26+26)

器用 487(383+76+38)

知力 151(167-32+16)

魔力 101(112-22+11)


ジョブ 遊び人lv27

ジョブスキル 逃げ足、口笛、流し目、体力成長、器用成長、チャーム、絶技

称号 転生者、神ファルスの加護を受けし者、魔物を狩りし者、ネズミをテイムせし者、初心者ダンジョンを制した者



(あれ?あのダンジョンでの最後の戦闘で2レベルも上がってる…何でだろう?それと魔力がレベルアップで増えてる!


一度魔力を得たらジョブレベルで増やすことも可能なんて…素晴らしい♪レベル上げが益々楽しみになってきたな!)



ジョブレベル 27  

出身 ラトル   

得意武器 ナイフ

希望スタートランク Dランク


(認められなくても罰金もないなら狙うだけ狙ってみないとな?)



『書き終わりました。お願いします!』


『はい。じゃー確認しますので、少々お待ち下さい。

…ジョブは秘密でよろしいですか?記載していると、パーティーの誘いなんかも来ることありますが…』


『はい!秘密でお願いします。』


『では、スタートランクをDランクを希望されてるので、準備が出来たら地下の訓練場でテストしますので、先に登録料の200ルピーをお願いします。』


俺は事前に用意していた200ルピー入った袋を渡す。



『はい!確かに。では、地下の訓練場に移動して貰えますか?』


その声と同時に隣の窓口に座っていた厳つい男性スタッフが立ち上がる。どうやら、彼が俺をテストしてくれるらしい…



俺は案内されるまま、地下の訓練場に到着する。予想通り、目の前にはあの厳つい男性スタッフが立っていた。


『冒険者ランクアップ登録試験を始める。ルールは簡単!俺と戦って認めさせろ!武器はそこにある訓練用の武器ならどれを使っても構わない。』


俺はナイフを2本取ると訓練場の中央に移動した。男性スタッフは片手剣とバックラーというおおそどっくすなスタイルだ。


『では、始めよう。いつでも来なさい!』



お互いに構える。流石試験官だけあってスキのない構えだ。


『行きます!』


俺は地を蹴った。高い俊敏を生かし、左右に揺さぶりを掛けようとするが、この試験官はそれについてくる。


『ほう、なかなか素早い動きだ!しかし、まだまだ経験不足だ。動きが単調で読みやすい…そこだ!!』


試験官の剣は俺が移動しようとしているところへ斬りかかってきた。俺はその剣を左のナイフで横に流し、更に右のナイフでその剣を叩きつけバランスを崩す。その回転のまま、バランスを崩され軸足となる足にローキックを当てる。


本来、そこで試験官は転げなければならないのだが、その足は大木のようにびくともしなかった。



俺はヒヤリと危険を感じ、転がるように距離を取る。案の定今まで俺の頭があった場所に、バックラーが叩きつけられていた。


『ほう!今のを避けるか!その前の返しも面白い!!器用に動けるし、経験を積み腕を磨けばいい冒険者になりそうだ!


これで合格でよいが、最後に面白いものを見せてやる!』


試験官は再び剣を構える。俺も何をしようとしているのか分からないまま、警戒を強める。すると、試験官の剣が紫色に輝き出す。


『何だあれは?魔法剣か?』


日本のゲームなどの記憶から近いものを引っ張り出した俺はつい言葉に出してしまう…



『…お前何者だ?一目見てこの技の根幹を見抜くとは。。だが、これは魔法ではなく、魔力そのものを剣に流し込んでる状態だ!切れ味は、こんな練習用の剣でもなかなかなのもんだぜ!』


そう言って、構える俺の持つ剣を真っ二つに斬ってしまう。剣速が早すぎて避けることすらできなかった。


背中に冷たいものが走る…



『俺はただの村人です。成人の儀を迎えて、冒険者登録にやって来ただけです。そんな特別な人間ではないですよ!


それよりも、あなたこそ何者なんですか?その強さ、今の技、今の剣速…どれもただの冒険者ギルド職員のものとしては異常過ぎると感じたのですが…』


『俺か?俺はこの冒険者ギルドの【ギルド長】の【ジークハルト】だ!』


『えっ!?冒険者ジークハルトと言えば、俺でも知ってるくらいの超有名人じゃないですか!?どうして、そんなお偉い方がランクアップ登録の試験官なんてしてるんですか?』


『なぜって…ここ1週間デスクワークばかりで忙しくて、ちょうど身体動かしたかったのと、ただ暇してたからだ!


まあ、良くやった!お前は合格だ。今日からDランク冒険者だ!』



冒険者ジークハルト…この国に2人しか存在しないSランク冒険者である。ドラゴンを素手で倒したとか、城門を剣の一振りで吹き飛ばしただとか、とんでもない噂ばかりのとんでもない人だ!



『ありがとうございます!』



(でもラッキーだ!こんな凄い人の剣を見れるだけで貴重なのに、さらに剣に魔力を込めて使うことが出来ることを知れたのだ!俺も魔力を持ったから努力すればさっきの技を体得できるかもしれない!)


それから受付に戻り、冒険者の登録証をもらった。首にかけるタイプの物で名前とランクと冒険者番号が記載されていた。



『もう1つ御願いがあるのですが、魔法の適正を調べたいのですが、今から出来ますか?』


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