第9話 エリスの過去…そして涙

俺とビアンカは、今夜も料理を作る。


今夜のメニューはネズミの肉のニンニク炒め風?である。まずはネズミの肉を薄く切り分けて、ナモンに浸けて臭みをとり&下味をつける。人参と玉ねぎを細く切り準備は完了。


下味を付けた肉をさっと炒めたら人参と玉ねぎを投入、一緒に炒める。さらにナモンをその中に足して、ナモンの水分が飛んだら完成!ニンニクの香りが効いて食欲をそそる♪


日本人としては白米が欲しくなる。



ビアンカは、小麦粉と少量の塩と水を混ぜ合わせパン生地を作る、それを大きめの平たい岩を焼いたものに伸ばし焼いていく。その際にナモンを薄く塗っていく。岩から剥がすとナンのような片面カリカリのガーリックパンの出来上がりである。


野菜や小麦粉はどうしたかというと、エリスの持つマジックバックの中に入ってるものを利用している。やはり便利な物だ。


いつか自分のマジックバックも是非持ちたいところだ…



『今夜の食事もうまいな!ナモンの香りがガッツリしていて、狩りの後には最高だな♪』


イアンは俺たちの料理のファンになったらしく毎回べた褒めである。



『ありがとうございます。そう言って貰えると作りがいがあります!』


『本当に2人の料理には助かってるぞ!うまい飯は明日への活力になるからな!アランのおかげでレベル上げも順調にすすんでいる。


私も先程の戦闘で8レベルになり、詠唱短縮のスキルを覚えた!明日からは、もっと素早く魔法を放てるはずだ!!』


『お~エリス様おめでとうございます!お父上も喜ばれることでしょう!!』


『父上の話は止めなさい!』


エリスの突然の怒声に皆静まりかえる…



『…クリス、すみません…あなたは何も悪くないのに…』


『いえ!私の配慮が足りませんでした。申し訳ありません!』

今度はクリスが謝る。


そのまま、会話は戻らぬままこの夜の食事は終えることとなった。どうやらエリスは父親と何らかの確執を持っているようだ。



夜営では、寝てる間にモンスターや人間の盗賊に襲われないように、交代で見張りを立てるのが普通であり、実際に普通は襲われることも多い。


モンスターも夜の方が人の警戒が緩むことを知っているのだろう…このパーティーの場合は、おそらく俺の運の良さのお陰で1度もないのだが。。



その夜の見張りは俺とエリスが一緒となった。


『先程は私事で場の空気を悪くして済まなかった…』



エリスが俺にまで謝罪してくる。


『いえ!誰にでも触れられたくないことが1つや2つあるもんです。気にしないでください。』


『ありがとう。アランは優しいのだな?ビアンカもそんなところを好いてるのだろうな!』


『どうなんでしょうか…俺自身どうして俺なんかと付き合ってくれてるのか不思議なくらいなんですよ。』



『あまり自分を低く評価しすぎるのも良くない!


度を越えると謙遜すら嫌みになってしまうものだ。アランは私から見ても素晴らしい男だと思うぞ!優しく、器用で料理も出来、顔も悪くないと思う。


何より、何か他の男とは違う魅力のようなものを感じるぞ!


まあ…私みたいな男女に言われても嬉しくはないだろうが…』



(それってチャームの効果か?)



『ありがとうございます…!


でもそのまま言葉をかえしちゃいますが…

あまり自分を低く評価するのは良くないですよ!


エリスさんは、誰から見ても同期とはとても思えないくらい知的で美しく、既に人を導く力を持っています。


ただ、その所為で周りから強い人間と思われそうですが、本当はまだ弱い部分を何かを乗り越えるために必死に隠してるようにも見えます。


決して男女なんかではないと思います。』



『驚いた!同年代にそれを見抜かれたのは初めてだ。アランは本当に不思議な男だな…せっかくだ…少し私の話を聞いてもらえるか?』


(前の世界も合わせると50近いから…)


『勿論です。』



『私は、庶子なのだ。


母は没落貴族の3女で、成人とともに父のところで下女として働き出したそうだ。父は母をすぐに気に入り、私を孕ませたのだが、運が悪かったのか難産となり、私を産んでから後遺症で精神をおかしくしてしまったのだ。


それを知った父は、側室にするという約束を反古し、僅かばかりのお金と供に実家のローラン家へ病気の母と赤ん坊の私を一方的に引き渡したのだ。


それからは、祖父母から可愛がって貰い、幼少より魔法を学び、賢者になることができたのだ!


それなのに、成人の儀の夜、突然父から呼び出され、「成人おめでとう!エリスが、賢者ジョブを取得したことで、これからはいろいろ支援することが可能となった。これからは私を父と呼んで構わないぞ。」と…


母と私を捨てた癖に賢者というレアなジョブになったと知るや否や態度を変え、近づいてきた父が許せぬのだ!


今の私には父に抵抗する力もないからな…精々利用させてもらい、力をつけようとしているのだ。』



(あれ?…今の話色々とおかしくないか?)



『今の話を聞いて色々と気になる点があったんですが、聞いてよいですか?』


『構わんが…何だ?』


『エリスさんのお爺さんは没落貴族から出世して、脱したのですか?それとも物凄い資産持ちの家だったとか?それと、違うかもしれませんが、マジックバックはお父さんから貰ったのでは?』


『祖父は今も没落貴族のままだ。資産もないな…ローラン家は私が立て直すつもりだ!それと、マジックバックは確かに父から成人の祝いと言われて渡された。』



『やはり…


これから俺の話そうとする話はエリスさんにとっては面白くない話になるかもしれませんが、話してもよいですか?』


『構わないぞ!さっきの質問の意味も分からないままだしな…』


『先程の話を聞く限り、おそらくエリスさんのお父さんはエリスさんのことをずっと気に掛けてきたんだと思われます。』


『待て!なぜそうなるのだ?

 父は私と母を見捨てたのだぞ?』



『その事情は予想はできるけど、断定はできません。


おそらくは、お父さんの身内の者がお母さんとの結婚を反対したのでしょう…



それで泣く泣くといったところかと…


何故お父さんがエリスさんのことを気に掛けていたか分かるかですが、成人の儀があった夜にその情報を持ち、さらに呼び出しを掛けるのは幾らなんでも早すぎるのです。


2~3週間経ってならまだ分かるのですが、余程気に掛けてないと当日に誰がどのジョブを選択したかの情報など、噂にもなりませんよ。


それと、マジックバックの件です。マジックバックは知っての通り、かなり貴重なものです。ダンジョンから不定期に発掘され、オークション等で取引されます。


例えお金を持っていても、かなり前から探してないと手に入れるのは難しいと思います。賢者ジョブになったのを知ってからではまず用意するのは無理だと思いますよ。



そして、もう1つ…


ローラン家はお金の余裕はないはずなのに、エリスさんは幼少より魔法を学んでいた。


魔法学校に行かず魔法を学ばせるなんてこと、どれだけのお金が必要になるか俺には想像もつきません。おそらくは、お父さんの陰からの支援があったのではないかと思います。



これらから考えるとエリスさんのお父さんは、お母さんを愛していて、エリスさんのことも気に掛けてると思われます。』



『ま。待ってくれ!


そんなこと急に言われてもとても信じられないぞ!…もし、本当にそれが事実なら…


私は父に愛されてるのか…?』


エリスの目から突然涙が流れてきた…



女性の涙には免疫ない俺はオロオロしていると…


『私を泣かせたのだ。責任をとって暫く胸を貸せ!』

と、俺の胸に顔を埋めてくる。


(うおー!なんだこの状況…そしてなんだこのいい匂い…ビアンカとも違う甘い匂い。ってそんなこと考えてる場合か?


…これって頭を撫でたりした方がいいのか?いや!そんなことするのも不味いはず。。世の男たち俺にアドバイスをくれー!)



永遠に続くかと思われた妄想の世界はすぐに現実へと戻る

『済まなかった!しかし、アランもなかなか酷いな…


優しいかと思ったら、私の人生の大半を否定してくれるとは。。しかし、言ってることは納得出来るものだった…


祖父母や父に戻ったら本当のことを確認してみようかと思う!』



『その方がいいと思います。頑張ってください!』


俺とエリスは暫く見つめあっていたが、ふと目を反らし、

『…ありがとう!今夜アランと話せて良かった!』

と言って去って行った。


この時、エリスの顔が赤く染まっていたことは気付くこともなかった。そして…この様子を密かに見ている者がいることもやはり気付くことはなかった。。


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