35 今度こそ

「顔も洗って、うがいもした! さあ、今度こそチューだ!」莉子うさぎをかかえてリビングに向かおうとする春樹。


「ちょっと待って、春樹ぃ。私もうちょっとぬいぐるみのままがいい!」春樹を呼び止める莉子うさぎ。


「ええ?」


「もうちょっと、ぬいぐるみ生活楽しみたいよー」春樹の胸にスリスリする。


「う、確かに。うさぎの莉子かわいいから、このままでいっか!」莉子うさぎの長い耳をなでなでする春樹。


「うん!」ピコピコ左右に動く莉子うさぎの耳。春樹の手を左右の耳ではさんでる。フワフワの感触だ。



「あら〜、そうは行かないわよ〜」口の周りが青いままの夏生が来た。


「「えっ?」」


「うちの両親、明日出張先の香港から帰って来るって〜。今さっき電話来たから〜。掃除してキレイにしてないと怒られちゃうから、莉子ちゃんいつまでも寝てる訳に行かないわ〜。掃除手伝ってくれな〜い?」


「えー、ぬいぐるみ生活終らせないといけないのー」「そんなあ、今度こそキャッキャフニフニできると思ったのに」


「私ぃ〜自分の部屋でメイク直してるから〜、とっととチューしちゃって〜」




「じゃあ、莉子。チューするよ」莉子うさぎを両手で持ちながら、ソファーで寝てる莉子本体に近づく春樹。


「どうぞ……」と答える莉子うさぎ。顔は春樹の真下にある。


「……ドキドキするな」


「はー、まさか寝てる自分がチューされてるとこを見ることになるとは」


「…………」


「あれ、どうしたの春樹」


「やっぱ、できない」


「へ?」


「本人に見られながらチューとか恥ずかしい」


「ええ? じゃあ目閉じればいい? あっ、ぬいぐるみだから閉じれないみたい」


「じゃあこうする」春樹は莉子うさぎの目にそおっと手をかぶせた。


「わー、真っ暗だよお。ちょっと目に触んないで! 痛い。手どけてよ」


莉子の視界が明るくなった。さっきと春樹の顔の位置が違う。真横にある。


「元に戻ったね」顔を赤らめながら照れ笑いする春樹。その手にはうさぎのぬいぐるみ。


「ということは……」


「うん。緊張した」


「えっ、よく分かんなかったよ。もっかいチュー」


「もう無理。恥ずかしい」うさぎのぬいぐるみをギュッと抱きしめる春樹。


「そんなー。ワンモアチュー」


「ムリムリムリムリムリムリ」ブンブン顔を振る春樹。


莉子も元に戻った。




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