部活小編

誰得な理科室のロマンス

 山なし落ちなし意味なし……(_ _)

**********


 人気ひとけがなくなった頃、理科室の住人達はそろそろと動き始める。彼等は知っているのだ。夕方からはこの場所に人があまり寄りつかないことを。

 一番に動き出すのはこの時間を待ち続けていた人体模型。ガチャリと自分を固定している器具を外し、床に降り立つ。続けて、近くに置かれている骨格標本の肩をそっと揺するのだ。

 そして、起こされた骨格標本も床に降りると人体模型に向けて腕を伸ばす。人体模型はそれを受けて骨格標本をぎゅっと抱き締めた。これは二体の目覚めのあいさつだ。

 この人体模型は彼であり、骨格標本は彼女であった。


 二人は仲睦まじく手をつなぐと理科室の住人達を一通り確かめる。その日に起きてきたものには軽く手を振り、起きなかったものはそっと撫でて。

 目覚めた彼等は思い思いに過ごし始めた。

 彼と彼女は手を取り向かい合うと踊り出す。最近よく行っているのだ。理科室の器具達が楽器代わりになって演奏をつけることもある。

 タタッ……タタッ……と息の合ったステップ。あり得ないことだが呼吸までぴったり合っているかのようだった。でも、呼吸はしていない。だって模型と標本だもの。


「ヒィッ!! も、模型が踊ってるぅ……!?」


 おや、今日は目撃者が出てしまったようだ。

 人体模型は踊りを止めて首だけグリンと入口に向ける。次いで体も回し、クラウチングスタート。


「キャアアアアアーッ」


 女生徒が遠くに行ったのを見送り人体模型は戻っていく。


「君ねぇ……あまりやり過ぎると燃されてしまいますよ?」


 背後から聞こえてきた声に模型はぐるりと首を回した。今度は男子生徒のようだ。彼も邪魔をするのだろうかと考えを巡らせたところで、その生徒に見覚えがあることに気が付く。


「聞いていますか?」


 聞いていたが、納得はできなかった。自分達の大切な時間を邪魔した相手を追い払うことの何が悪いのか。罪なのか、それとも……。そういった気持ちのまま彼は首を傾けた。


「まぁ、君達が悪者というわけではないでしょうが。あまり人体模型の話題が先行すると今度は骨格標本と引き離されてしまいますよ?」


 それを聞いて、模型はスタンディングスタート。骨格標本が待つ理科室へ急いで戻った。そして、そのまま彼女を抱き締める。

 不思議そうに小首を傾げた彼女に思う。――君以外要らない、と。

 そんな気持ちはダダ漏れていたのか、他の備品達にガチャガチャと文句を示されたが気にしない。『そりゃねぇですぜ、旦那』と、彼等が話せればそれくらいのことは言っていたかもしれない。

 理科室は人体模型と骨格標本の愛の巣、と。

 重なる二つの影に、呆れたように首を振って離れていく気配が一つ。



          Fin.

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