第124話「第1次『エリュシオン』防衛戦(リースティア王国の平原にて)(2)」
「全員。馬に『
騎兵部隊の隊長が叫んだ。
騎兵たちが着ているのは『レプリカ・ロード』だ。攻撃魔術のダメージを減らす能力がある。
だが、馬はそうはいかない。だから守らなければいけない。
戦うにしろ逃げるにしろ、今、馬を失うわけにはいかないからだ。
「敵は魔術師だ。こちらの突撃には対応できないはず。そこを突く」
『『『了解しました!』』』
隊長の言葉に、兵士たちが返事をする。
彼らは一斉に馬に『身体強化』をかけて、周囲に『対魔術障壁』を展開する。
これで敵の魔術師への対策はできた。
問題は──
「あの『
騎兵隊長は震えながら、4本の腕を持つ『霊王騎』を見つめていた。
オリジナルの『
唯一の希望は、あの『王騎』が魔力を大量消費することだ。
しかも、敵は『魔力喰らいの光線』を、一度放っている。
あれは魔力をかなり消費する。となると、そんなに長くは動けないはず。『霊王騎』さえ動かなくなれば、魔術師たちを倒すのはたやすい。
ここであの『霊王騎』と魔術師たちを無視するわけにはいかない。
彼らに、通信用の使い魔を飛ばされてしまったら、すべてが終わる。帰り道で王国兵に取り囲まれることになる。
そんなぶざまな失敗をして逃げ帰った彼らを、帝国は許さないだろう。
「『霊王騎』との戦闘をできるだけ避けて、魔術師どもを倒す。これしかあるまい」
『隊長。
不意に、兵士のひとりが声をあげた。
『
「……聞かなかったことにしてやる。二度と言うな」
『隊長!』
「くどい!! あの方が決して失敗を許さないことを、貴様も知っているだろうが!!」
騎兵隊長の声に、騎兵がびくりと震えた。
「帝国は完全な実力主義だ。あの方は、それを体現されているようなお方。我々が敵に発見されたことを知ったら……我らの生命さえあやうい」
『……隊長』
「『聖域教会』は帝国の主流ではないのだ。
『……あのシステムは、帝国への
「その通りだ。わかったら覚悟を決めろ」
隊長の声に、騎兵たちは槍を構えた。
作戦の目的は『霊王騎』を
「作戦を開始する」
『『『りょ、了解しました!』』』
『キィエエエエエエ!!』
兵士たちの声とともに、グリフォンが叫び声をあげる。
翼を灼かれ、飛べなくなっても、その巨体はまだ動いている。
「行くぞ! 我らの力を『リースティア王国』の者たちに見せてやれ!!」
『『『おおおおおおおおおおっ!!』』』
叫びながら、騎兵部隊は突撃をはじめたのだった。
──オデット視点──
「……なんということだ。『黒い森』で『霊王騎』の実験をしていたら、本当に謎の騎兵たちに
「予想外でしたわね。ザメルさま」
震える老魔術師ザメルに、『霊王騎』をまとったオデットが答えた。
もちろん、オデットたちがここにいるのは偶然ではない。
王国はすでに侵入者たちの情報を得て、街道に兵士たちを配置している。
だが、この『黒い森』の周辺だけが、兵士たちの空白地帯になっていた。
だからオデットと老ザメルたちは、警戒を兼ねて、ここで魔術実験をすることにしたのだった。
オデットは、ユウキや『コウモリ軍団』たちと連絡を取っている。
敵の騎兵が来るのに合わせて、森の外でまちぶせするのは簡単だった。
(本当は、敵なんか来なければよかったのですけど)
オデットは『霊王騎』の状態を確認する。
相手の魔力を消滅させる『
それで敵の騎兵のうち、4人を戦闘不能にできた。
残りは8人。それと、翼をなくしたグリフォンだ。勝機は十分にある。
(でも、ユウキの言っていた、白金色の騎士がいませんわね)
情報によると、全身に白金の
だが、目の前の騎兵の中にはいない。
単独行動を取っているのか、それとも、逃げたのか──
(強敵がいないに越したことはありません。『霊王騎』の『魔力減衰光線』だって、撃てるのはあと2回。しかも、2回目を使ったら魔力切れが起きるのですから)
使いこなせるとはいっても、オデットの魔力が無限にあるわけじゃない。
しかも、この『霊王騎』は魔術師たちを守る盾でもある。
魔術が効きにくい『レプリカ・ロード』をオデットが『霊王騎』で止める。その隙に魔術師たちがグリフォンを倒し、その後、全員で『レプリカ・ロード』に攻撃魔術をたたき込む。
それで、なんとかなるはずだ。
「──なんとして、ここで敵を食い止めなくては」
『霊王騎』をまとったまま、オデットが前に出る。
「ザメルさま、申し訳ありませんが、わたくしを
「わかった」
老ザメルはうなずいた。
白いヒゲをなでて、純白のローブをひるがえして、宣言する。
「わしが、スレイ家のご
「「「わ、わかりました!!」」」
ギルドの魔術師たちが一斉に答える。
彼らは翼をなくしたグリフォンに、ありったけの攻撃魔術をたたき込んでいる。
火炎魔術がグリフォンの脚を焼き、移動力を奪っていく。あちらは大丈夫──そう思ったのか、老ザメルはヒゲをなでながら、『霊王騎』をまとうオデットに語りかける。
「魔術師の戦い方は、これから変わってゆくかもしれぬな」
「かもしれませんわね。『古代魔術』を防ぐ盾に、『古代魔術』が効きにくい『レプリカ・ロード』などが使われるようになったんですもの」
「今後は『レプリカ・ロード』をまとった前衛が敵を防ぎ、後衛の魔術師が『古代魔術』を使うようというのが一般的になるやもしれぬ。やれやれ……200年近く止まっていた時間が、ようやく流れだしたようだ」
「わたくしは……これからどうなるか不安ですわ」
「若い者がなにを言うか」
「ザメルさまも一度若くなってみれば、わたくしたちの不安がわかります」
「
「ユウキ=グロッサリアの使い魔によると、あの騎兵たちは動きも速く、飛んだり跳ねたりもするそうですわ」
「その上、魔術が効きにくいときている」
「ええ。ですが、彼は対策を立てていました。それを使わせていただきます。それと、例のものは、ここに持ってきていらっしゃいますか?」
「ああ。実験前に、
老ザメルは肩をすくめた。
「『身体強化』した魔術師用の武器、ということで制作したそうだが、結局、誰も使えなかった。お主があれを使ってみたいと申したときにはおどろいたぞ」
「なにが役に立つかわかりませんわね。
そんな話のあと、オデットは老ザメルに作戦を伝えたのだった。
その数分後。
騎兵たちと、オデットたちは交戦状態に入った。
「『霊王騎』は動きが遅い。間合いも狭い。よって、一撃離脱の攻撃を行う!」
『『『了解しました』』』
騎兵たちは『霊王騎』に向かって突進していく。
そのまま
『霊王騎』の
だが──
ずずず……。
重い音がして、『霊王騎』が、背後からなにかを持ち上げるのが見えた。
長い棒だった。人の身長よりも長い。
先端は、金属で補強されている。
それは『王騎』のために作られた──
「失礼いたしますわ!!」
ごすっ!
『霊王騎』の腕が、伸びたように見えた。
間合いの外にいたはずの馬が、
馬は兵士を巻き添えにして転がっていく。
一瞬遅れて、『霊王騎』の側面から別の騎兵が突進する。
『霊王騎』の胴体に向かって
「──強い騎兵なのでしょうね。あなたたちは」
『霊王騎』の中で、オデットがつぶやいた。
この『王騎』は魔力で動く
そして──騎兵の
「アームド・オーガが使っていた、『古代魔術』も防ぐ盾ですわ。そう簡単には壊れません!!」
「ば、化け物め──!」
「失礼な! これは元々あなたたちの仲間が使っていた鎧でしょう!?」
オデットは
兵士は倒れた馬の下敷きになる。生きてはいるようだが、動けない。
「まずは2人。残りは、6人ですわね」
敵の騎兵たちはオデット──『霊王騎』を遠巻きにしている。
本来なら、彼らは『霊王騎』を迂回して、ギルドの魔術師たちを攻撃したいのだろう。
けれど、それは難しい。
『霊王騎』が手にした巨大な
下手に迂回したら、無防備な側面をさらすことになる。
さらに、魔術師たちは森を背にして戦っている。
木が生い茂る森の中では、騎兵は速度を出せない。その上、トラップが仕掛けられている可能性もある。騎兵が森に入るのは危険すぎる。
その上、魔術師が戦っている巨大グリフォンが邪魔をしている。
あの巨体のせいで、騎兵たちは魔術師たちのところへ向かえない。『霊王騎』を避けて、グリフォンを避けて──かなり
「王国の魔術師たちめ、
「考えたのはわたくしではありません!」
オデットの『霊王騎』は、4本の腕を広げて騎兵たちを待ち受ける。
『霊王騎』の強さは『
「──スレイ家のご令嬢。魔力はまだ大丈夫か?」
「ご心配なく……と言いたいですけれど、なかなかきついですわ」
「お主にひとりに戦わせてすまぬ。だが、間もなく他の魔術師たちが……」
『ギィアアアアアアア──ッ!』
「「「うぉおおおおおおっ!!」」」
背後で魔物の悲鳴と、魔術師たちの歓声が上がった。
一瞬だけ振り返ると、炎をまとったグリフォンが崩れ落ちるのが見えた。
ギルドの魔術師たちが勝利したのだ。
「これで、敵騎兵も逃げてくれればいいのですが……」
捕虜は手に入れた。敵の情報も入る。これ以上交戦するメリットはない。
だが──
「──せめて、一矢報いなければ、あの方に合わせる顔がない。行くぞ!!」
「「「承知!!」」」
残りの騎兵たちは、まっすぐにオデットに向かってきた。
「やはり、逃げてはくれませんか」
「気づいておるのだろうよ。『霊王騎』の稼働時間を持ちこたえれば、自分たちの勝ちだと」
老ザメルが歯がみした。
「スレイ家のご令嬢以外、この『霊王騎』を動かせる者はおらぬ。そして『霊王騎』が動かなくなれば、あの騎兵どもを止めるのは難しくなる」
「……嫌な戦い方をしますわね」
オデットは歯がみする。
だが、奴らを王都に行かせるわけにはいかないのだ。
王都の守りならば騎兵の攻撃くらいは防げるだろう。
けれど、被害は出るかもしれない。誰かが怪我をするかもしれない。
それは『魔術ギルド』の者かもしれないし──もしかしたら、自分やユウキの家族──優しいメイドさんや、人に化けたキツネの少女かもしれない。
「──そんなこと、許せるものですか」
オデットは再び、グレイル商会製の
同時に、騎兵たちも動き出す。
「『霊王騎』は破壊せよ! 邪悪な使い手に奪われた『王騎』だ。やむを得ぬ!」
「「「承知!!」」」
「誰が邪悪ですの!? こんなところまで攻めこんで来たのはあなた方でしょう!?」
オデット──『霊王騎』は敵を迎え撃つ。
こちらに来ている騎兵は4人。これまでの騎兵よりも動きが速い。精鋭だ。
敵は前衛2人、後衛2人の2列縦隊。『身体強化』した馬を、全速力で走らせている。
『
「『
「「行けい!」」
『霊王騎』が灰色の光線を発射する。騎兵2人が、魔力を奪う光線に飲まれる。人と馬とが力を失い、崩れ落ちる──直前、後ろの騎兵2人が、跳んだ。
「──な!?」
騎兵の身体が、まっすぐに降ってくる。
落下速度を活かした捨て身の攻撃。相打ち狙い──そう考えたオデットは、反射的に身をかわす。敵の騎兵はそのまま地面に降りて走り出す。
『霊王騎』を飛び越え、魔術師たちに向かって。
「今だ! 『霊王騎』の背後に回り込んだ!」
「魔術師どもを皆殺しにしろ!!」
『霊王騎』を飛び越えた騎兵たちが、叫び声を上げながら走り出す。
グリフォンを倒したばかりの魔術師たちは、息を切らしている。戦闘で体力と魔力を消費したのだ。彼らに戦う力はない。そう考えた騎兵たちは馬の速度を速め──
「その手は読んでおるよ。喰らうがいい。『
「「────!?」」
地面を
「「ヒヒィィィィィィン!!」」
馬たちが悲鳴を上げる。
『身体強化』されていても限界はある。落下のショックが残るうちに転倒したのだ。
ダメージは相当なものだろう。脚を折り、起き上がることができずにいる。
「ばかな! こ、こんな単純な手で」
「──あなたたちは『レプリカ・ロード』に頼りすぎなのですわよ」
オデットの『霊王騎』が4本の腕で、倒れた兵士たちを拘束する。
『霊王騎』が暴走したときのために用意した鎖が役に立った。オデットは4本の腕を駆使して、兵士たちをあっさりと縛り上げる。
「『レプリカ・ロード』そのものに『古代魔術』が効かないなら馬を狙う。馬に魔術防御がされているなら、馬が踏む地面にトラップを仕掛ける。当然じゃありませんの」
「「……ぐぬぬ」」
「──まぁ、これはわたくしが考えたトラップではないのですけれど」
これもまた、ユウキの作戦だ。
彼は国境地帯で、素早く飛び跳ねる騎兵と戦っていた。
その敵と、普通の魔術師が戦うための対策も考えていたのだ。
オデットの『霊王騎』は文字通りの盾だった。
それは魔術師を守るためだけではなく、武器の
「『レプリカ・ロード』や『王騎』といえども、周辺環境の影響を受けずにはいられない。なるほど……『古代魔術文明』が滅んだ理由も、そんなところにあるのかもしれぬな」
「学術分析は後にしてくださいな。ザメルさま。まだ敵はいますのよ」
オデットは前方を見据える。
残りの騎兵は、あと2人。リーダーらしき者と、その副官だ。
(──『
オデットの後ろでは、鳥がはばたくような音がしている。
老ザメルとその仲間たちが、使い魔を飛ばした音だ。
これで侵入者たちの情報は王都に伝わる。ここで逃げたとしても、騎兵たちが王都に入ることは不可能だ。
「────
2人の騎兵が、オデットたちに背中を向けた。
同時に、魔術師たちが歓声を上げる。オデットの身体からも、力が抜けた。
作戦成功だ。
オデットと魔術師たちは敵を捕らえ、王都への侵入を防ぐことに成功したのだ。
「ザメルさま。国境方面に使い魔を飛ばしてくださいませ」
「わかっておる。あの2人も捕らえなければならぬ」
老ザメルがうなずき、使い魔を呼び出そうとした、とき──
『『『ピィィ────ィ!』』』
魔術師たちが放った使い魔たちが、銀色の光に射貫かれて、落ちた。
「──え」
オデットたちが目を見張る。
光は、騎兵たちの向かった先から来ていた。
そして──
「──どうして敵と戦ってるのかなぁ? どうして、わたしを呼ばなかった? どうして逃げているんだい?」
「……がはっ」
立ち去ろうとした騎兵の肩を、白金色の槍が貫いた。
槍を受けた騎兵が落馬し、地面に倒れる。隣にいた騎兵が
その目の前に、白金の鎧をまとった騎兵が
「それに、こんな楽しそうなことに、わたしを呼ばないとはどういうことかな。ん?」
優しい声で、白金の騎兵は言った。
同時に、見えない衝撃を受けた騎兵が、吹き飛んだ。
「……で、殿下……あなたがどうして……ここに」
「こんな楽しいお祭りをしていれば、遠くからでもわかる。なのにわたしを仲間外れにするとは……君たちは本当に使えないな。わたしの
「……作戦は、失敗……
「すまないね。失敗って言葉は嫌いなんだ。もちろん、失敗した者もね」
白金の騎兵は槍を拾い上げ、その石突きで騎兵隊長の喉を突いた。
「ぐぁ」と悲鳴が上がり、鎧をまとった騎兵が気絶する。
オデットは、言葉を失っていた。
白金の騎兵は、『レプリカ・ロード』をまとった騎兵たちを、あっという間に無力化した。
つまり、白金の騎兵は、『レプリカ・ロード』以上の能力を持っていることになる。
「無様なレプリカは処分した。オリジナルの『
白金の騎兵は言った。
「なぁに、遠慮することはない。まだ封印が残っているとはいえ、この『
オデットと老ザメル、そして『魔術師ギルド』の魔術師たちが見守る前で、白金の騎兵──
──『王騎』のひとつ『
そして、白金の騎兵が乗った──
「────!?」
「──ばぁ」
その間、わずか数秒。
敵の『聖王騎』が、オデットの目の前に出現していた。
「な、なんて速さですの!?」
「君たちとは見ている世界が違うのさ!」
ばきぃんっ!
『霊王騎』の盾が、砕けた。
ぎりぎりだった。
『聖王騎』の槍が喉に達する直前、オデットは補助腕を動かして、その先にある盾で受け止めたのだ。
だが、盾は砕けて、大きな穴が空いた。
しかも、盾を貫通した槍は、『霊王騎』の背中から伸びる腕をひとつ、破壊していたのだ。
「……やはり『王騎』同士なら、盾も砕けますのね」
「へぇ、落ち着いてるね。王国の者にしては、やるね!」
『聖王騎』は飛び退き、槍をくるくると回転させた。
「しかも、『霊王騎』の反応も早いね。もしかして封印が完全に解けているのかな? それとも、正式な使い手として認定された?」
「黙りなさい。侵入者」
「侵入者とはひどいな。
「……これが
周囲にあるのは、焼け焦げたグリフォン。
倒れた8名の騎兵たち。うち2名は、『聖王騎』の槍に貫かれ、血を流している。
どう見ても、これは戦闘でしかない。
「こんな
「だから王国は弱いのさ。覚悟が足りない。建国してから200年近く経つのに──」
来る。そう直感して、オデットは『霊王騎』の盾を構える。
同時に、背後の魔術師たちが攻撃魔術を飛ばす。効かなくても視界を塞ぐことくらいはできる。そう考えてのことだろうが──
「──え?」
『聖王騎』は正面にはいなかった。
左右、後ろ。どちらにもいない。攻撃魔術は空を切っただけ。足音もしない。
「まさか──上!?」
「遅いよ」
『聖王騎』はオデットの真上にいた。
さっきの騎士たちとは違う。翼もないのに、普通に飛翔している。
そのまま『聖王騎』は槍を構え、まっすぐに落ちてくる。加速、落下速度。それがプラスされた攻撃を食らったら、おそらく『霊王騎』も保たない。
そう考えたオデットは──
──開きっぱなしの通信回線に向かって、彼の名前を呼んだ。
「心配をかけてごめんなさい。あなたが来る前に終わらせたかったのですけど」
『状況はわかってるよ。間に合ってよかった』
ガギィン!
真横から飛んできた
「──俺の仲間に触れるな」
空中で
漆黒の翼を広げた鎧は高度を下げ、そのまま地面に『聖王騎』を叩き付ける!
「ぐ、ぐがああああああああっ! な、なんだ! なんだ貴様は────っ!?」
「──うるさい黙れ」
『聖王騎』を地面に叩き付けた直後、黒い鎧はそのまま上昇。
さっき『聖王騎』がそうしたように急降下。ただし、武器は槍ではなく、かぎ爪のついた脚。
高高度から急降下しての蹴りだ。
『聖王騎』は即座に身体を起こし、飛び退く。
が、かぎ爪が馬の胴体をえぐった。装甲が飛び散り、鎧馬が悲鳴を上げる。黒い鎧の蹴りはそのまま地面に直撃し、土と岩を飛び散らせる。『聖王騎』は地面を転がりながら、なんとか体勢を立て直す。槍を構え、黒い王騎に視線を向ける。
「────外装に損傷。内部機構にもダメージ。はぁ……ぁ」
『聖王騎』の女性は荒い息をつきながら、翼を広げた黒い鎧を見据えていた。
頭の中にあるのは、シンプルな恐怖。
一瞬前まで、彼女は勝っていた。『霊王騎』に致命傷を与えて、あとは逃げるだけだった。
それが、ほんの数秒で崩れてしまったのだ。
「漆黒の翼。巨大なかぎ爪。この『聖王騎・
ごぅんっ!
その言葉を口にしようとした瞬間、黒い王騎の腕が飛んできた。
直後、地面を蹴って避ける。体勢を立て直す。
「──ほんっとに、うるさいな」
「貴様はロード=オブ=ノ──」
「あんたは俺の仲間を傷つけようとした」
『聖王騎』の言葉をさえぎり、黒い鎧の主は言った。
「あんたたちが来なければ、俺の仲間も、娘も、王都にいるうちの子も……みんな、なにも心配することもなく眠れたんだ。俺も人前でこんなものを持ち出す必要もなかった。あんたには、その責任を取ってもらう」
「──こ、こちらに一撃を与えた程度で、なにを
「そういうのはどうでもいい」
黒い鎧をまとった者は答えた。
「俺の望みは、仲間やうちの子が平和で、心配なく生活して、のんびりと天寿をまっとうすることだ。俺にとってはそれが最優先なんだ。邪魔しないでくれ」
まるで長い時間を生きた老人のように、枯れた──落ち着いた口調でつぶやき──
黒い鎧はすべての者を
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