第23話「元魔王、人間の家族に別れを告げる」

 その夜。

 俺はまた、裏山に来ていた。


「というわけで、俺は王都に行くことになった。ついてきたい者は?」

『ごしゅじんー』『ギギギ』『キィキィ』『……キィ』


 山にいるコウモリ全員が同意した。


「多すぎる。ディックは連れて行くとして、あと2匹で」


 俺は言った。

 コウモリ同士の、激しい戦いが始まった。

 結果。


「了解。じゃあお前たち2匹な。名前はゲイルとニールだ。お前たちにも『魔力血』を与える」

『キィ』『キキィ』


 指に傷をつけると、血があふれ出す。

 その血を2匹のコウモリたち、ゲイルとニールが舐めた。

 これで、この2匹も話せるようになった。俺の言う通りに動いてくれるはずだ。


「お前たちにお願いしたいのは、王都の偵察だ。ギルド内部の情報や、町の情報。いざというとき、俺が身を隠すためのルートなんかも調べておいて欲しい」

『ごしゅじんー』『かしこまりー』『わかったですー』


 ディック、ゲイル、ニールが返事をした。

 ディックたち使い魔には、俺が人間っぽく生きていくためのサポートをしてもらう。

 俺はまだ人間の初心者だ。ボロが出ないようにしておきたい。

 前世のようなことは、もう、こりごりだからな。


「出発は明日だ。朝まで『古代魔術』の復習をする。付き合ってくれ」

『『『キィキキィーッ!』』』


 そうして夜明けまで、『古代魔術』の練習をして──


 翌日、俺が王都へ出発する日がやってきた。




「それじゃ、行ってまいります。父上、ゼロス兄さま、ルーミア」

「ああ、精一杯やってきなさい」

「お前なら大丈夫だろう。ユウキ」

「おげんきで、お、お手紙くださいね。ユウキ兄さま」


 父さまは俺の手を握り、

 ゼロス兄さまはさわやかな笑顔で、

 ルーミアは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、言った。


「王女殿下はお前を護衛騎士に、とおっしゃっているが、無理をすることはないのだ。上級貴族の方を立てるように。わしら男爵家が成り上がりであることを忘れないようにな」

「心得ております。父さま」

「同時期に王都に行かれる貴族のご子息もたくさんいる。他家の貴族にも、お前の話はしておいた。どうか、失礼のないようにな」


 父さま、その心遣いはいらなかったです。

 他の貴族との関係か……面倒なことにしかならないような気がするよ。


「マーサ。ユウキのことをよろしく頼むよ」

「ゼロスさまはユウキさまのことを嫌っていたので、正直あまり好きではありません」

「……お前はいつも物事をはっきり言うね」

「私はユウキさま専属のメイドですから」

「わかっている。これまでのことは詫びるよ。代わりに僕は男爵家をあげて、ユウキをバックアップするつもりでいる。それだけは、信じてもらえないだろうか」

「はい。ゼロスさま」

「それから、マーサの母……メリーサのことも心配ない。責任をもって、面倒を見るからね」

「男爵家のご厚意に感謝いたします」


 そう言ってマーサは頭を下げた。

 それから、手荷物を馬車に載せていく。

 その前に、俺に抱きついてるルーミアをひっぺがして欲しいんだが。


「ずっと会えないわけじゃないですよね? ルーミアも遊びに行ってもいいですよね?」

「休暇もあるし、家族の面会くらいはできると思う。大丈夫だ」

「マーサも元気でね。離れてても、ずっとお友だちだよ?」

「はい。ぜひ、遊びに来て下さい。ルーミアさま」

「うん……うん」

「さぁ、ルーミア。そろそろ」


 父さまに言われて、ルーミアが俺から離れた。

 屋敷の前には父さまとゼロス兄さま、ルーミアの他にも、メイドや使用人たちが並んでる。


 そういえば、誰かに見送られて旅に出るのは初めてだ。

 前世では『どうして齢を取らない!?』『出て行け、この化け物!』って、追われてばっかりだった。『フィーラ村』に落ち着いたあとは、村の外に出ることは、ほとんどなかった。

 そっか。

 人間って、家族をこうやって見送るのか。


「お世話になりました」

「なにを言うんだよ、ユウキ」


 ゼロス兄さまは俺に向かって、拳を差し出した。


「ここはお前の家だ。なにかあったら、いつでも戻ってこい。『我が主君マイロード』」

「ゼロス? その『我が主君マイロード』とはどういう意味だ?」

「僕とユウキの秘密ですよ。な、ユウキ」

「……はい、兄さま」


 こつん。


 俺とゼロス兄さまは拳を合わせた。

 これだから人間は。


 敵わないな。ったく。




 そうして俺とマーサを乗せた馬車は、グロッサリア男爵領を出発した。

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