第190話 プレゼント!!!(1)
「よし、絆ちゃんのプレゼントか見せてもらおうかな?」
「うん!!! おじちゃん、任せて!!!」
俺は一切迷いなくそう答えた。
うん、ここは一度ほのぼのした気持ちになりたい。そうすれば実花あたりに頭のおかしいプレゼントを出されても、精神的に耐えられるかもしれない……。
そんなよくわからない戦術を考えてたんだが――
「ふふっ、さすが、お父さん……絆さんを優先させるなんて……」
「義孝さんはすごく優しいですからぁ。ふふっ」
「店長ありがとうございます。あっ、早く絆のプレゼントを用意しなきゃ」
俺に羨望の眼差しを向けてくる未来と明菜。未来はいつもの無表情だけど……。
さらに由衣は嬉しそうにキッチンの方に置いてある自分の荷物の方に向かう……絆ちゃんを優先させたというか、俺のよくわからない戦術なんだけど……。
まあ、せっかく評価が上がってるんから余計なことは言わなくてもいいか……。大人とは漁夫の利で得た手柄を決して手放さないものだ。
もっとも――。
そんな浅い考えがバレてる奴らもいるけど……。
「それでこそハイエナの竜胆と呼ばれるだけあるわね……その性質は如月が欲するものだわ」
「お兄ちゃんは狡猾で悪知恵が働くなぁ。純粋に尊敬するでござる」
「えええ! なんであやめんちょっと引いてるの!? それがパパンのかっこいいとこじゃん! 竜胆の本質を再現したのがパパだ!」
いろいろツッコミどころはある……。というか、めっちゃツッコミたい。ハイエナってなんやねん……俺は狡猾じゃないよ?
竜胆の本質……。
ま、まあ、由衣も戻って来たし、あまり気にしないことにしよう……。
だって、竜胆家の内部事情に精通すると、後戻りできなさそうだし……いろんな意味で。
「店長! お待たせしました。ほら、絆、店長に渡してあげて」
由衣はキッチンから、丸まった画用紙と、赤色のバスケットボールが入りそうなぐらいの包みを持ってくる。
そのうちの画用紙を絆ちゃんに手渡す。
「うん!! はいおじちゃん! きずな、がんばってかいたの!」
「どれどれ」
俺は絆ちゃんが差し出してきた画用紙を受け取る。
それを広げてみると――そこに俺が書かれていた。そう、どっからどう見ても俺なのだ……幼稚園児の絵のクオリティとしてはかなりハイレベルだ。
「えっ? こ、これ? 絆ちゃんが書いたのか?」
「うん! きずながんばったの! せんせいもまんまもいっぱいほめてくれた!」
と、というか、ちょっと引くレベルで上手い……。
これは将来有望だ……それに、様々な色のクレヨンがつかわれており、手間が掛かっていて、心が込められてるいるのがわかる。
純粋にかなり嬉しい……。
「ありがとうな……絆ちゃん」
俺はあまりにも嬉しくて、つい絆ちゃんの頭を撫でてしまう。
「えへへ……おじちゃん、おてておっきい。ねぇうれしい? ばんざいしてくれる!?」
「おお、すげぇー嬉しいぞ! 将来は画家さんだな」
「わああああい! ねぇねぇ! みかちゃん! みきちゃん! きずな、おじちゃんにほめられたああ!」
絆ちゃんはよほど嬉しかったのか、近くにいた実花と未来に笑顔を向ける。
そして、実花未来も絆ちゃんの絵を見て目を丸くしていた。
「わああああああ、きずなん、超うまいじゃん! まさしくパパだよ!」
「ふふっ、お父さんを忠実に再現しています」
「おい! 実花、未来! 明日ホームセンターに行ってめっちゃ高い額縁を買ってくるぞ! これを家宝とする!」
「貴方、嬉しいのはわかるけど、はしゃぎすぎではないかしら……?」
「でも、絆ちゃん本当に上手ですねぇ……びっくりですぅ」
「絆……店長に渡すために何枚も書き直してましたから……」
由衣は若干泣きそうになっている。わかる。俺も泣きそうだし……。
「まんまもおじちゃんに渡すのいっしょうけんめい、おなやみしてたよ! ほら、まんまもおじちゃんにわたして!」
由衣は絆ちゃんの言葉に露骨にうろたえる。
「……えっ? き、絆? わ、私まだ心の準備が……」
「ええええ!!」
「だ、だって、男の人にプレゼントを渡すなんて……は、はじめてで……」
それもわかる。貰う俺も緊張してるんだし……渡す方はさらに緊張するだろう……。
「もう!! そんなこといっちゃだめでしょ!! まんまはやくわたすの!」
「わ、わかったよ……。て、店長これ……誕生日おめでとうございます……」
「お、おお……」
由衣から受け取った包みは柔らかく、感触から衣類のような気がする。
「はぁ、由衣、あれだけ悩んでたんだから、もっと自信もって渡してください……デパートで数時間も悩んで――」
「み、未来、余計なこと言わないでよ」
「ふんっ、いいじゃないですか。恥ずかしいことじゃないです。お父さん、開けてみてください……」
「わ、わかった……由衣、開けていいか?」
「え、ええ……」
俺は緊張気味に包みを開く。
すると中からは――。
「これは……パーカーか?」
灰色のパーカーで、しっかりしたつくりで、色合い、デザインといいお洒落な感じだが、派手ではなく、俺みたいなおっさんが着ても違和感はなさそうだ。
「は、はい……普段店長が履いてるズボンや靴に合わせて、選んでみました。い、今の時期とか、夏過ぎに着るのが丁度よくて、生地が柔らかいから部屋着にもいいですし。それに夏は暑いですけど、冬はコートと合わせることもできますし」
由衣は恥ずかしいのか、早口で一気にまくしたてる。
顔はみるみる赤くなっていく。そんな由衣を心配して、隣にいる明菜が心配そうな顔をする。
「ゆ、由衣さん、落ち着いて」
「は、はい……」
「ふふっ、義孝さんにとても似合いそうですね」
「ほ、本当ですか……? そ、その店長もそう思います……?」
「ああ、すげぇー嬉しいよ。ありがとうな……」
女の子から服を貰ったの初めてだからな……嬉しくないはずがない。
俺の表情から、気持ちを感じ取ったのか、由衣は安心したように小さく息をはく。
「よ、よかった……はぁぁぁ」
何なら、絆ちゃんの絵に加えて家宝がまた1つ増えた……まあ、着ないと逆に申し訳ないから切るけど。
……後で生地が傷まない選択方法を調べてみるか……。
俺は幸福な気持ちでそんなことを考えていた
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