第69話 外伝『アーリーデイズ』(7)

 それからしばらく俺の部屋で、アヤメと美少女と一緒に時代劇ドラマを見ながら、まったりとした時間を過ごす。


 アヤメはよほど好きなのか、終始はしゃいでいた。その様子を微笑ましく見ている美少女。

 なんだか年の離れた姉妹みたいだ。


 そして時代劇を見終わると……アヤメがこちらをジッと見てくる。


「どうかしたか?」


「お兄ちゃんとお姉ちゃんがあやめといっしょにいてくれるの?」


 期待と不安が入り混じったような視線。

 子供とはいえ、知らないやつ家にいるんだ。混乱してるのかもな。


「ああ、母親が向かえにくるまではここに入ればいい」


 ついぶっきらぼうに答えてしまう。正直子供はあまり得意ではない……子供に対して笑顔で接してる自分が気持ち悪い……とか考えてしまうお年頃なのです。


 しかし、アヤメは俺のそんな考えを打ち消すほどの明るい笑顔を浮かべる。


「やったあああああ! ねえ遊ぼう! 何して遊ぶでござるか!」


 ガシッ!


「わっ! いきなり飛びついてくるなよ……お前が暗殺者なら俺死んでるじゃねぇか!


「あはは、ニンジャだあ! ニンニン!」


 しかし、アヤメは勢いよく抱きついて、ぎゅうっと抱きしめてくる。

 そんな様子に思わず戸惑ってしまう。なんだこの無邪気な生物は……。


「くすっ、あーあ、せっかく、ぶっきらぼうに答えてカッコつけたのにねぇ」


「そういうのは気がついても黙っててくれ……」


「はいはい、イエッサー、ふふっ……男の子って変なプライドがあるんだね。可愛いんだから」


 なんか釈然としない……。


「ねぇねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃんのなんていうでござるか?」


「あー名前か。名前ね……そういや言ってないな」


(……ん、あれ待てよ? ……そういえば……)


 俺は美少女の顔を不思議そうな顔で見つめる。


「ん? どうしたの? くすっ、私に惚れちゃった……_」


「あ、ああ、まあ可愛いいしな……」


 俺は『衝撃の事実』に気が付いたことでテンパっていたため、思わずいつもなら照れて否定することを、あっさりと肯定してしまった。


 すると、さっきまで小悪魔的な笑みを浮かべていた美少女の顔が一気に真っ赤になる。こいつ人をからかうのは好きなくせに自分には耐性がなさすぎるだろ……。


「えっ!? そ、そうなんだ……ふ、ふーん、随分と惚れやすいんだね、ふーん」


 その姿も可愛いのだが……正直今はそれどころではない……。


「待て……お前の名前って……なんていうんだ……?」


 一番最初に出会った時に名乗られた気もするが……別のことがインパクトあり過ぎて記憶に残っていない。おい、てか……俺は名前も知らない奴を部屋に上げていたのか……すげぇな俺。


「あー、やっぱり覚えてなかったの。美少女、美少女って呼ばれるのが気分よかったから、あえてスルーしてたんだけど。というか、私もキミの名前知らないし」


 俺の言いたいことを察したのか、さらっとそんなことを言う。

 何でそんなに平然な顔で答えられるんだ? 


「俺の不用心具合もやばいけど……お前もたいがいだよな……」


「ええー、別に私は不用心じゃないよ? 私って感覚でいい人かどうかわかるから。えっへん」


「お前はエスパーか何かか……?」


 美少女とそんなやり取りをしていると、その様子を見ていたアヤメがぷくーっと頬を膨らませながら、両手を上げた。


「もうぅ!!! アヤメのお話を聞いてよ! お名前教えてよ!」


「あ、ああ、すまん、俺は川島義孝っていうんだ!」


「うん! わかったでござる! お兄ちゃん!」


 ……名前教えた意味あったか……?


「それでお姉ちゃんはなんていうの!?」


「うーん……そうでねぇ」


 にこにこと美少女に詰め寄るアヤメ。だが、美少女は何かを考え込んでいるようだ。ん? こいつどうしたんだ?


「うーん、名前ならいいか……名前で呼ばれたいし……」


「おい、何をぶつぶつ言ってるんだ?」


「気にしない。気にしない。私は美奈っていうの。よろしくねっ」


「わあああ! お姉ちゃん! よろしくねっ!」


 ああ、そんな名前を言ってたな……。


「それで苗字はなんて言うんだ?」


「それは内緒……くすっ」


「へっ? おい、それってどういう――」


「ねぇねぇ、アヤメちゃんお腹すいてない? ご飯にしようか? くすっ、アヤメちゃんの好きな物でたべようか?」


「ええっ! いいの!? それじゃあねぇ! それじゃあねぇ」


 露骨に話題をそらしやがったな……苗字になんかあるのか? すっごいアクロバティックな苗字とか……? ……まあ、いいか、これから美少女と幼女を家に泊めるんだから、些細な問題だろう……。


 それより本当に……この美少女、美奈を泊めるんだよな……夜とか俺の家の風呂に入るし……こんな狭い部屋で寝るんだよな……そう考えると急に緊張してきた。


「あっ……」


 そんな俺の様子を美奈は目ざとく見落とさなかった。

 悪戯っぽく笑って俺に顔を近づけてくる。


「あっ……今になって緊張しちゃった? エッチなことを考えちゃった?」


「う、うっせえよ」


 こいつ人の感情を読むのが鋭いな……さっきから内心を読まれまくりだし……。

 はぁ、こいつ……意外に頭の回転が速いのかもな……。

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