第56話 家族(5)
「すげぇー家だな……お前らの爺さんって本当に金持ちなんだな……」
俺はあの後、大雨の中、実花に案内されてこいつらの爺さんの家までやって来た。
その家は日本の武家屋敷という装いで、正面玄関から見える大きさは100人は住めそうな気がする……。
「それにしても……疲れた」
墓地から歩いて30分のところにあり、正直台風の中ここまで来るのはマジで命がけだった……。
強風はビュンビュン吹き、雷はゴロゴロ鳴り、山はいつ崩れてくるかわからない。マジで怖かった。トラウマになるレベル。
それに……俺の腕には大荷物がくっついてるし。
「えへへ……パパ……大好き……えへへ」
さすがに颯爽と登場し過ぎたか……好感度が凄まじいぐらいに上がってる。いやらしい話、元々高いからもう上がらないと考えていたんだけどな……。
まあ、仕方ないか……こんな台風の中で都心からここまで来て、山崩れの危険がある中自分に会いに来たんだから……俺が女だったら即惚れてる。
「俺ってイケメンだな……顔はそうでもないんだけど」
「うん? パパは顔もイケメンだよ? その辺のアイドルなんかプランクトンぐらいに」
「いや、さすがにそれは世界の基準に失礼だわ」
まあいいか……そんなことよりも早く風呂に入りてぇ……真夏だから凍えるほどじゃないけど……こんな豪雨に打たれてるとさすがに冷える。
ガラっ――。
『お父さん、お姉ちゃん!!』
そんなことを考えていると、家の扉が突然開き、未来と三沢が心配そうな顔で家から出てきた。
そして未来は自分が濡れることをいとわずに、俺に抱きついてきた。
「おい、未来濡れるぞ……」
「そんなこといいんです! 私……心配で心配で。お姉ちゃん……帰ってきてよかった……」
「ごめんね未来ちゃん……」
「まったくだ。実花、無茶すんなよ。テンチョーなんて禿げるぐらい心配してたんだからな……」
「三沢、お前まで濡れなくていいだろ……」
三沢が俺の肩に腕を回して、実花に笑いながら言う。馬鹿言うんじゃねぇよ。恥ずかしいだろ……ってか、あんまくっつくなよ……胸が当たってるし。
こうなると未来がうるせえだから……実花は「もっとやれーっ!」って煽るし。
「……三沢さんには感謝してますがお父さんから――」
「ご、ごめん! 麻衣ちゃん!」
未来がいつものやり取りを開始しようとするが……急に実花が会話に入った。
ん? なんか視線が泳いでるし……落ち着きがない。実花らしくないな。
「え、えっと……あんまりパパにくっつかないでほしい……かな?」
んーーー? なんかいつもと反応が違う。顔も赤いし……ん? こいつ自分から嬉々として裸になるような奴だぞ。
なんでこんなことで照れてるんだ?
しかし、三沢にはその答えがわかったのか、両手を大げさに上げておどけて見せる。
「おー悪い。悪い。あはははっ、空気が読めないのはあたしの悪い癖だなぁ」
「ん? 三沢、どういうことだ?」
「いいんだよ。テンチョーは知らなくて。倫理的には問題あるかもだけどあたしは乙女の味方だ」
「そうです……ふふっお父さんは知らなくてもいいんです」
「はぁ……夢ちゃんに謝らなきゃ……私って勝手だなぁ」
わけがわからん。なんで夢野さんの名前が出てくるんだ? ……なに? 俺だけがわかってないの? おっさんは仲間外れにされるのに敏感なんだから勘弁してほしいけど……。
「パパ、今日は迷惑をかけてごめんなさい……あと――ただいまっ!」
まあ、今日は細かいことはいいか……。
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