第20話 家族で遊園地(2)

 そんな入場ゲートでの大騒ぎのあと、事前に買っていたチケットで3人仲良く入場した。

 今日来た『ネズミミランド』は日本を代表する遊園地だ。海沿いにあり、広大な面積を有していて、日に何万人と言う人たちがここを訪れる。

 さらにはネミミーというネズミのキャクターは老若男女に大人気で、特に女性は大好きな人が多い。

『デートはネズミミにこれば間違いない』という格言があるくらいだ。まあ、俺はそんなデート経験ないから知らんけど。


(ここに来るのも20年ぶりぐらいだしなぁ……入口の景色は昔から変わってないな)


 それもこの遊園地のいい所なんだろう。いつまでも色あせない思い出。素晴らしい。

 ……はぁ、みみっちいことを言ってもいいなら、料金も当時のままにして欲しかった……。


 下見の時の代金と今日の三人分の料金は正直馬鹿にならない。俺無職だし……。

 でも――。


「あははははっ! 私ここ初めて来たけどすっごいね! 見たことのない建物がたくさんあるっ! わっ! あの巨大噴水スケール大きいね」


「ほ、ほんと……すごい。あの奥に見える大きなお城に行ってみたいです……」


 ふたりが想像以上によろこんでくれてるから、いいか……うん、金に困ったら家にあるAVとかを売ろう。

 ん? あれ? 今実花のやつ初めてって言ったか?


「なんだ? お前らここ来たことなかったのか?」


 おっさん的にはJKはここに入り浸ってるイメージがあるんだけど……「今日どこ行くー?」「ネズミ~」みたいな感じ。


「うん。家は田舎だったからね~。パパナイス場所のチョイス!」


「はい。テレビとかで見てずっと来たかったんです。ふふっ、お父さんにお願いして連れてきて貰うの夢だったんです」


「そうか……」


 確かにこいつら田舎出身とか言ってたな……うーん、知らない期間があると言うのはなんとなく寂しいな。

 まあ、これから話して、色々知っていけばいいか。


「さて、まずはどうするか……先に飯でも食いに行くか? 12時越えると一気に込むみたいだし」


 おお、自画自賛だが、ちゃんと調べていい立ち回りができてる気がする!

 これはさぞ娘たちの評価もうなぎ上りだろう。普段は風俗通いでダメな父親だけど、いざとなればかっこいいみたいな。


「いや、それよりも先にやることがあるでしょ。パパわかってないなぁ~」


「はい……ここに来たら必ずしなくてはならないです……とっ、テレビでいってました」


 う、うん? なんか見落としてるらしい。なにこの遊園地には暗黙の了解とかあんの?


「この場所に来たらあれをつけないと!」


 実花が興奮気味に指をさす。そこには――。

 この遊園地のキャラクターであるネミミ―の耳のカチュウシャが売られていた。

 あー、この場所だとこういうのをつけてる若い子は多いよなー。

 

 実花たちもつけたいのか? ふっ、まだまだ子供だな。


「いいぞ。好きな物を買って来いよ。ほらっ、これ」


 俺は財布から5000円を取り出して、実花に渡す。

 実花はそれを嬉しそうに受け取ると、ニッコリとほほ笑む。


「さすがパパっ! これで3人お揃いのやつ買ってくるねっ!」


「待て」


 こいつ今なんて言った……?


「ん? どうかしたの?」


「俺の聞き間違いじゃなければ、俺の分もって言ったか?」


「うん! もちろん! お揃いの物をつけてたくさん写真撮ろうよ!」


 じょ、冗談じゃねぇ!! 中年の親父があんな可愛らしいカチューシャなんてつけてられるか! いくら夢の国でもそこまでプライドを捨てることなどできない。

 だって、傍から見て、すごく滑稽じゃないかあれ……別につけてる中年を否定するつもりはないけど……俺はそこまで童心に返れる性格じゃない……こればかりは娘の頼みでも嫌だ。


「やめろ。俺はいい。お前らふたりでつけろよ」


「ええええええ~。パパノリ悪い~」


「なんとでも言え。俺は絶対につけない――」


「そうですか……お揃いはだめですか……そうですか」


 な、なんだ。未来の無表情の中に漂う哀愁は……そ、そんな捨てられた子犬のような眼をするな。

 お、俺はあんなの……つけないぞ。だってバカみたいじゃないか。

 後で写真を見たら、自分の年も考えずにはしゃいだことを大後悔するに決まってる!


「お揃い……お揃い……お父さんとお揃いしたいです」


 …………。


「実花、未来。3つ買ってこいや! ダンディーな俺に似合う神々しいのを頼む!」


「お父さん……! ありがとうございます」


「ふふっ、りょーかい! この実花ちゃんがベストチョイスしちゃうからね!」


 父親は娘には勝てない。世の中の真理とはそういうものなのかもしれない……。

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