俺と援軍

203


「……どう思う?」


 俺の作戦に、タルサは呆れるように笑った。


「正直に言えば、妾はお主様が死ぬ可能性のある方法は嫌じゃ。危険極まりない方法じゃし、失敗する可能性もある。二兎追う者は一兎も得ずともいうし、博打と言わざるを得ん。つまり、妾がその方法を思いつかなかったのは当たり前というわけじゃ」


 ぼこぼこに否定され、ぐうの音も出ない。


「しかし、不可能ではない。むしろ――成功するじゃろう」


「……本当か?」


「お主様がそれを信じれば、それは現実になる。全てはお主様の信じる心にかかっておるし、邪魔さえ入らなければ、お主様は確かに二兎を得るかも知れぬ。普通ならば不可能じゃが、お主様は不可能を可能にする男じゃ。お主様はご都合主義の大馬鹿者じゃから、十中八九、成功するじゃろうなぁ?」


 タルサの顔には、悪戯を企む子供のような笑みが見え隠れしていた。


「なら、決まりだな?」


 俺の言葉に、タルサは薄くため息をつく。


「しかし、万が一にも失敗しそうであれば、お主様の魂だけでも戻ってこい。そうでなければ、妾はお主様を生き返らすために――それこそ百万人の生贄を集めてやるぞ?」


 タルサは笑っているが、冗談には聞こえないのが恐ろしいところだ。


 そんなことになったら本末転倒だし、なによりも、


「俺はタルサが笑ってくれるなら、なんだってできるさ」


「……そ、そういうことを真顔で言うでない!」


 俺の言葉は本心だったが、タルサは恥ずかしそうに顔を反らしている。


 少しだけ、タルサに一矢報いることができて満足だ。


「さて、時間も無いし行くとするかの?」


「おう!」


 俺たちが門を抜けてお屋敷の庭園へと足を踏み入れると、いくつもの地響きが生まれた。


 恐らく、タルサの寝返りにミーナさんが気づいたのだろう。


 俺達の前には、身長三十メートルはあるゴーレムが何体も生まれて立ち上がる。彼らの腕は輝きに包まれると、右腕は槍状に尖り、左腕は盾のように変化していた。そのまま隊列を組んだ彼らは、まるで巨大な壁が立ちふさがっているかの様だ。


「分かりやすい時間稼ぎじゃな?」


 タルサがニヤリと笑い、俺は魔剣に手をかける。


「お主様よ? あのゴーレム共は、お主様が倒したゴーレムとは違う。今度は本気で命を狙ってくるぞ? それに、あのゴーレム共はお屋敷に集められた魔力で強化されておる。硬さもさることながら、知能も上がっておると考えるべきじゃ」


 タルサが教えてくれている間にも、地面からゴーレムたちは生まれ続けている。


「妾がなぎ倒して良いところを見せたいが、時間が惜しい」


「……なら、どうするんだよ?」


「ゴーレム共の相手は、援軍に任せるとしよう」


「え、援軍?」


 タルサはそんな人たちを準備していたのか? 


 そんな俺の疑問に答えたのは、背後に響く複数の馬のひづめの音だった。

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