俺とタルサ
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タルサが俺を待ち構えていたのは、悠久の魔女のお屋敷の前だった。
お屋敷へと続く小さな門の前で、タルサは仁王立ちして俺を見つめている。
タルサは異世界に転生した時の、金色の刺繍を施された白いローブを羽織っていた。陶器のような白い肌と美しい金髪を持つタルサは、口さえ閉じていれば女神そのものだ。本当に神々しくて、最初に出会った時と、その後の落胆はいつ思い出しても笑える。
「ここまで来るとは、流石は妾が惚れた男というべきかのぅ?」
高笑いするタルサの胸が、俺の前でばるんばるんと揺れている。
対する俺は、タルサを前に顔をしかめた。
苦虫がどんな虫かはわかんないけど、もしも噛んだらこんな感じの顔になるだろう。
「……ついに出やがったな?」
「想い人を化け物のように言うでない。お主様も妾が傷ついてしまうのは不本意じゃろ?」
言葉とは裏腹に、タルサは笑顔を絶やさない。
悠久の魔女のお屋敷まであと一歩なのに、ここに来て、最強最悪の敵が現れやがった。
味方ならあれほど頼れる存在だったが、対峙するなら脅威以外の何者でもない。
「それにしても、嘘からでた真とはよくいったモノじゃと思わぬか?」
上機嫌なタルサの言葉に、俺は同意する。
「……懐かしいな」
タルサが〝俺の敵になるかも知れない〟と言っていたのは、いつのことだったろうか。
俺の願いから解放されたタルサは〝黒い腕の仲間になる〟と嘘をつき〝次に会った時は、敵同士かも知れんぞ?〟と口にした。
「あの時は嘘をついただけで、本当に敵になるつもりはなかったんだろ? 俺のために嘘をついてくれていた――優しいタルサに帰ってきて欲しいぜ」
俺の言葉に、タルサはさらに笑う。
ますますタルサの胸がばるんばるんと揺れる。
最近はタルサの隣にいたから、こうして正面からその胸を見られるのは福眼だ。
「妾の想いは変わらぬ。妾の行動原理は単純明快にして至極当然。妾の行動はすべてお主様のことを想ってのことじゃ。悪いことは言わぬ――この国は、諦めよ」
「……」
「そもそも、この国は悠久の魔女の創り出した国に他ならず、その国民は悠久の魔女の所有物に等しい。この国の民は、今まで――悠久の魔女の生み出した平和を享受しておった。その代償がどれほどのモノかも気づかぬ哀れな者共には、相応しい最期じゃ」
「……それは、本気で言ってるのか?」
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