『異世界でエルフはメイドになる!』2

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 幼いミーナが意識を失った後。


「酷い有様だな」


 カルヴァンはミーナの身体を影で覆い、黒い塊のような姿で死体の転がる道を進んだ。


 鼻歌交じりに歩いていると、目の前に獣人の皮を被った兵士が立っていた。


 斧を持ち、鎧を身にまとった兵士の顔は狼の顔をしているが、その下から生じる別の魔力が隠しきれていなかった。どのような意図があるのかは分からないが、エルフが獣人のフリをしているらしい。同族殺しとは、まったく度し難い奴らだ。


「お前らが殺ったんだろ?」


 声をかけるまで、兵士はカルヴァンに気づかなかった。


 兵士が注意散漫になるほどの光景が、この先には広がっているらしい。


 振り返った兵士をカルヴァンは影で包み、そのまま噛み殺した。肉塊ごと魂を影に取り込み魔力を補充する。エルフを食べるのは初めてだったが――魔草よりも美味い。悪魔よりもよほど上質な魔力だ。


 カルヴァンは前菜を先に食べることにした。


 広場を中心に配置された兵士たちを一人ずつ取り込んでいく。召喚直後ということもあり調子はあまり良くなかったが、闇夜に乗じてエルフを襲うことなど朝飯前だ。全部で三十ほどのエルフを咀嚼しながら、広場をようやく視界に入れる。


 主食はもちろん、広場の中央の魔法使いだ。


「なぜ失敗したっ!?」


 広場には俺様を呼び出すための魔法陣が描かれ、それを囲うように村人の生首が並んでいた。


 俺様を呼び出すための魔力を捻出するために、この町の住民を生贄にしたのだろう。確かにここには俺様の主を定めるための術式が展開されていて、本来ならば、俺様はここに召喚されるハズだったらしい。


 ミーナの姉であるネルが、神官のような仰々しい姿のエルフに襟首を掴まれている。


「魔力だけが消費されるなど、何をした!? 小娘め、私の偉業をよくも妨害したな!?」


 半狂乱で喚く神官は、周りの兵士がすでに息絶えたことにすら気づいていない。


「そんなにも俺様と会いたかったのか?」


 カルヴァンの声に、びくりと震えて神官が振り返る。


「儀式なら成功してるぞ?」


 ようやくカルヴァンに気づいた神官は、恐れ慄きながら口を開く。


「お前は――そんな、生贄を捧げたのは私だ! 私がお前の主だぞ! どうして――何が起きている!? 誰が掠め取った!?」


 カルヴァンは影を伸ばし、ネルを掴み続ける神官の両腕を切り落とした。


 ぼとりと地面に落ちた腕を見て叫び声をあげる神官の前で、地面から口を生やして飲み込んでやる。……戦士でないから肉が柔らかい。魔力も兵士たちとは比べ物にならないし、口の中でとろけるようで美味だった。


「ば、化け物がっ!?」


「化け物はお前だろうが。魔族でも同族殺しなんてしないぞ?」

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