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「つまり、奴はお主様に手出しできない。しかも、奴はお主様がまだ願いを書き込む〝媒体ばいたい〟すら持っておらんと考えておるハズ。この状況は奴にとっての大きな誤算であり、わらわたちにすれば大きなチャンスじゃ。奴のすきを突き、妾たちは一刻も早く魔力を集めねばならぬ」


 タルサが俺に、ひかえめに視線を向けた。


 何かを躊躇ちゅうちょするような様子に、俺は眉を寄せる。


「どうしたんだ?」


「いや、お主様に……これだけは、しっかりと伝えねばと思うてな」


 タルサはこほんと咳払せきばらいをして、右手を差し出してきた。




「妾を助けてくれて、ありがとう」




 タルサの顔はいつもの不敵な笑みではなくて――まるで恋する乙女にも見えるような、はにかむような、見ているこちらが恥ずかしくなるような笑顔だった。


「……こっちこそ、よろしくなっ!」


 その顔に見惚みとれていたと、気づかれてしまっただろうか?


 俺はタルサの手を握り返し、ようやく始まったのだと思う。


「ところでお主様よ? ひとつ聞きたいことがあるのじゃが?」


「……なんだよ?」


 タルサの問いに、嫌な予感がした。


 タルサめ、今度は何を考えているんだ?


 俺の疑惑ぎわく眼差まなざしを、タルサは涼しい顔で受け流す。


「お主様は、いつまで同じ服を着ておるのじゃ?」


 ……。


 気づいた瞬間、無性むしょうに着替えたくなったし、風呂にも入りたくなった。


「なんてことを気づかせるんだよ!?」


 俺は慣れない異世界で過ごすのが精一杯で、そこまで考える余裕がなかったらしい。考えてみれば、俺は別の服なんて持ってないし、風呂だって入ってなかった。


「くっくっく」


 俺の抗議をタルサは笑い飛ばして、


「またこの異世界が不便になってしもうたのぅ? 残念無念じゃが、仕方ないから服を買って温泉でも行くしかあるまい」


 ……こいつ! 


「今日は妾と、買い物デートするのじゃっ!」


 それが目的か!


 ニヤリと笑うタルサが、いつもの二割増しで可愛く見えた。


 その顔を見ながら思う。


 俺はまだまだ、ランキング上位の神には程遠い。


 やることは山積みで、苦労する未来しか見えない。


 でも、タルサの為にも――異世界で俺は神になる!




         つづく

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