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「この異世界は、魂の通り道に生まれたが、その場所は現世に限りなく近い。現世の隣に生まれた――ご近所さんじゃ。目に見えぬ電波が、魂と同じようにここまで届く可能性は大きい」


 タルサが、俺を説得してくれている。


 その言葉の、真意が分かった。


 ――今、最も大事なのは、タルサの言葉を、俺が信じられるか、ただ、それだけだ。


「さらに言えば、ここは神ランキングでいえば64位の悠久の魔女がおさめる国じゃ。この異世界には、さらなる大国がごろごろと存在しておる。森に囲まれたこの街は、田舎いなかという言葉が相応ふさわしい。田舎で電波が届きにくいのは当たり前じゃろ?」


 タルサの力強い目を見て、タルサの言葉を信じる。


 俺は電波が受信できるようにスマホを持つ腕を振った。


 この世界の確定していない物理法則は、俺の無意識から生まれる。


 電波が途切れた理由は、タルサが言う通りに〝ここが田舎で電波塔から遠い〟からだ。


 絶対にそうだ。


 タルサはこの世界で、誰よりも〝知っている〟のだから、真実に決まってる!


 画面に目をやると、わずかに一本だけだが、電波が戻ってきていた。


 画面の中で、アプリが立ち上がる。


 俺は自分のプロフィール画面を開き、俺の書いた物語の一覧を開く。


 たった数日、目を離しただけなのに、現実世界と同じ画面がとてもなつかしく感じる。


 俺の最新作の所に、連載中となっている物語があった。


『異世界で俺は神になる!』


 俺はその物語を開き、編集画面へと進む。


 俺は一行の文章を書き足し〝公開する〟をタップした。


 俺の手にある爪楊枝つまようじが輝いて消滅し、腹の中にたまっていた魔力なのだろう――魂の一部が削り取られるような感覚が、あった。

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