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 俺はゆっくりとソレを取り出す。


 俺の家は両親がきびしくて、中学生の頃にはコレを持たせてもらえなかった。高校生になって初めて持つことを許されたコレは、当時としては最新機種だった。まったく、友達がいないのも考え物だ。連絡なんて誰からも来ないから、持っていないことに違和感すらなかった。


 俺の手には、スマホがあった。


 今はパソコンじゃなくたって、小説を書ける時代だ!


 ……とりあえずスマホは現れてくれたが、まだ安心するのは早い。


 俺は震える指で、電源ボタンを長押しする。


 落ち着け、大丈夫だ。


 俺はあの日、電源を切ってから事故にあった。電源を切る前に電池は十分に残っていたし、電源をオフにしていたスマホが、そんな簡単に電池切れになるハズがない。


 俺の手のスマホは、バイブレーションの後に電源が入った。


 スマホは問題なく、動いてくれた!


 俺はそのまま、いつも利用していた小説サイト専用のアプリを立ち上げる。


 俺は書き上げた物語を、公募する前にこのサイトに公開していた。


 新しく書いた物語は、それこそ全て公開して、俺なんかの小説を読んでくれる優しい人たちから、参考になる感想を貰っていたんだ。


 なら、俺の物語である『異世界で俺は神になる!』も、必ず公開されているハズだ。


 アプリが立ち上がるのが、少し遅い。


 もしかして――そう思った瞬間だった。


 画面左上に表示された四本の電波表示が、瞬間的に失われ圏外けんがいへと変わる。


 また、やってしまった。


〝電波が届かないんじゃないか〟と俺が思ったから、それが現実に起きてしまった。


「ふざけるなよっ!? あと一歩なんだぞ!? あと一歩で、タルサを助け――」


「お主様、落ち着くのじゃ!」


 タルサが、まっすぐに俺を見つめていた。


わらわは誰よりもこの世界を知っておる。つまり、妾の言葉は信用にあたいする。そうじゃな?」


「そうだけど……」


 タルサは、どうするつもりなんだ?

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