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 目的の占い屋は、路地裏にあった。


 首都に近づくにつれ、背が高く密集するような建屋が目立ってくる。そんな街の細い抜け道に光は届かず、どこかジメジメとした暗い路地の一角。そこを縄張なわばりにしている占い屋は、やはり訳ありなのだろうか。


 俺の前にいる占い師は、黒いローブ姿で仮面をかぶり、顔を隠していた。


 性別すら分からない意味深な外見だ。


 俺に目線を向けるでもなく椅子に座っていて、机の上の水晶玉に手をかざしていた。


「そろそろ来る頃だと思っていました」


「ならば話が早いのぅ」


 タルサが答えると、占い師はタルサを見上げる。


「どのような占いがご希望ですか? お似合いのお二人様は、やはり相性占いですかね?」


「馬鹿を言うでない。わらわは世間話をしにきただけじゃ」


 占い師は薄く笑う。


「世間話をするのは苦手です。タルサ様は世間話がお得意ですから」


 この占い師、タルサの名前を知っているのか?


 それに、この声は、どこかで聞いたことがある気がした。


「まぁ聞くがよい? この世界で最近起こっておる事件を占い師殿は知っておるか?」


「……世情にうとく、どの件か分かりかねます」


「突然現れた一つの種族が、急速に勢力を伸ばしておる。その種族は背に翼を生やした天使のような姿らしいのじゃが、個々が様々な〝願い〟を持つ転生者で構成されておるらしく、近隣国家はその対策でしっちゃかめっちゃかじゃ」


「それは有意義な情報ですね」


「ここからが本題じゃ。その天使たちは領土を広げる他にも目的があるらしい。殺戮さつりくから逃れた者は〝羽を折られた天使を見たことはないか?〟と問われるのじゃと。これは妾の推測すいそくじゃが、天使共には裏切り者がおるのじゃろうな。その天使を奴らは血眼ちまなこで探しておるらしい」


「……それは、私をおどしているのですか?」


「もうその辺でよいじゃろ?」


「……仕方ありませんね」


 仮面を外した占い師は、青い目で青い髪の好青年。


 ――白い空間で出会った、天使だった。

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