俺と神のお仕事

31


 検問所を抜けた先は、活気にあふれる街だった。


 中世ヨーロッパを彷彿ほうふつとさせる西洋風の建物が並び、市場の開催される時間なのか、石畳が敷かれた道の両端には出店が立ち並んでいる。行き交う人々は様々な種族をごった煮にしたようで、この景色を見ているだけでもファンタジーの世界に放り込まれた気分だ。


 いや、実際に彼らはここで生活しているのだから、これこそが異世界なのだろう。


「異種族が暮らしているのに、平和なんだな?」


 俺が周りを見渡しながらいうと、タルサは薄く笑う。


「他の国も平和なわけではないぞ? この国は悠久の魔女が治める国じゃ。順位こそ低いものの、その実力は折り紙付きじゃし、民を重んじるこの国に喧嘩を売る阿保あほうもおらん」


「……その順位って、何の順位だ?」


「その話は目的地に着いてからの方が早い。まずはこの街に来た理由を話すぞ?」


 タルサが歩き始め、俺もその隣を進む。


わらわの願いは〝知る〟ことじゃ。生前に知ることを求めた妾は、この異世界に転生するにあたり〝知る〟願いの力を得ておる。妾はその知識から、この街に行くことに決めたのじゃ」


「タルサの願いは、やっぱり健在なんだな」


 俺の力は失われたってのに、少しズルいと思う。


畳針たたみばりでは着物きものえぬ。お主様の願いは全てを網羅もうらする無敵の魔術であるが、ゆえに消費魔力が桁違いなのじゃ。お主様はコスパが悪すぎる」


 横で歩くタルサの笑顔に、どうしても悔しくなる。


「……俺って、やっぱり役立たずなのか?」


「世迷言を」


 タルサはさも意外そうな顔で俺を覗き込んでくる。


「お主様は不可能を可能にする存在。妾はお主様を役立たずだというほど傲慢ごうまんではない。いざという時にこそ、お主様の願いは最強の武器になるはずじゃ。ところでお主様? 着いたぞ」


 タルサが見上げている建物は、木造建ての大きな集会所だった。


 その建物の看板を見上げる。


「神ランキング協会?」


 口に出してみたが、まるで馴染みのない言葉だった。


 なんか日本語と英語が混ざっていて気持ち悪いし、新興宗教っぽくて胡散うさん臭い感じがする。


「何をボサッとしておる? 早く登録に行くぞ」


「いやいや、何の登録だよ?」


「神になると言ったじゃろ? 運転免許と同じじゃよ」


「マジか」

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