俺と入国審査

27


 森を歩いて抜けた先に見えてきたのは、大きな街を覆う石造りの長いへいと検問所だった。


 大きな都市の国境らしく、俺たち以外にも旅人や馬車に乗る人たちが列をなしている。


 その人々を見ながら、俺は興奮していた。


 なぜなら、彼らは普通の人間ではなかったからだ。


 ひときわ背の高い人が歩いていると思ったら、巨人族だとタルサが教えてくれた。他にも体全体が包帯に包まれた怪しい商人がいたり、大きなトカゲをそのまま二足歩行にしたようなリザードマンがいたりする。むしろ普通の人間の方が少ないだろう。


 入国審査をしている鎧を着た憲兵たちも、旅人同様に様々な種族が混じっている。


 なんだかとても異世界っぽい。


「どうにかなりませんか!?」


「……確証がない以上通すわけにはいかぬ」


 俺たちの前に並んでいた、サイクロプスなのだろうか――単眼の女性が、角の生えた獣人の憲兵と揉めている。


 単眼の女性の腕には幼い子供が抱かれており、その子は苦しそうに咳を繰り返していた。何かの病を患っているのかも知れない。


「……お主様よ、少し時間をもらうぞ」


「え?」


 タルサは俺を置いて、単眼の女性と憲兵の間に割って入った。


「こやつは感染症ではない。医者に診せればすぐにわかるゆえ、通してやるがよい」


「……何者だ、貴様?」


 憲兵は手にある槍をタルサに向けたが、タルサは不敵に笑うだけだった。


「この親子を追い返してしまえば悠久の魔女の名もすたるというものじゃ。君主の顔に泥を塗りたくないのであれば、早く医者を呼んでやるのが吉じゃと思うぞ?」


「……このご婦人とお子様を医務室へご案内しろ!」


 憲兵は戸惑っているようだったが、タルサの言葉に従うことにしたらしい。


「ありがとうございます!」


 単眼の女性がタルサに礼を言うが、タルサは軽く手を振って応える。


わらわは待ち時間を減らしたかっただけじゃ。それと、この街にはロウと呼ばれる腕利きの医者がおる。態度は悪いが腕は確かじゃ。治療を受けるのであればそこに行くがよい」


 別の憲兵に呼ばれた単眼の女性が頭を下げ、タルサはそれを見送っていた。


「病気の症状までわかるなんて凄いな」


 俺が思わず褒めると、タルサはニヤリと笑って口を開く。


「妾の力はここからじゃ」

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