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百聞ひゃくぶん一見いっけんかずじゃ。試しにパソコンを開くが良い」


 俺は言われるままに、タルサのかたわらに置かれたノートパソコンを開く。


 地面に直置きだけど、そんなことを気にしている場合じゃねぇ。


 最初に気づいたのは、その画面の変化だ。


 表示された『異世界で俺は神になる!』の物語は、3億9千872ページもあるぞ。


「俺が寝ている間に何が起きた!?」


「強いて言うならば、この異世界が誕生し、お主様が寝てから三十分ほど経ったぐらいじゃな」


「なら、どうしてこんなに――物語の続きが書かれているんだ!?」


 ノートパソコンの画面には、それこそ読み切れないほどの文量が書かれており、それは現在進行形で増え続けている。


「お主様は、世界五分前仮説を知っておるか?」


 聞いたことぐらいはある。


 哲学の思考実験のひとつ……だったと思う。


 思考実験っていうのは、有名な奴でいえば〝トロッコ問題〟とか〝水槽の中の脳〟と同じで、実際の実験ではなく、頭の中だけで行われる実験だ。


 タルサの口にした世界五分前仮説っていうのは――


「確か、世界が五分前に生まれたかどうかは誰にも否定できない……って奴だろ?」


 世界五分前仮説とは、その名の通り、五分前に世界が生まれたかもしれないという説だ。


 この世がいつ生まれたのかは、誰にも証明できない。


 例えば、年月をかけて成長した樹木の年輪ねんりんだって、本当にその年月を過ごしたのか、年輪ができた状態で五分前に生まれたかどうかは誰にも証明できない。それは人の記憶だって同じで、今まで生きてきた記憶を持った自分がどのタイミングで誕生したかは証明不可能だ。


「その通りじゃ。そして、それが実際に起きた」


「詳しくたのむ」


 タルサは満足そうに頷き、言葉を続ける。


「この空間の法則のひとつに、お主様の無意識が関係すると言ったのを覚えておるか? この世界は誕生した瞬間から、すでに歴史を刻んでおった。それは、この世界がお主様の無意識に想像した〝異世界〟の姿を顕現けんげんさせたためじゃな。つまり、この世界にはすでに何十億年規模の歴史があり、多種多様な種族がおり、複数の国が領土を取り合っておる」


「す、すげーな。つまりこの世界は、俺の考えていた異世界が再現されてるってわけ?」


「この異世界には、すでに妾たち以外の転生者も存在しておる。ゆえにお主様の無意識はベースとなっただけで、この異世界は数多あまたの願いを受け改変かいへんを加えられておる。お主様の無意識からはすでにズレておるから、正確にはもっとややこしい世界じゃ」


 タルサの話す内容はよくわかった。


 でも、そんなの関係なくないか?


「俺には世界を創るぐらいの力があるんだろ?」


「そこが最大の問題じゃ」


 タルサは盛大にため息をつき、視線をそらす。


 俺は疑問を持ちながらも、パソコンに文章を書きこんでみることにした。

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