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 爪楊枝つまようじを手に取り、タルサは笑う。


「こんな美味いモンが食えるなら、転生した甲斐かいがあるわい」


 躊躇ちゅうちょなく口に爪楊枝を突っ込むタルサの姿に、理想とのへだたりを感じずにはいられない。


「……タルサって、俺のイメージする女神と違うんだな?」


 俺のイメージだと、女神って奴は神聖とか清楚を極めたような人だ。


 タルサには見た目以外、清楚という言葉が似合わないと思う。


 悪口にも取れる俺の言葉を、タルサは笑い飛ばして、


わらわは神話の登場人物ではなく、女神という階級についておった魔法使いに過ぎん。お主様の生きていた世界には、女神と呼ばれる人間はおらんかったか?」


「女神どころか、魔法使いすら見たことねぇよ」


 俺の答えに、タルサはまた楽しそうに笑う。


「女神なんていう堅苦しい階級には愛想が尽きておったが、お主様に選ばれるための条件ならば、女神になれてよかったと感謝するべきかも知れぬ。お主様の力は、お主様の書き込んだ文章を最も自然な形で具現化する様じゃな? そもそも願いとは物理法則を歪めるほどに大量の魔力が必要じゃし、考えてみれば効率的とも言えるのぅ」


「……よくわかんねぇ。まず、この場所は何なんだ?」


「お主様には不要な知識かも知れぬが、知りたいなら教えよう」


 タルサは爪楊枝を指で弄びながら続ける。


「この空間は〝何もないハズの場所〟じゃ」


「……どういう意味だ?」


「魂だけが彷徨さまよう何もない――それこそ空間すら無かった場所。それがここ、じゃった」


「今は違うのか?」


「そうじゃなぁ? 話が変わるが、お主様は魂の存在を信じるか?」


 突拍子とっぴょうしもない話だな。


「あるとは、思う」


「では、魂が存在するのに、なぜ人口が増減すると思う?」


 話が難しいけれど、なんとなくタルサの言いたいことは分かる。


 魂が存在し、その数が一定だとすれば、人口が変わるのは不自然ということだ。


「死んだ魂はここを通り、数多の異世界へと移動するのじゃ。その中には人口が増加する世界もあれば減少する世界もあり、我々は数多の異世界を行き来して輪廻転生りんねてんせいを繰り返していたという訳じゃな」

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