異世界で俺は神になる!

星浦 翼

プロローグ


 俺はスマホの画面から顔を上げる。


 横断歩道の信号は赤のままだった。


 先ほどまで聞こえていたセミの大合唱は、どこか遠くに行ってしまった気がする。直射日光は肌を突き刺す様に降り注いでいるけれど、その熱さにも実感がない。口に突っ込んでいたサイダー味のアイスが滑り、地面に落ちた。


 俺はそれを見つめる。


 アスファルトの熱を受けたアイスは、すでに形を保っていない。


 まごうことなき夏だった。


 俺は改めてスマホへ視線を向ける。


 一次落選。


 見直した画面は先ほどと何も変わらず、ただ無機質にその事実を伝えるだけだ。


 7月10日は知る人ぞ知る、電撃小説大賞の一次選考通過作品の発表日。


 話は簡単だった。


 俺の応募した物語が落選した。


 俺の頑張りなんて、その程度だと納得しながら〝一次選考は通るかな〟と期待していたのも事実だ。だって、俺はこれでも青春真っ只中ただなかの、大切な高校生活の二年間を捧げたんだぜ?


 応募前にネットで貰った感想だって、好感触だったってのに。


 不意に通知が着て、俺はスマホへ視線を移す。


 それは、俺がネットに上げている小説に応援コメントが付いた通知だった。


 ケモ耳さん:面白いです! 謎が謎を呼んで続きが気に――


 俺はスマホの電源を切ってジーパンの尻ポケットにしまった。


 いつもは嬉しいのに、今は返事を書く気にはなれなかった。


 アイスの棒を拾うが、アイスはすでに融けていて棒だけがずるりと抜ける。


 アイスの棒には〝はずれ〟と書かれていた。


「死にたい」


 それは本気で思った言葉ではなかったけれど、冗談かといえばそれも違うと思う。


 そこで、不意に気付いた。


 俺の隣に、金髪の少女がいた。


 少女は俺の事を怪訝けげんそうに見つめていたが、目が合うとそそくさと視線をそらした。


 聞かれてしまったのだろうか?


 情けないなぁと思いつつも立ち上がる。


 少女から見た俺は、不審者なのかもしれない。


 傍から見た俺は、アイスを道に落として死にたいとつぶやく男だ。


 死にたいほどアイスが好きなら、落とさずちゃんと食べろ。


 信号が青になり、少女が歩き出す。


 その後姿を眺めながら考える。


 家に帰ったら長風呂でもして、インスタントラーメンでも馬鹿食いしよう。そんでもって冬眠する気で寝まくろう。そうすれば、この気持ちとも別れられるハズだ。


 その時、俺はそんなことしか考えてなかった。


 横断歩道用の信号は青で、カッコーの鳴き声に似た電子音だって聞こえていた。


 それでも減速しないトラックに気づいて、俺は走り出していた。


 本当は、後ろに逃げるべきだったのだろう。


 俺は結局、最後まで馬鹿だった。




 俺は少女の身代わりになり、そして、死んだ。


 らしい。

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