きおく泥棒はいいました [童話]
【作】
【絵】
きおく
まだおさない男の子のような見ための泥棒で、
かれはいつも一人で
しかし、きおく泥棒はたいせつなきおくを盗んでしまうこともあるので、おとなたちはかれのことをきらっています。
ある夜のこと。
きおく泥棒は
「どうして眠れないの?」ときおく泥棒はたずねました。
子どもは泣きはらした目をこすりながらいいます。
「わるい夢をみたから、寝るのがこわくなっちゃった」
きおく泥棒は
「ぼくが来た。もうだいじょうぶ」といって子どもの髪をそっとなでました。「ぼくの言葉につづけて目をつむってごらん。だいじょうぶ」
子どもは「だいじょうぶ、だいじょうぶ」とくり返して目をつむります。それから、まぶたを閉じたまま、きおく泥棒にたずねます。
「あなたはほんとうに泥棒なの?」
「泥棒だよ。ひとのきおくを
「盗まれると、きおくはどうなるの?」
「
「忘れることはいいことなの?」
「わからない。いいことかもしれないし、わるいことかもしれない」
「わるいことをしたら、だめなんだよ」
「ぼくがわるいことをしているのか、それはじぶんで決めることだ」
「じぶんで決めること」と子どもはくちに出して考えましたが、きおく泥棒がわるいことをしているのか、いいことをしているのか、子どもにはわかりません。
「わからない」と正直に
ややあって、きおく泥棒はいいました。
「わるい夢はおわりだよ」
こうしてわるい夢を盗まれた子どもは、わるい夢にうなされることはなくなりました。
すこし時間が
「きおく泥棒さん! どうもありがとう!」
すると、きおく泥棒はていねいにお
「きみが泣いていたら、きおくを盗みにいくよ」
「いつでも盗んでいいからね!」
子どもはきおく泥棒のことがすきになっていました。その子どもには、おとなたちがかれをきらう理由がわかりませんでした。
やがて子どもはおとなになり、たったひとりの
またすこし時間が
「また会えたね」とうれしそうにきおく泥棒はいいました。
「どうして来たの?」と子どもだった老人は首をかしげます。
「きみが泣いていたからさ」
きおく泥棒のちっとも変わらない見ためをふしぎそうに
今日は、愛した人の
重い
きおく泥棒は、愛した人のきおくを盗みにやってきたようです。
「さぁ、もう泣かなくていいように、そのきおくを盗んであげるよ」
そこでようやく、きおく泥棒がおとなたちからきらわれる理由がわかりました。
「このきおくは
老人はきっぱりと断ります。
「どうして? きおくがあるから、きみは泣いているのに」
「
「わかったよ。ぼくは泥棒だけど、ひとのものを勝手にはとらない」
きおく泥棒は、地面にすわりこみました。
「おとなたちはみんなそういって、ぼくのことをきらいになる」
どうやら、かれは
昔とは
「おとなになるとわかることだよ」
「おとな……でもぼくはずっと子どものままだ」
「きみは思い出を盗むばかりで、じぶんの思い出がないからおとなになれないんだ」
「じぶんの思い出があるとおとなになれるの?」かれは不安そうに
「まずは盗んだきおくを返さないと」
「返したくないよ。だってきおくがあれば、ぼくはひとりでもしあわせだから」
「ひとりぼっちのしあわせより、ぼろぼろになってもふたりで手を
老人はしわだらけの手で、かれのみずみずしく
「わぁ、あったかい」
「だめだったら、また盗めばいいじゃないか。一回くらい、勇気を振り
「そうだね。ちゃんと返すことにする」
最後に、きおく泥棒はいいました。
「ぼくはきみのこと、きみが生きていたということを決して忘れないよ」
なぜか泣きだしそうになったかれをみて、老人は
以来、きおく泥棒がひとのきおくを盗むことはなくなりました。
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