第十二話  乙女たちな女子会

「まったくのろけちゃってこのこのぉー!」

「話せって言ったから話したのに~」

「塾では聴かない貴重な話だわ」

「き、貴重?」

 いちばん左に敬ちゃん、私の左隣に穂綾ちゃん、私、そして私の右隣に知尋ちゃん。円形のテーブルを囲んですてきなイスに座ってる。

 この日この時間、知尋ちゃんの家で女子会が開かれていました。きゃ。

 知尋ちゃんがたまたま一日お休みができたので、塾で一緒の穂綾ちゃんに話したら遊ぶことになって、その穂綾ちゃんが帰りに敬ちゃんとたまたま会ってそのことをしゃべったら敬ちゃんも来るとなって、知尋ちゃんから私に電話があったので私も来ちゃった。

 敬ちゃんは白いランニングシャツに黄色いズボン。穂綾ちゃんは薄いピンクに白い花柄のちょっとふりふりワンピース。知尋ちゃんは薄いオレンジのブラウスに白から薄い赤にグラデーションしてるプリーツスカート。私はただの水色のワンピース……うん、女子会だぁ。

「普段どんなことして遊んでんの?」

「お買い物とかー、お茶することが多いかなー。遊園地も行ったよ」

「くぅ~! デートざんまいの夏休みでさぞかしお熱い夏でございましょうねこんのこんのぉ~!」

「わ~」

 敬ちゃんと穂綾ちゃんはきゃっきゃしてる。ち、知尋ちゃんなんでメモ取ってるの……?

「やっぱ夏と言ったら海よね! もう水着見せた?」

(んっ、けほっけほっ)

 危ない、の、のどにっ。

「み、水着なんてそんなー。無理だよぉ~……」

 私はそっと紅茶を飲んだ。知尋ちゃんのメモは進んでいる。

「なぁーに言ってんのよー! 男なんてみんな彼女の水着見たいに決まってんでしょー! それを変態と見るか見せてあげないとかわいそうと思うかは穂綾次第! 日向のことが本気で大事なら、水着くらい見せてやりなよ~!」

「で、でもでもでもぉ~……」

「雪乃さん」

「な、なに?」

「男の人って、どんな水着を見たいものなのかしら」

「知りませんっ」

 私は紅茶を飲んだっ。

「雪乃さんはどんな水着を持っているの?」

 水着話になっちゃったぁ。

「……白色からピンクにグラデーションしてて、桜の花びらが描いてるの」

「なるほど」

 そこメモしてどうするの~?

「雪乃の水着姿見たーい!」

 敬ちゃんが話題に入ってきた。

「み、見てどうするの?」

「かわいがる!」

 敬ちゃんは敬ちゃんでした。

「あたしも新しい水着買おっかなー? ただのオレンジ色なんだよねー。でも使うとこないか。あは! 穂綾の水着は?」

「小さいときのしかないよ~。海行かないしー……でも秀は海行きたいって言ってるの……」

「お!? じゃあ行っちゃう!? 穂綾の水着買いに行っちゃう!?」

「ええ~っ、きょ、今日じゃなくっても~」

「今日じゃなきゃいつ買いにいくっていうのよ! こんなにメンバー集まってんだし! ね! ねっ!」

 敬ちゃんが私と知尋ちゃんを見てきた。

「穂綾ちゃんが行きたいならついていくけど……い、行きたくないなら無理に行かなくってもっ」

「大治郎さんが車を運転してくれるはずだわ」

「ほらほら穂綾聞いた!? 二人ともついてきてくれるって!」

 そこ以外の部分がなかったことにされちゃってるっ。

「ぅ~…………ゆのんとちーちゃんも、水着……買った方がいいと思うー?」

 私と知尋ちゃんはちょっと目を合わせた。

「わたくしはお父様やお母様についていくとき、浜辺やプールで向こうの方とお会いするときがあるから、水着は必須よ。か、彼氏のために必須かどうかは知らないわっ」

 さすが知尋ちゃん。

「日向くんは、穂綾ちゃんと一緒に海に行きたいってだけを言ってたんだよね?」

「うんー」

「じゃ、じゃあ別になくても……」

「甘い! 甘すぎるわ! 男っていうのは声に出さずとも彼女の水着を見たくてしょうがない生き物よ!」

 敬ちゃんの力強い握りこぶし。

「け、敬ちゃん詳しいね。そんな知識どこから得たの?」

「マンガ!」

 マンガだった。

「けいけい男の子友達多そうじゃんー。けいけいこそ男の子と海行かないのー?」

「あたしっ!? あたしは~、あ、あたしはほら! こんなでかくてがさつだから、あたしの水着なんて見たってだれもうれしくないって~あはっ!」

「敬ちゃん身長高いからこそかっこよく見えると思うよ?」

「ないないないー! てかかっこいいって、それ女として見られてなくない!?」

「そんなことないよ~。かっこいい女の人モテそうー」

「モテたことなんてないんだけどなぁあたしぃ。いやほんとまじで」

 私と穂綾ちゃんのきらきらビームは容赦なくはじかれちゃいました。

「知尋の知ってる人だってさ! でかい女はモテてないわよね!?」

「そもそもモテという話にならないわ」

 敬ちゃんうなだれる。

「けいけいこそかわいい水着買って気になる男の子と一緒に~……?」

「な、なぁーんであたしの話になってんのよ! あたしのことなんていーのっ」

 敬ちゃんがちょっと焦ってる。

「そういえば敬さんは他の女の子のお話をするけど、ご自分のことはなさらないわよね?」

「うっ」

「私も敬ちゃんの話ってあんまり聞いたことないから、たまには教えてほしいな」

「ぐっ」

 たまには反撃っ。

「けいけい~。気になる子、いるのー?」

「へ!? い、いいいるわけないじゃん!」

「ほんとのこと言ってー」

 穂綾ちゃんのここぞとばかりの熱い熱い視線ビーム。

「い、いるわけ~……いるわけ~…………」

 私と知尋ちゃんも視線ビーム。びりびり。

「…………わっ。わ、わかったわよわかったわかった! だからそんな目やめてぇ~!」

「教えて~」

 穂綾ちゃんがにこっとしてる。

「……だ、だれにも……ここにいるみんな以外、ぜーったい、だれにも言わないでよ……?」

 わ。敬ちゃんの気になる人が聴けるっ。みんなうんうんうなずいてる。

「……じ、実は、さー。その……」

 うんうん。

「…………が、柄でもないんだけどね!? あたしなんかと全然合わないと思うんだけどね! あたしっぽくないんだけどねっ?!」

 うんうん。

「………………し……しっちょー……が、その、ちょっと…………うん……」

 穂綾ちゃんも知尋ちゃんもくえすちょんまーくを浮かべてる。

「……仲崎なかざきくん?」

「わ! わざわざ言い直さなくていいってば!」

「ほぇ~」

 私たちクラス室長の仲崎なかざき かおるくんだぁ。普段は静かなのだけど、ここぞというときは先生相手でも立ち上がる、頼れるリーダーシップの持ち主。

 なるクラスなるクラスで室長に推薦されては受け持っているので、仲崎くんという名前よりも室長と言われることの方が多くなってしまったという男の子。本人もクラスのためになるならばと積極的に取り組んでいる。

「しっちょーかぁ~。どんなところを好きになったのー?」

「す、すす好きとかさ! まだそんな段階じゃないっていうか!」

「ほら答えて~」

「わかったからわかったからっ! え、えとえと。だってさ。こう。ここだーっていうときにバシっと言ってくれんじゃん? 度胸があるっていうか、頼りになるっていうか……常に正しいことを言ってる感じで、信頼できるっていうか……」

 知尋ちゃんのメモしてる表情がいつになく鋭い……怖い? ような気がするのは気のせいなのかな。

「けいけいそういう男の子がタイプなんだ~」

「だ、だーかーら! ちょーっと気になってるだけで、そういうタイプとか、す、好きとか、そういうのは、そ、そーゆーのはっ」

 敬ちゃんものすごく焦ってます。

「いつぐらいから気になってるの?」

「いつからって……うー……中一からかな……同じクラスだったから。で、ほら、今も同じクラスになったじゃん……? それでしばらく見てたら、なんかその、もうちょっと気になってきたような、っていうか……」

 敬ちゃんもじもじ。

「ちーちゃん。お車の手配を。場所はショッピングモールー」

 穂綾ちゃんがいつもとは違うとても鋭い目で知尋ちゃんに視線が送られた!

「任せなさい。大治郎さん、急ぎの用事ができたわ!」

 知尋ちゃんは立ち上がり、手をぱんぱんとたたいて大治郎さんを呼ぶ!

「え!? ちょ、穂綾!? 知尋!?」

 敬ちゃんテンパってる!

 私はー……と、とりあえず紅茶飲みきっておこう。

「お呼びでございましょうか」

「ショッピングモールへ行き、敬さんの水着を買うわ。全員を車で連れてってちょうだい」

「かしこまりました、知尋様。表に車を用意いたします」

「ちょっと穂綾知尋~!?」

「あと大ちゃん。同じクラスの仲崎薫室長について、調べられる情報を調べてけいけいに渡してあげてー」

「かしこまりました、穂綾様。事務班に伝え情報を集め、後日郵送にて調査結果を敬様にお渡しいたします」

「あんたたちいつの間にそんなに仲良くなってんのよー!」

 大ちゃんって言い方ちょっとかわいい。

(えっとえっとー、私もなにか言った方がいいよね?)

「大治郎さん」

「なんでございましょう」

「同級生の男の子が喜びそうなお弁当用のおかずレシピを敬ちゃんにあげてください」

「かしこまりました、雪乃様。給仕班と事務班が連携を行い、中学三年生男子に幅広く受け入れられるお弁当のおかずレシピを複数作成し、こちらも後日郵送にて写真付きの文書を敬様へお渡しいたします」

「ちょっと雪乃まで何言ってんのよぉ~!」

 お返しお返しっ。

「海についての情報もいるわね……中学生二人で行くのにちょうどよさそうな海があるかどうかもピックアップしてちょうだい。気象情報も確認し、海水浴日和になる日も割り出しておいて」

「かしこまりました、知尋様。こちらの情報もレシピ文書に同封いたしますが、郵送後も逐一情報を確認し、よりよい日が見つかりましたらお電話にて早急に敬様へお伝えすることにいたします」

「あんたたちあたしで遊んでない~っ!?」

 敬ちゃん置いてけぼり。

「お願いするわ、大治郎さん。さあ皆さん、参りましょう。急がねば敬さんに似合う水着が売れてしまうかもしれないわ」

 あ、大治郎さんが内ポケットから? 黒い通信機……? を取り出した。

「……もしもし、こちら神條大治郎でございます。至急事務班に調査願いたいことがあります。ええ。はい。調査対象は、知尋様と御学友であられます仲崎薫という……」

「至急ってそんな急がなくていいからー! 一体何人動かすつもりよぉーーー!!」

「さーいこーけいけい~」

「ちょっとちょっとこらこらこらぁ~!」

 私も立ち上がって、みんなについていきました。


 知尋ちゃん家の車に初めて乗ったけど、イスがふわふわ。音も静か。大治郎さんの華麗なるドライビングテクニックを味わいました。


 ショッピングモールに着くなり大治郎さんはパンフレットを手にして知尋ちゃんと穂綾ちゃんと作戦会議で水着が売ってるところの回る順番を確認。

 敬ちゃんもだけど私もちょっと置いてけぼり。これ私いる?


 敬ちゃんが水着売ってるところに連れられるやいなや、知尋ちゃんと穂綾ちゃんは敬ちゃんの体に水着をあてがってはどれにする~これにする~? と考えています。すごい速さで水着がチョイスされていきます。大治郎さんはどこと電話してるのかな。

 ひとつのお店を見終わると、とりあえず買わずに次のお店へ。大治郎さんのメモが光ります。それを何回か繰り返し、すべてが回ったところで敬ちゃんに意見を聞くと、敬ちゃんもついに折れたのかこれまで当てがった中からいくつか候補を出す。

 候補をもう一度当てがいに行き、最終的に決まったのは……。


「ミッションコンプリート~」

 黄色くて黄緑色のフリフリが着いたビキニに決まりました。

「大治郎さん、帰るわよ」

「かしこまりました。それでは皆様、車の方へ」

 ちなみに穂綾ちゃんの水着もついでに、というかあっさり買っちゃってました。カラフルで花柄のワンピースなの。ここまで来たら敬ちゃんの水着選びに集中しなきゃって気合入ってた。


 その後林延寺家に戻った私たちは、ここで知尋ちゃんのお部屋へ。

 初めて入った知尋ちゃんのお部屋は、やっぱりというかなんというか、私のお部屋よりもとっても広く、ベッドもカーペットもカーテンもテーブルも、なにもかもが私のよりすごかった。

 知尋ちゃんのお部屋に来た理由は……


「い、いーよー」

 敬ちゃんの声が聞こえたので知尋ちゃんがドアを開けて、私と穂綾ちゃんも入った。

「似合う似合う~」

「わあっ、かわいい~」

「サイズは問題ないのかしら」

 敬ちゃん水着の試着でした。


 敬ちゃん試着を終えたら穂綾ちゃん試着も行われたけど、敬ちゃんにいつもの勢いはなかった。

 知尋ちゃん試着はなかったけど、どんな水着を持ってるのか出して見せてくれた。こんなに水着持ってる同級生、いないんじゃないかな……。相手や場面に合わせて選んでるんだって。


 こうして、私たちの女子会が幕を閉じた。敬ちゃんなんかへとへと。

 やっぱりこれ、私いなくてもよかったんじゃないかなぁ?

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