第十一話  積み重ねても過ぎ去りし

「今日は雪乃の友達が遊びに来るんだったな。車出してほしかったら父さんに言うんだぞ」

 私のお父さん、桜子 勇士ゆうし。今日は日曜日だからお休みで、お母さんと買い物に行く以外は特に外に出る用事もないって。

「お菓子欲しかったらいつでも言うのよ。すぐに用意するわ」

 私のお母さん、桜子 秋音あきね。お母さんもお仕事お休み。

「宿題一緒にするの? 私も一緒にしていい?」

 私の妹、桜子 結歌ゆか。外に出てることがほとんどだけど、今日は家にいてる。みっつ下の小学六年生。

「結歌も一緒にしたいの? 私はいいけど、流都くんに聞いてからね」

「うん」

 流都くんが来るまでリビングで待っていようと思ったら、家族みんなが私を囲んでた。

(そろそろかなぁ)

 約束の十時になった。

 その瞬間インターホンが鳴った。ばっちり。

 私は玄関に向かい、ドアを開けた。

 流都くんが立っていたので、手招きした。流都くんがやってきた。

「おはよ」

「おはよう、流都くん」

 白いシャツに黒いワンポイントの文字、そして紺色のジーンズ。緑色のリュックもお決まりのもの。

 私は薄茶色い半袖ブラウスに白いロングスカート。

「今日は家族みんないるの。顔出していってくれる?」

「わかった。ちょっと緊張するな」

 家に上がってもらって、リビングに通した。

「ども、こんにちは」

「やあこんにちは。君が流都くんだね」

「こんにちは。いつも雪乃と仲良くしてくれてありがとう」

「こんにちはー」

 桜子一家勢ぞろいです。

「えっと、妹? 雪乃妹いたのか?」

「うん。あれ、言ってなかった?」

「聞いてない聞いてないっ」

 結歌は私たちを交互に見ている。今日はピンクのシャツにベージュのスカート。

「結歌っていうんだけどね、結歌も一緒に宿題したいって言ってるの。いいかな?」

「一緒に? あ、ああ。いいよ」

「ほんと? じゃお姉ちゃんの部屋行く!」

 結歌はてててーっと私たちの間をすり抜け二階に上がっていった。

「よかったのかしら、結歌じゃまにならないかしら?」

 お母さんは私にコップみっつとマスカットジュースが入った容器と銀紙に包まれたクッキーサンドがいくつも入れられた器が乗ったおぼんを渡してきた。

「じゃまなんてそんな。仲良くなれればいいと思います」

 流都くん優しい。

「必要なことがあればいつでも呼んでくれていいからね。母さんと買い物する以外は、父さんたちもこの家にいるから」

「ありがとうございます」

 私はおぼんで流都くんをつんつん。

「じゃあ、上に行こう」

「ああ」

 私と流都くんは二階に上がった。


 私の勉強机で結歌が、折り畳みテーブルをふたつ出してそこで私と流都くんが宿題をすることになった。

 昨日の大会の話になって、私たち吹奏楽部は残念ながら上位二校に入られず敗退したこと、知尋ちゃんが悔しい顔をしていたことなどを報告。流都くんたちバックギャモン部もどのチーム・個人も初戦敗退だったことを私に報告。

 ちょっとだけ笑っていた流都くんだったけど、お互い残念だったねっていう感じで大会の話はおしまい。それからはあんまり会話はないまま宿題が進んでいった。

 私たちの最後の大会が終わりました。


「結歌ちゃんは、中学校に入ったら何かしたい部活はあるかい?」

「部活、何あるかわからないから決まってないー」

「そりゃそうかっ。どんな部活があるのか一覧の表くれるから、部体験とかしてみて考えるといいよ」

「うん」

「ちなみに、お姉ちゃんと一緒の吹奏楽部に入るつもりは?」

「えー、音楽苦手だしー」

「というご意見が出ていますが、お姉ちゃん」

 流都くんからお姉ちゃんと呼ばれました。

「楽器って、どんな人でも練習すればうまくなるものだと、私は信じてるよ」

「ほんとかなー」

「ほんと。私はそうやって後輩たちを教えてきたもん。ファゴットに後輩はいなかったけど」

「む~」

 ジュースを飲む結歌。

「そうか、当たり前だけど雪乃にも後輩っていて、いろいろ教えてるんだよな」

「私、ちゃんと先輩さんしてますっ」

 そんなに先輩に見えないかなぁ?

「お姉ちゃんは、なんで吹奏楽部にしたの?」

「音楽に興味があったからかな。運動部は大変そうだと思って、文化部から選ぶことにして、音楽に関係する部活は吹奏楽部だけだったから。なんとなくって感じ」

「ふーん。なんでファゴットにしたの?」

「私は希望を書いただけで決めたのは先輩だったんだけど、音がかっこよくて、人数が少なかったからかな」

「ん? なんで人数少ない楽器なんて選んだんだ?」

「……かっこ、いい……から?」

「なんだそりゃっ」

 流都くんに笑われちゃったっ。

「私たちの吹奏楽部は、ファゴットって一年~三年までの中からたった一人しかなれないの。楽器が一本しかないから。だから選べる時期も限られてて、私がファゴットしてる間は他のだれもファゴットパートになれなくて……ほら、かっこ、よく、ない?」

 この気持ち、伝わるっ?

「あーなるほどな、選ばれし勇者! って感じなわけだな!」

「勇者かどうかは……でもそんな感じ。知尋ちゃんと仲がいいのは、フルートはオーボエとファゴットと一緒に練習してるからだよ」

「雪乃のおかげで、知尋は義理堅いやつだってわかったよ」

 ファゴットパートしてなかったら、知尋ちゃんともあんなに仲良くなれなかったかもしれない。

「結歌もいい部活に入れるといいね」

「うんー」

 流都くんが飲んでいたジュースを途中で飲むのをやめて、

「お、ちょっと待てよ? 雪乃が引退するってことは、次結歌ちゃんが入学するとき、ファゴットできるってことなんじゃないか?」

「あ、そういえばそうだね」

 私と流都くんは結歌を見た。

「えー、重そうー」

「うん、重たいよ」

「重たいのはちょっとー」

「ということらしいです流都くん」

「なんだよ姉妹で続けて同じ楽器とかかっこいいと思ったのによー」

 それはそれでかっこいいよね。


 お母さんがお父さんと買い物にいってくるということを伝えに来た。

 このおうちには私たち三人だけになった。


「終わったぁ~もうだめ~」

 結歌の宿題が終わったみたい。国語をやってた。

「私ももうちょっと」

「雪乃早ぇー」


「おしまい」

「俺まだ残ってるー」

「あージュースおいし」

「ちきしょっ!」


 流都くんがいるということで、私と結歌はバックギャモンをすることにした。

「ちょ! なにオープニングロールゲーム開始のサイコロ第一投やってんだよ!」

「宿題終わったの?」

「ぐぬぬぅ!」

 結歌の先攻でゲームが始まりました。


「そこ俺ならああ動かすのにー!」

「宿題は?」

「うひぃ~!」

 あ、私の駒はじかれちゃった。


「おっしゃ終わったー!」

「終わるまで待っててね」

「ほほぅ~結歌ちゃん積極的にバックマン最も後方にある二駒スプリットする分けるおもしろい攻め方だなー」

「えいっ」


「負けちゃった」

「勝った~!」

「おいお姉ちゃん負けてんじゃねーかー」

「私動かし方を知ってるだけだもんっ」


 それからしばらく流都くん対桜子姉妹で戦ったけど、全部負けちゃった。惜しい戦いもあったのに。

 ついでに流都先生からちょっとコツも教わった。今度知尋ちゃんと戦うときに使おう。


 バックギャモンが終わっても、トランプとかドミノとかを使って三人で楽しんだ。結歌がここにいるのは珍しい方。

 結歌が私の同級生と遊ぶこと自体は考えられることだけど、そもそも外に出て結歌の友達と遊んでることが多いから、私のお部屋で私の友達との間に入って遊ぶのは珍しいことになる。

 流都くんもすっかり結歌と遊べちゃってる。


 お父さんとお母さんが買い物から戻ってきたみたい。今度は私たちはすごろくや積み木みたいなバランスゲームとかで遊ぶことに。


「こんなにアナログゲームで遊び倒したの久しぶりだな!」

「男の子友達とはこういうのしてるんだよね?」

「してるけどこんなに大量にはやんねーよっ。今日だけで一体どんだけ遊んだんだ?」

 ピンクのおもちゃ箱が輝いて見えます。

「おし。そろそろ俺帰ろうかな」

「うん。今日はありがとう、楽しかった」

「俺も。結歌ちゃんまたな」

「うんー」

 私たち姉妹は流都くんを玄関まで送ることに。


「どうも、おじゃましましたー」

「またいつでも遊びに来るといい」

「これからも雪乃をよろしくね」

「ばいばいー」

 私はサンダルを履いて、流都くんをお見送り。


「結歌とも遊んでくれてありがとう」

「いい妹じゃん。あーあ俺も妹欲しかったなー」

「流都お兄ちゃん?」

「ぶはっ! 雪乃が妹だったら楽しいだろうなっ」

 流都くんの妹……うーん、やっぱり流都くんは同級生のイメージ。

「また電話するから。また遊ぼうぜ」

「うん」

「じゃな!」

「ばいばい」

 流都くんが帰っていっちゃった。後ろ姿を眺めておこう。


「流都くん、いい子じゃないか」

 晩ごはんでも流都くんのお話になった。

「雪乃が男の子を連れてくるなんて、珍しくないかしら」

「そうかなぁ」

 って言ってみたけど、中学生活さかのぼっても思い出せなかった。小学校のときだったら、男の子とは外で遊ぶことはあったけど。

「ああいう子なら歓迎だ。いつでも連れてきなさい」

「いつでもなんてっ。でもまたうちで遊ぶ日はあると思う」

「お母さんたちがいなくても、勝手にお菓子食べていいからね」

「うん」

 結歌は黙々とごはんを食べていた。

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