魔人事件簿リテイク版

飛瀬川吉三郎

プロローグ『あの男』とクリフォ・チップ


探偵事務所『魔哭』、英訳すればDevil May Cryなのは言うまでもないが、さりとて、この物語に悪魔は出てこない。これは悪魔よりも悪魔な人間の悲劇を生み出す『魔人』と呼ばれる者を『独断死刑』するためにその『殲滅探偵』鬼堂辻の物語である。


『独断死刑』とは元々、江戸時代の頃、徳川綱吉が国内の荒廃っぷりと退廃の蔓延に嘆いた時に裏で整備された制度で、まず、悪鬼羅刹蔓延る江戸はもとい、何より地方よりも人手が足りない、これは岡っ引きや死刑処刑人としての業務ではなく、必殺仕事人よろしく法で裁けない悪や、裁くには腕前が必要とされる悪党まで手が回らないと言うことである、それを幕府は嘆き、そして怒り狂い、『絶殺組』という組織を作った、それが法務省の管轄下になり、『絶殺局』になった。


探偵業法があり探偵業を行うには、都道府県委員会に開業の届出が必要であるが、この『絶殺局』に届け、は『絶殺局』の管轄下の『私立処刑人』として活動を許されるようになる、これ即ちを持つという事である。


この『私立処刑人』を持つ顔も持つ探偵はダークヒーローとして扱うのは容易いことだ。


鬼堂辻はその中でも『殲滅探偵』と呼ばれるほど悪を許さず、悪を必ず殺す正義狂だ。


鬼堂辻が悪への怒りや憎しみやらを燻らせながら依頼を待っていた。


ノーマルな依頼やイージィな依頼はたまにやって来るし、大物政治家の家出少女を探してくれとかいう依頼や犬の散歩を代わりにしてくれとかいう依頼まで来るがすべてお断りしている、ここは魔人専門の探偵事務所だ。


「また今月も僕がてめぇみたいな資金援助しなきゃならない気がしましたよ」


探偵助手、『私立処刑人』は実質的な国が選んだ合法的な殺し屋だが、そのサポートだと思っている彼、美少女な助手なら良いが、ところがどっこい女装野郎、男の娘な彼にまたそういう事を言われる鬼堂辻。


「いらねぇ、この間のどこにでもある依頼じゃねぇ魔人系の依頼の中で政府関連のは報酬破格だったろ?」


事務所の椅子に座っているが目の前の机に足をかけていた。


「でしたねー」


女装野郎は掃除をしていた。


フローリングなんてない剥き出しコンクリートの探偵事務所だがコロコロをかけていた。


「というか最近のは政府関連だからな、国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をする犯罪であり(刑法77条)、内乱予備罪・内乱陰謀罪(刑法78条)や内乱等幇助罪(刑法79条)とともに、刑法第2編第2章に内乱に関する罪として規定されている内乱罪、外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処せられる(刑法93条1項)私戦予備罪・私戦陰謀罪、これを犯す奴が最近、魔人には多いんだよなぁ」


女装野郎がそれを聞いて、誰かを思い出して、その誰かに向けて愛を突然、叫んだ。


コロコロは手を上にあげたとき、天井に投げて、自由落下させた。


「その中心にいるのが『あの男』!僕の大好きで大好きで女装してまで彼の女性の恋人になりかわるまでの事までしたいとまで思う柳眉りゅうび柳腰やなぎこし!桃花眼を持った中性的でクールビューティーな眉目秀麗な『あの男』!」


掌を広げ、踊る、踊る、踊る。


『あの男』、無貌、ドS、蝙蝠野郎、レッドフードの危険因子、『魔人王』、平成最悪の犯罪者、前歴万犯の青少年、人類最狂の男、ギネス級大量殺人鬼、コタール症候群のネクロフィリア、邪眼師サリエル神の悪意サマエル聖天魔ホーリーマーラ狂道化ロキ殺戮の伝道師バールベリト死の支配者ミクラトンテクートリ、そして這い寄る混沌ニャルラトホテプとさえ言われる存在だ。


『あの男』にカリスマ性を見いだし、心酔する者達も多い、組織のリーダーにも多々なった、天魔マーラに聖がついて聖天魔ホーリーマーラとつけられたのも彼を神と崇める邪教があるからである。


その『あの男』と鬼堂辻との関係性は深く、鬼堂辻が抱いた『あの男』に向けたあらゆる負の要素、怨、憎悪、殺意、法務省絶殺局直下の『私立処刑人』探偵になった誘因だ。




、どんな形であれ魔人と関わった者ならば最後には口々に言う」



鬼堂辻が忌々しげに呟いた。


「それは正解よ」


鬼堂辻の言葉に見知らぬ誰かがクイズ番組よろしく言う、男尊女卑の日本では聞けないアナウンサーのような清楚な女がするのではなく元違法風俗上がりのグラビアアイドルの艶やかな声でクイズ番組女司会者代行をした。


探偵事務所『魔哭』の入り口の向こう側、ドアの上部分の曇りグラスのシルエットが長い髪、ピアス、そこから女だと分からせた。


ドアから女はガチャリと入ってきた。


「私は公安警察の浪江よ、安室じゃないけど公安で浪江よ、もちろん偽名なんだけどね」


ボディスーツをしていたその浪江とかいう女の妖艶さは公安警察というよりどちらかといえばルパン三世の峰不二子という感じだ、口元のほくろがエレクチオン追加ダメージして立っていたら前屈みになるレベルだった。


「『あの男』の中で一番気をつけて欲しいのは這い寄る混沌ニャルラトホテプよ、それはではとてつもない脅威よ……そうね、貴方達、『次世界推進委員会』って知っているかしら?」


「『三百人委員会』なら………」


女装野郎がそう言った。


それに浪江は真実を一つ提示した。


「それは、『次世界推進委員会』は実際に陰謀を働いている、魔人が作った三つの最悪な組織、魔人三大組織ダーク・トライアドって呼ばれている中では一番厭世的で破滅的よ」


魔人三大組織ダーク・トライアド?三つもある?魔人組織はでかいのが一つしか欧州になかったろ?」


鬼堂辻はそう指摘した。


「三つ目はでは脅威にしなくてもいいわ、だってこの世には存在しないもの」


「は?」


「あの世にあるってことよ」


浪江は続ける。


「逆に『次世界推進委員会』はこの世に存在して、を積極的に滅ぼそうとしている、『あの男』が一番活躍を楽しみにしている組織もここ、そこの女装野郎、種村徳太君だっけ?『次世界推進委員会』の基本理念は、だから貴方、どう足掻いても『あの男』に惚れられないわ、貴方も無価値と断じられてるわよ?」


「そ、そんな」


女装野郎が足を折ってしまった、心が折れてしまったのだろう。


「誤認と誤解って言うのは少子化対策とか貧困対策をどう改善すれば良かったかという視点が間違っていたという事と歪な競争原理の是正をする気がないという事の誤認ね、誤解は差別、イスラーモフォビア、ゼノフォビア、ホモフォビア、レズフォビア、バイフォビア、トランスフォビアへの誤解とミソジニーとミサンドリーがジェンダーロールの固定を強いられねばならなかったという誤解ね」


「貧困と差別を無くす、か………」


鬼堂辻はフリーゲームの暗黒街にはやたら競争原理と社会批判を含まれてるえぐみゲームがあるのを知っていた。


そこから答えを一つ導きだした。


「や愚人滅とかする気かよ」


「今の世界では一度はする気よ、新世界は皆の精神を一つにとか高次元に導くとかだけど、次世界は人間を少し賢くするだけ、タイムループが近いかしら、それの世界規模版、教育改革とか日本と米国に人権機関設置とか平成パラダイムシフトをさせるとか、そうやって社会は変わっていくわ、それが表向きの理由よ、本質的に求めている理由は週刊少年ジャンプの路線変更って感じかしら、なんやかんやあってバトル展開に変わっていく」


「表向きの理由だけなら最高だし許せたなぁ、だが本質的に求めている理由は許せないな、魔人がしたい本命は魔人として暴れる、何人の中二病患者がいるっていうんだよ」


「それは億単位から数えるべきね………」


「救ぇねぇな」


神の悪意サマエルの名前の通り、世界に悪徳を蔓延らせるのが目的で、聖天魔ホーリーマーラを崇拝している通り、若者にお金が回り、それゆえに欲望に満ちた一億総天魔社会になるってことね」


「………本当に救ぇねぇな」


「まぁでも『次世界推進委員会』は次の世界では影も形もなくなるわ、次世界を何度も求めたら無限ループになっちゃうからね…」


「三番目の魔人組織は魔人組織としてはきっと週刊少年ジャンプに出てもおかしくない悪の組織だろう、今の世界では反りが合わないし抑止力も過敏になって仕方ないだろうな」


「ご名答、互換性よ」


「残った魔人組織のみが今の世界と次の世界で両方活躍が出来るって事か」


「そうね、いつでも第三勢力になるでしょうね、だって、


「魔人の作り方?」


「それはまだ教えないし、今回の依頼を受けたのなら自然と分かる仕様だわ、ところで、インプラント手術って知ってるかしら?」


身体改造におけるインプラント、体を装飾する目的のために皮膚の下に器具を埋め込むこと。Church of Body Modification(身体改造愛好家のための教会)によるとインプラントには二つの主要な種類が存在しており、一つは器具が皮膚内に完全に埋め込まれるサブダーマル・インプラント、もう一つは皮膚上に装飾具を出す形で行われるトランスダーマル・インプラントとしてそれぞれ知られている。身体改造という文脈において、シリコーンや他の物質の注入もインプラントであると考えられることもある。古くから行われている性器インプラントのようなもの以外では、身体改造におけるインプラントは伝統的な背景を持たない近年始まったものであり、まだ数百人程度しか受けていない新しい身体改造である。


つまり体内に異物を入れる事である。


「どちらかといえばマイクロチップとかいうIT用語とかかな、頭にチップに入れられるの、SF映画だけどあれで出来るのはGPS監視ぐらいだからね、まぁ魔人の作り方って頭にチップみたいなのをいれるって話なんだけど、教えないって言ったけど、結局、今教えちゃったね、機密事項なんだけどねー」


てへぺろをしてそれは妥協した。


「まぁその方が分かりやすいか、数年前に女のマッドサイエンティストが強化人間を作るために魔人の作り方に近いことをしたことがあるけど、鬼堂辻さんはその女のマッドサイエンティストを


「あぁ、あれの完成形って事だろ?」


狂っていた女のマッドサイエンティスト、死んだ連続殺人鬼のような好みの男を作ろうとして、人体実験による強化人間製造を名目にして、副産物で殺人鬼の量産をしていた。


「魔人の作り方、あぁもうまどろっこしいな、もう名前言っちゃうか、名前はそのまま魔人因子殻片クリフォ・チップ、ユダヤ人のカバラでセフィロトの対になるクリフォトの接続者がサイコパスになるんだけど、チップを頭に入れられて人格改造されてサイコパスになる、魔人の当て字はサイコパスで魔人サイコパスとも読めるわね」


「あの女の求めていたのはサイコキラーだろ?ならヤツの願ったり叶ったりだったろ」


「そうよ、だから名前を教えた方が情報を整理出来ると思ってしたのよ」


「名前を教えてくれたのはありがたいがその不吉さ満載な情報はありがたくなかったな」


「えぇ……そうね」


暫しの沈黙。


それはお互いに話した内容の吐き気を抑えているように感じられた。


「えーと、そこにロングチェア二つの間に机のある来客用スペースで腰を降ろして話した方がいいのでは?僕、コーヒーいれてきます」


種村徳太が気の効いた事を言ったのでそれを二人は聞いて、場所をその来客用スペースに移し、二つのロングチェアに向き合うように座った。


コーヒーが置かれた。


鬼堂辻は猫舌だったので放置したが、浪江はすぐにフーフーしてから少し飲んで落ち着いた。


「で、依頼はそのままずばり魔人因子殻片クリフォ・チップを奪い取って欲しいのよ」


「魔人全員の脳内にあるなら抉りとれって言っているに等しいな」


「その通りよ、それ以外解釈できる要素はないわ」


「今まで『独断死刑』したら法務省絶殺局の死体清掃係に後始末させてたからなぁ……」


魔人因子殻片クリフォ・チップを回収して法務省絶殺局の人員さえも魔人にしたいんでしょうね、だって使


「魔人になるって事そのものが違法だろうに、特例法でも整備してんのかよオイ」


「………それも合ってるわ」


「なーる」


鬼堂辻はコーヒーを飲んで言う。


「まぁ機会があったら奪うわ、なかったら知らん、お前との関係はそれでおしまいだ」


「……連絡先はおいてくわ」


懐から取り出したメールアドレス@以降は見知らぬアドレスが書かれた紙を渡される。


そして浪江は立ち上がり。


「じゃあ、私は奪う可能性に賭けるわ」


そう言って、探偵事務所から去っていった。

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