発注ミスはお嫌ですか

 社務所の地下室。俺の仕事を手伝いながら、優姫が話しかけてくる。優姫は大きな勘違いをしていたらしい。


「あのぉ、マスター。この子達は、生贄にされるのでしょうか」

「えっ、どうしてそうなるの。そんなことする訳ないよ」

「供物は、どうするのですか?」

「それは『絵魚』を使うんだよ」


 俺は地下室の物置きに大量に置かれた『絵魚』の中から1つを取り出す。かわいらしい金魚が描かれている。優姫はそれを俺から奪い取って、まじまじと見る。しばらくして優姫は安堵のため息を吐く。


 このとき、まりえが地下室に入って来るんだけど、俺も優姫も気付かない。まりえは俺と優姫が2人きりなのでお邪魔かと思い、物陰に身を置く。


 優姫はにっこりと笑って『絵魚』を片手に、俺に向かって言う。


「では、どうして金魚を発注なさったのですか?」

「発注? してないよ。親父が発注したんだろ」

「そうなんですか! マスターの発注ミスだと思ってました」

「さすがにそんな馬鹿なミスはしないよ!」


 俺のその言葉に悪意はない。けどまりえには自身を咎めているように感じられたみたい。自分のような馬鹿な子は、俺の側にいてはいけないとまで考えてしまう。


「マスター、ごめんなさい! まりえが馬鹿で、ごめんなさい!」


 まりえが近くにいることに俺が気付いたときは、もう手遅れ。まりえは階段を一気に駆け上がっていく。

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