親父の負の遺産

(みんなズルいのじゃ)


 光龍様が拗ねている。買い物に行けないのが仲間外れみたいで気に入らないみたい。


(まあまあ、仕方ないですよ……。)


 俺は小学生をあやすようにして言う。そうやって祟られない程度に揶揄う。その方が、喜びも大きいだろうからね。日供祭では、いつもならたい焼き3個を供えるんだけど、今日は特別。ジャジャーン! 俺は話題のタピオカドリンクを取り出す。そして、光龍様に見せびらかす。


(おおおおー! はよう供えるのじゃ!)


 これ以上は何されるか分からないから、俺は素直に差し出す。後で俺が飲むんだけどね。光龍様はとても喜んでくれる。お土産はあおいさんの入れ知恵。こういう気遣いができるなんて、あおいさんって、高飛車だけど意外と女子力高いのかも。


 光龍様との和気藹々とした日供祭を終えて社務所に戻ると、困り顔のまりえがいる。話を聞くと、まだ写真が送られて来ないみたい。代わりに得体の知れない荷物が置いてある。まりえが中身をあらためると、何とびっくり、金魚!


「……。発注ミスかよ。優姫、塩を持ってきて」


 発注ミスで金魚が送られてくるなんていうシチュエーションは、普通の家ではないと思う。けど俺家ではたまにある。全て親父の仕業。酔っ払うと『絵魚』と『金魚』を間違えて注文してしまうんだ。今回は4匹。


 金魚達を水槽に入れる前、水合わせとか色々とやるべきことがる。結構な重労働なんだけど、俺は手慣れている。その場で塩を使いトリートメント。そして金魚達を地下室に運ぶのをまこととしいかに手伝ってもらう。


 買い物から帰ってきてから終始別行動を取っていたのが、あゆみさん。社務所においてある『社務日誌』に興味を持ったみたい。古いものだと漢文で書かれているんだけど、すらすら読めるなんて凄い。光龍様に鮭や鱒を奉納していた頃のことも読んだみたい。因みに、俺の苗字『鱒』は、その頃の名残なんだ。けどこのあゆみさんの博識とコスプレイヤーの性が、とんでもない事件を生む。

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