俺は宮司で高校生! 魚編に尊ぶと書いて鱒太一、マスターと呼ばれる男

世界三大〇〇

年収200万円だけど7人の巫女のマスター!

辞令

 期末テスト、しゅーりょー! 2つの意味でオワタ。でも気にしない。平成が終わると礼和がやって来るように、期末テストが終わるとやって来るのが……。


「こんにちは、夏休み!」


 と言っても、これからラブコメがはじまるってのとは、ちょっと違う。だって俺、高校1年生の鱒太一は、大の女嫌い。てゆうか苦手。てゆうか無理。カープ女子は例外だけどね⁉︎ だからこうして男子校に籍を置いているんだ。けど勘違いしないでくれ。男好きって訳でもない。ある事情で女子を避けているんだ。


 俺が好きなもの。それは、魚。金魚もメダカもアロワナも、どんとコイだ! コイはコイでも、魚だよ! テスト期間中は活動停止だったけど、俺の腕は少しも衰えていない。コンマ2秒で帰り支度を済ませると、一目散に帰宅。地下室の水槽に魅入っている。悠々と泳ぐ琉金のまりえ、蝶尾の優姫、キャリコのまこと、土佐錦魚のしいか。4匹とも元気そう。あぁ、幸せ。誰にも邪魔されたくないひととき!


 言い忘れてたけど、俺んちって神社なんだ。といっても零細だけどね。親父が宮司で年収200万。家は広いけど、決して夢のある職業ではないよね。


 それにしても今日は静か。いつもなら親父が夕餉の日供祭をする時間になっても何の音もしない。気になった俺は、居間に向かう。親父が居眠りしている姿を想像してたけど、どこにもいない。代わりに置かれていたのが1枚の紙切れ。『辞令』って書いてある。俺宛!


「なになに? 」


 ー鱒太一殿、『御神託』により貴殿を宮司に任ずるー


 えっ、俺、宮司になるの! 嫌だ! 絶対嫌。年収200万なんて、無理。親父の姿はないし、広い家に独りきりなんて、寂しい……。そうでもないか。金魚達がいるし!けど、今日の日供祭、親父がいなくってどうするのかな? 仕方がないから、見様見真似でやってみよう! 簡単そうだし。俺は私服のまま神殿に向かう。


(遅いではないか! 儂は腹ペコなのじゃ)


 神殿に入るやいなや、脳みそに直接刺さるような金切声。『いきなり金切』って店は聞いたことがない。姿が見えないし気配さえしない。声だけの存在。一体誰?


(儂はそなたの主人なのじゃ。覚えておくのじゃ)


 俺の主人? 神様! 宮司になったばかりの俺に声が聞こえる。信じられない! 神職でも神様と会話ができる人は少ない。もしできれば階級が上がり、年収1000万も夢ではない! そうなったら、金魚飼い放題だ! 嬉しい。


 俺家の神社は『光龍大社』っていうんだけど、お祀りしてるのは真魚光受姫(まなひうけびめ)。記紀には登場しないけど、それよりも古くから祀られている女神様。言いにくいから通称で光龍様と呼んでいる。


「では、あなたが光龍様ですか!」


(そうなのじゃ。早くご飯を寄越すのじゃ)


 俺は慌てて日供祭の支度をする。お供えしたのは手作りのたい焼き3個。光龍様は美味しく召し上がられてご満悦。といっても、たい焼きがなくなる訳ではない。供えるだけで食べたことになる。後で俺の胃袋に入れることもできて経済的。


(儂は満足なのじゃ)


 女嫌いの俺でも、実体がなく声だけの女神様なら無理に避ける必要はなさそう。良かった、良かった! そう思っていたけど、この光龍様との出会いが、俺の運命を狂わせる。

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