第7話【エピローグ・黒幕】

「もしもし、ママ。

 先日はご馳走様。今?荷ほどきの最中よ。

 立地も陽当たりも悪くない、築5年の住宅兼店舗が驚きの安さで空いていたものだから。

 わたしは偶然とは思えないけどね」


 砕けた口調で皐月は電話の相手に笑いかける。

 あの日、推理ゲームに参加したメンバー全員に〝 お車代〝として現金100万円が手渡された。

 それを元手に、霜降探偵事務所は新しく生まれ変わる事になる。


「あなたをカビ臭い場所に暮らさせる訳にはいかないもの。不動産屋は友達なの。

 所長さんは?」


「今、風が吹いている!と喜んで営業に行ってるわ。

 それにしても回りくどい事をするのね。

 あんな大々的に推理ゲームなんか開いて、目当ては所長だけのくせに」


「あなたが手紙の返事を寄越さないからでしょうが!

 考えてもご覧なさい。

 大切なが、いきなり学校を辞めて働きだしたと思ったら、勝手に入籍していたのよ!

 蝶一郎がどんな性悪女に引っかかったのか心配で、どれだけ眠れぬ夜を過ごしたか!」


「こっちも色々忙しくて。

 それで、どうだった?花嫁チェックの結果は」


 電話の相手は深くため息をついて

 目頭を強く押さえる。


「不合格なら、別れさせてるわよ。どんな圧力を使ってでもね」


「こわっ。でも良かった。これで公認ね」


「あの子、見えていないのよね?スムーズに謎を解くから意外だったわ」


「見えていないのは顔だけだから。

 ママが地味な格好で鎖骨を隠して現れたら、きっと分からないわよ」


「なんで鎖骨」


「所長の脅威のランクアップのキッカケになった変質者、あれもママの手の者でしょう。

 あんな危ない奴を使って。怪我をしたらどうしてくれるの」


「あれはウチの執事よ」


「うっそ。だってそんな事・・・あっ」


「霜降ちゃんには見えていないのでしょう?わざと派手なキャラにしたのよ。

 新聞社にもランキングサイトにも、コネがあってね」


「マントで鎖骨も隠したのね!」


「そんなに鎖骨って重要なの?まあいいわ。

 あの日落としたチョーカーの鈴。預かっているから、いつでも取りにいらっしゃい。

 今度はゆっくり食事をしましょう」


「その為の優勝賞金五億円か。

 うーん、そうね。ママのことまだ秘密にしておきたいな。

 守ってあげたい年下夫だから、わたし。

 だから依頼して欲しいな。どこでも綺麗にしちゃうんだから」


 カランカランとドアが鳴る。

 皐月は短く別れを告げて電話を切ると、霜降の元に駆けていく。


「お帰りなさい!」


「ただいま!聞いて皐月くん。

 ダブルで仕事を頼まれたんだ。浴室掃除と、旦那さんの浮気調査!」


「凄い!やっぱり風、吹いてますね」


 エアコンのごとき人口の風が、やがて本物になっていく事もあるだろう。

 皐月は支度を整えて、仕事に向かった。



 霜降ハウスクリーニング事務所。

 オプションで探偵業もやっています。ご家庭のどんな問題も、なんなりとご相談ください。

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