第2話 KilLeR CasE MuRDeREr cASe

「それで、結局君はどちらなのかな? 」

 古びた倉庫の一室の、羽虫の群がる白熱灯の下、黒服白髪の男性が白服黒髪の少女に尋ねる。

「まるで、何かの宣伝文句ね」

 少女は答え、くすりと笑う。

 白い服には、赤黒い花が散りばめられている。

 模様だろうか、汚れだろうか?

 そんな問いが馬鹿らしくなるくらいに、答えは明白だ。

 小さな手には手には凶器が握りしめられている。

「茶化さずに答えては頂けないのかな? 」

 老人は少女に問い、にこりと苦笑を浮かべた。

 黒い服には、濡れた痕跡。

 澄んだ水だろうか、濁った水だろうか。

 そんな問いが野暮なくらいに、答えは確実だ。

 老人の手にも凶器が握りしめられている。

「その前に、あなたは何でここに来たの? 」

 少女が問いかけると、老人はにこやかに答えた。

「ただの仕事だよ」

 老人の足元には、既に法律上では物体になってしまった物が転がっていた。

 その物体は運動器に穴が空き、つい先ほどまで何かを考えていたであろう器官を撒き散らしている。

 老人とそれの周囲には、汚れた水槽に似た香りが漂っていた。

「そう言う君は、何故ここに? 」

 老人が問いかけると、少女もくすくすと笑って答えた。

「ただの趣味よ」

 少女の足元には、辛うじて法律上でも生物と認められる者が転がっていた。

 その人物は四肢に無数の凶器の痕がつき、腹の中身を撒き散らしている。

 少女と彼の周囲には、前時代的なドブに似た香りが漂っていた。

「成る程。仕事なら或はと思ったのだが……」

 老人は、盛大な嘆息を吐いて呟いた。

「あら、どちらも行為はかわらないじゃない? 」

 少女は、正当な暴言を吐いて微笑んだ。

「まあ、それもそうだな」

「ね、そうでしょ? 」

 二人はそれぞれ、凶器と狂気を構える。


 二人の声が止まると、空気の抜ける音がかすかに耳に届いた。


「……慣れたとはいえ、酷い匂いだ。そうは思わないかな? 」

 微笑みながら私の顔をのぞき込む老人の足下には、ほんの少し前まで少女だった物体が転がっていた。

 眉間には小さな穴が穿たれ、後頭部には広い銃創が広がり、そこから彼女の持つ狂気の元凶となっていた灰色の塊がこぼれている。

 私はしばらく少女だった物をぼんやりと眺めていたが、老人の笑みが問いかけの答えを待っているように思えたので、辛うじて首を動かして頷いた。

 老人はゆっくりと頷くと、再び私に問いかけた。

「……楽になりたいかい? 」

 その口調は優しく、浮かべられた笑みはどこか淋しげだ。

 私が最期の余力で頷くと、老人も再びゆっくりと頷いた。

「解った……」

 先ほどからジワジワと狭くなっていた視界に、銃口のようなものが見えた。

 短い人生の終幕に立ち会った二人は、分別の無い最愛の素人と、分別のある行きずりの玄人。

 間もなく空気の抜ける音が聞こえ、目の前も完全に暗くなるのだろう。

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