S1 ロスト・フィーリング
アプリケーションのインストールをした。
次の瞬間、視界を光が奪った。
そして、何となくだが体が宙に浮いている気もする。
そんなことを考えていると、どこからかノイズの入った声が…
「こんにちは。新規ユーザー高梨さん。
今回、このアプリケーション。
通称バーチャルエース。
又の名をVS(ブイエース)を
インストールして頂き誠に有難うございます。」
「あっ。はいどうも。」
そして、見えもしない相手に挨拶をした。
視界が徐々に回復してきたので、目を開けた。周りの風景は一変していた。
そこは、さっきまでいた自分の部屋では
なく真っ白な空間だった。
ゲームなどはあまりやらない人間だったので、こういったことに疎い俺は焦りを隠せないこと丸出しの質問をノイズのかかった相手にした。
「ここって現実?俺の部屋?」
「いいえ。簡単に言うと仮想世界です。
そしてこの仮想世界には、私。
ゲームマスターに選ばれた人間しか来れません。いわばあなたは選ばれたのです。」
「仮想世界?ゲームマスターってことは、
何かのゲームなの?」
「そう思ってもらって構いません。しかし
同時にこれは現実でもあります。」
「どういうことだ?ゲームなのに、現実なのか?そもそも俺をここに連れてきた目的は?」
混乱した俺にゲームマスターとやらは、
一言でまとめてきた。
「目的は世界の救済です。」
「は?急にどした?分かりやすい説明を求む。」
「簡単に言えば、全世界のコンピュータの多数が自己を覚え、人間の世界を乗っ取ろうとしています。それを阻止して欲しいです。」
「コンピューターの阻止だと?ネットやゲーム経験0の俺に?タイピングすらまともに出来ないんだぞ俺。」
「そんな俺を呼んだ理由は、彼らとの勝負はサッカーですから。」
「コンピューターとサッカー??どうやって?」
「人として具現化するんですよ。彼らは。
まぁ、見れば分かります。以上で説明兼チュートリアルを終了します。
これ以上の質問は無しで。ではアデュ〜。」
ゲームマスターを呼び止めようとしたが、
俺の視界は暗闇に落ちた。
……?…ここは…?俺の部屋?
完全に目が覚め、体を起こした。
あたりを見渡してみたが、俺の部屋だった。
しかし、階段を降りてみると異変を感じた。
母親がいない。おかしい。それに外も妙に静かだ。
ピーンポーン!ピーンポーン!
突然インターホンが鳴った。
「誰だ?」
正直怖い。現実と思えないこの世界で突然インターホンが鳴るとか怖すぎる。
のが普通だが、
「はい。高梨です。どちら様?」
と俺は馬鹿なので何も感じてなかった。
「ゲームマスター。開けて。」
「ゲームマスターさん!?分かりました。今開けます!」
ガチャ…
「どうも。それで、どこにゲームマスターさんはいますか??」
「はい。ゲームマスターですが?」
しかし違和感を感じた。
俺の記憶では、ノイズの影響があったとは
いえど高校生ぐらいの声に感じた。
しかし目の前にいるのは、小学校高学年くらいの女の子と、その他十三人の人間だった。
「私のこと小学生だと思ってる?」
「何故わかったし?!さては、敵か!?」
「ゲームマスターですから。と、茶番は終わりにして。これでメンバーが揃ったわね。」
「メンバー?」
「そっ。メンバー。世界の救済するって説明したでしょ。」
「俺はやるなんて言ってない!」
「いいの?やると言わないとログアウトさせないわよ?」
「そんなことやれんのかよ?お前みたいな奴が?」
「ゲームマスターですから。」
ゲームマスターとやらは、何でもありらしい。
「分かりました。やります…。」
「よろしい。ではこの世界の説明をしよう!この世界は…」
ゲームマスターが一時間も説明するので、
簡単に説明する。
この世界は現実世界の全てを
モチーフとした世界で現実ではない。
そして、好きな時にログインとログアウトが
出来るため、いつでも現実に戻れる。
食べ物などは、想像したらコンピューターが
意を汲み取ってマジックのように現れる。
まぁ。いわゆる何でもありって訳ですわ。
「はぁ〜。説明長い。」
と、周りの人々も疲れた様子。
ところで、この人達は一体?
「そんな君の質問に答えよう。」
「うぉ!ゲームマスター!びっくりさせんなよ!」
唐突にゲームマスターがウツボのように出てきた。
「紹介しよう。彼らも君と同様にこの世界から選ばれた逸材だ!」
「えっ?!この世界に人がいたの?!」
「もちろんいるさ!因みにゲームマスターともいわれてる私だが、同時に私は神の様なものでもある。」
その時思った。神さまって一体?
「ちょ、君。神さまを馬鹿にすると痛い目見るぞ〜?ん〜〜?!」
「すいませんでしたっ!」
「話が進まん!説明を続けるぞ!
この世界のサッカーのルールは八人制。
その他のルールは君の世界とほぼ変わらないが、唯一違うとこが一つ。」
次の一言に俺は腰を抜かした。
「超次元的な行為はありなのっ!!」
「…。そんな無茶な。」
超次元ってアレだろ。なんでもアリな技が飛び交って、ドンパチやるやつでしょ。
正直死ぬかもしれない。てか死ぬ。
(遺書残そう。)
「早速来週試合がある!各々練習を怠るな!
練習は毎週月曜と水曜の夜だ!では解散!」
この日は解散となった。
しかし俺は、この後すぐにはログアウト
せずにこの世界を見まわった。
(次の時は、メンバーの名前を神さまに
教えてもらわないとな。)
そんなことを考えて歩いていると、裏路地に入ったあたりで、すれ違いざまに一人のイケメンの好青年に絡まれた。
「おい。貴様この世界の人間では無いな?」
…俺の事だよな? いやだな〜。絶対嫌な目にあうよ〜。
「いいえ?ぼくは〜この世界のじゅーにんですよー。」
「嘘をつかない方が賢明だ。臭いと情報で分かるぞ。」
「ちっ。獣か。なんか用ですか?」
今日は色んな人に振り回されたせいか
苛立ちが隠せずに逆ギレしてしまった。
「ちょうど良かった。勝負しないか?」
「いきなりだな。何で?」
「サッカーの実力みせろや。ついてきな。」
なんのつもりだ?と思いつつも律儀に俺は
ついていった。
そして五分程度歩くと公園に着いた。
「よし。ここで良いだろ。デリート!」
その言葉の直後、公園はただの大地となった。
「サモンズ!さらにゴールを二つ!」
次の瞬間ゴールが二つ現れた。
ほえー。すげ。やってみたいわ。
素直に相手を賞賛していた。
さっきまでの苛立ちを忘れて。
「一分間で何点取れるか勝負だ。」
「一分間で勝負つくか?」
「勿論だ。先攻ボールはやるよ。」
「なめやがって。後悔すんなよ?」
そういって相手を抜きにかかった。
が、次の瞬間
「おせぇーよ。」
相手は超高速でボールを掻っ攫った。
(は?取られたのか?)
とても目で追える速度ではなかった。
(超次元ってここまでヤバいのか!)
…。
終わった後、すぐに俺は膝から崩れ落ちた。
結果はズタボロ。たった一分間だったのに
スコアは五対0。
完敗だ。久しぶりにボコられた。
「所詮この程度相手にならん。これだから人間という存在は。こんなの使役されたくないわ。」
そう言って好青年は立ち去った。
悔しくて情けなかった。
今までの自分は過信しすぎていた。
全国一位。しかも高校一年でスターティングメンバーということに天狗になっていた。
負けた理由がはっきりしていたせいか、自然と涙は出なかった。
そして、無の表情でログアウトボタンを押した。
気がつくと目の前は現実だった。
たった半日いなかっただけで、懐かしい気分だった。
「ははっ。ヤベーなあの世界。次元が違うわ。あんな奴らと戦えだと?コントか?」
だが、いくら逃げたり落ち込んだりしても
しょうがない。
あの世界でやっていくには今までの自分の
功績や才能を捨てるしかない。
そう感じた。
現実では最高プレイヤーでも、あちらでは
最低辺プレイヤー。
俺はこの日、初めて真の敗北の味と才能の壁を知った。
そして、感情も失った。
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