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例の草加市にオープンした新施設、そこでブラックダイバーは予想以上の成果を上げている。それは、リズムゲームプラスパルクールでの上位ランカーの称号だった。
この称号を得ることで発言力が増す訳ではない。逆に言えば、有名になるという様な理由で獲得したい称号ではなかった。
むしろ、これを獲得する事である展開を生み出せるのでは、という考えで実行した物だったのである。
「本気で取りやがった」
「何と言う実力者――とでも印象付けようというのか?」
「そうではないだろう。レッドダイバーとは違う新たなプレイヤーの出現、それが目的かもしれない」
「それだと、SNS炎上勢力と似ているのでは?」
「炎上勢力は大抵が『ストレス発散』等の様な些細な理由で炎上させる。しかし、ブラックダイバーはソレと違う」
「どちらにしても炎上行為では?」
「何でも炎上行為に結びつけるのは、SNSの悪い傾向と言えるだろう」
「SNS炎上行為に正義はない。あるのは――炎上した後に残る憎しみや恨みなどの負の感情だ。それこそ、バッドエンドとは思わないのか?」
様々なやり取りがあるようだが、それにブラックダイバーが耳を貸す事はない。それ程に集中していると言えば、分かりやすいだろうか?
(言いたい人物には、言わせておこうか。こうした人物も炎上勢力と認識し、逮捕するのが今のガーディアンと言える)
ブラックダイバーはギャラリーの方に少しだけ視線を向け、その後はゲームフィールドへと戻る。
どのような目つきで見つめたのかは分からない。実際、ARメットは透明ではないので、素顔が全く見えないのだ。
(まずはレッドダイバーに向けられている炎上勢力を何とかして取り除くべきか)
ブラックダイバーがリズムゲームプラスパルクールへ進出した目的は、自分が目立つ為ではなく――レッドダイバーにあるらしい。もしかすると、炎上勢力に邪魔されるとでも思っているのだろうか?
(それよりも、対処すべきは――)
ARバイザーには様々なニュースもショートメッセージ風に表示されているのだが、そのひとつに気になる項目があったのである。
(プロゲーマーか。炎上勢力よりも邪魔とは思わないが)
自身もゲームの実力には自身があるが、プロゲーマーよりは数段劣るかもしれない。ローカルゲーマーと言う可能性だって高い。
ブラックダイバーのプレイしているフィールド、そこはARゲームとしてはかなりの割合で環境が整備された場所だった。
雨天になっても広い屋内なので、カートゲームやレースゲームも可能である。それ以外にもフィールドの広さを利用してFPSやサバゲ―も可能かもしれない。
更に言えば、フードコートやコンビニ、それ以外の買い物施設もあるので家族で楽しめるという部分もアピールしていた。
ここだけで単独完結しており、ある意味でもARゲームテーマパークの完成系と言えるかもしれない。
(成程、ここが噂の――オケアノスか)
テーマ―パークの名称はオケアノス、元々は別プロジェクト名として存在していたのだが、テーマパークの名称としてもそのまま採用された。
既にオープン初日で二十万人近くが来場、平日なのに五万人以上の来場がザラと言うのも、SNS上で話題となっている。
「まさか、こう言う形で来る事になるとは予想外だった」
私服にマスク姿が定着したクー・フー・リンは、ロケハン等を兼ねてオケアノスにやってきていた。
他のゲームも設置されているので、他の機種が混雑していても並んで時間を潰すよりも、別のゲームに乗り換えるようなスタイルも可能だろう。
周囲の客を見ると、食べ歩きや歩きスマホと言った歩行者を見ない。煙草に関しては入り口の段階で全面禁煙が張り紙にあったし、不審物も持ち込みが出来ない位にセキュリティが厳重だ。
通り魔事件だけでも、SNSで異常な拡散をする事を踏まえると、明らかにそうした事件を防ぐ為に、止む得ない手段を取ったのかもしれない。
明らかにオケアノスは何かを懸念して、ここまでの厳重セキュリティを整備しなくてはいけない。そう思われても不思議ではないだろう。
懸念しているのはマスコミの報道方法であり、SNSに拡散された後の炎上である。運営側は、こうした行為を明らかに人災と認定している節もあるかもしれない。
(周囲を見回しても、炎上させようという様なユーザーを見かけないのは、ガーディアンを警戒しての事ではなかったのか)
確かにガーディアンが過激派組織と言われかねないような、過剰な炎上行為の摘発をしているのは事実である。
しかし、そうした行為に走らせたのがSNSユーザーであるはずなのに、彼らは他人のフリをしているのだ。
SNSに無関心な人達まで巻き込むのは、明らかに避けるべきなのだが――炎上勢力は、そうした人物さえも悪用してSNS炎上を行おうとしているのかもしれない。
そうした動きを警戒し、オケアノスが誕生したのだとしたら? 運営側の目的はヤルダバオトがやろうとしていたマッチポンプよりも達が悪いだろう。
ブラックダイバーのライブ映像を、アンテナショップでレッドダイバーも見ていたのだが、その際にあるニュースを見つけた。
(まさか、ブラックダイバーの正体は――)
彼は何となくだが正体を察した。確かに、この人物のプレイスタイルを踏まえると、そう判断で来てもおかしくはない。
癖と思われる動作、大まかなプレイスタイルのソレは――あの時に見たギャラホルンと何となく思わざるを得ないだろう。
同じようなプレイヤーネームは複数あるので、一部は便乗アカウントの可能性は高いか? しかし、その辺りはARゲームによって対応が違うので即座対応の機種もあれば、対応に時間がかかる機種もある。
イースポーツの対象機種になっている、そのプレイヤー名がプロゲーマーになっている場合は即座対応の事例になるだろう。
(それこそあり得ない話だろう。確かに――)
ギャラホルンには勝った事もあるし、負けたことだってある。しかし、どちらがブラックダイバーなのかは検討が付かない。
まずは、様子を見てから動くべきだろう。レッドダイバーは、即座に動くことはせず、まずは様子を見る事にする。
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