6-3

 突如としてクー・フー・リンのスマホに電話をかけてきたのは、ゲーマー同盟のユーウェインである。


 この状況にはお互いに驚くしかないだろう。ユーウェインは本物のアカウントだった事、クー・フー・リンはゲーマー同盟が接触してきた事に。


「ユーウェイン? ゲーマー同盟の?」


『そうだ。君があのクー・フー・リンと言う事で、聞きたい事がある』


「レッドダイバーだったら、無駄足だと思うわよ。既にSNS上で先手を打ったと思わしき記事もあるし」


『SNS上? どうせ、フェイクニュースでは。その手は――』


 クー・フー・リンの一言を聞き、ユーウェインはタブレット端末で情報を検索する。そして、彼女の発言が嘘ではなかった事を知った。別の意味でも衝撃を受けるしかない。


『リズムゲームプラスパルクールに出没しているレッドダイバーで間違いはないが、この情報量では不足している』


「不足って言っても、それより上となると本当にまとめサイトとかフェイクニュースにしかないわよ」


『やはり、こちらが掴んだ情報とは異なる物しかないのか』


「それは、どういう事なの?」


 ユーウェインの一言、それにクー・フー・リンが反応した。まさか、あれ以上の情報を知っている人間がいるのか?


 そうなると、この人物の正体は――と考えるのだが、そのような考えは無駄だろう。お互いに本名を名乗っていないから。


『その情報を、こちらが教えると思うか? 君がテレビでも有名なプレイヤーである事は把握している』


「民放や有名所の動画サイトではないのに、喋ると思っているの?」


『この情報の価値は、情報をどう扱うかによる。アフィリエイト系まとめサイトにでも売り込もうとする人間に、あっさり渡す様な情報とはレベルが違う』


「そこまであっさりと喋ると認識されてるのか――。もう少し活動の幅を変えてみようかな」


『過去に特定芸能事務所のアイドルを売り込もうと、コンテンツを炎上させた事件の数々は知らないとは言わないだろう』


「それは嫌という程に目撃したわ。だからこそ、そう言った行為がファンの民度を下げている現実を見せつける必要があるのよ」


『それで自作自演の炎上コンテンツ劇場を展開する――と。ヤルダバオトが実行しているあの計画のように』


 ユーウェインの自作自演という発言を聞き、クー・フー・リンの目の色が変わる。


 彼女としても、ヤルダバオトが何かをしようとしているのはSNS上の話題である程度は知っていた。


 しかし、炎上コンテンツ劇場というのはさすがに不適切な発言にも聞こえる。どう考えても――。


『こちらとしては警告のつもりでいる。これ以上、リズムゲームプラスパルクールへ首を突っ込めば、ただでは済まない』


 そこで通話は切れた。こう言う警告の場合は『命の保証はない』のような物が定番だと思うのだが、そうした言葉は使っていない。


 彼女としても疑問は残るのだが、今はレッドダイバーの現状がどうなっているのか調べる必要性が出てきた。一体、レッドダイバーとは何なのか?



 その一方で、クーフーリンに警告をしていたユーウェインが何処にいたのかと言うと――実は、そこまで離れた場所ではない。


 百メートル弱程度しか離れていないゲーセン近くのコンビニだった。そこにはガレスの姿はなく、単独で接触していたらしい。


 通話が終わってからコンビニに入り、そこで強炭酸のペットボトル飲料水を購入、それを飲んでいる所である。さすがにコンビニでカスタマイズゴーグルをかけたまま入店する訳にもいかないので、さすがに外して入店したのだが。


(彼女であれば、ある程度は分かってくれると思ったが)


 ユーウェインにしても、無策で接触した訳ではない。似たような物を感じたのが理由の一つである。


 SNS上でフェイクアカウントやなりすましも存在する様な人物なのも――別の理由になるだろうか。


(偽者も現れるほどの実力者となれば、あの事件が仕組まれた物と)


 仕組まれていた事件、それはレッドダイバーの一件なのは明らかだろう。そして、レッドダイバーの正体も自分よりは仮説を立てている可能性も考えていた。


(あの人物が、レッドダイバーとは思えない)


 タブレット端末で見ていたニュースサイトの記事、そこに映し出されていたのは真田さなだシオンである。


 どういう経緯でシオンがレッドダイバーとされているのかは分からない。サイト管理人としては、その方がサイト閲覧者が増えると思っているのだろう。こう言った勢力が出てくる現状では、日本のコンテンツが本当の意味で輝くのは難しいだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る