3-2

 姿を消したヤルダバオトが向かっていた場所、それはある会社が入っている高層ビルだった。

その会社とはARゲームの開発メーカーなのだが、リズムゲームプラスパルクールにはノータッチである。

しかし、ARゲームのベースシステムを生み出したのは、このメーカーだ。それを踏まえれば、ヤルダバオトがここへ向かったのも――。

(ここではないようだな)

 少し顔が若干歪むが、それを周囲が指摘する様子もない。既にステルス機能はオフにしており、監視カメラ等にも彼の姿は映るだろう。

それでも彼の外見を見て不審者と思う人物はいない。背広姿と言う事もあって、上手く周囲に溶け込んでいる感じがあった。

右目の眼帯は気になる人はいるだろうが、それ以上にコスチュームが派手なコスプレイヤーならば周囲にもいる。

それを踏まえてしまうと、眼帯だけではコスプレとみなさない人がいるのかもしれない。

(他を当たるか)

 次の瞬間、再びヤルダバオトの姿は監視カメラやドローンからは消えた。

こうしたシステムは本来であれば違法なシステムであり、軍事転用やテロリストの手に渡れば危険なのだろう。

しかし、こうしたシステムでも原因は不明だが『一定の環境では機能しない』のだ。日本にだけ存在するであろう特殊な力を利用しているらしい。

それに関しては調査中だが、明らかに一連のSNS炎上事件やレッドダイバー絡みなのは容易に想像出来た。


 

 その一方、レースの方は前半で予想外の事が発生する。そのきっかけは、暗殺者マント姿が目立つのジャック・ザ・リッパーだった。

むしろ、ジャックが別のプレイヤーに抜かされるという光景で、ジャックがチートを使っている場面ではないのは――皮肉と言うべきか。

『馬鹿な!? ここまでのスコア差が生まれるのか?』

 一般的な陸上競技等では、先頭を走るのは一位を意味しているのだが――リズムゲームプラスパルクールでは違っている。

これに関して先頭を走る中世騎士姿のガーディアンは驚くしかなかった。彼は先頭を走れば一位を取れると勘違いしたとしか思えない。

もう一方の汎用ARスーツ姿のガーディアンは、驚くような表情を見せなかった。むしろ、表情を出してしまったらジャックに見破られてしまうからである。

(典型的なニアミスか――。彼は違うという事か)

 その様子を見ていた、特撮ヒーローと同じ姿のレッドダイバーは後方で様子を見ているのだが、これでもスコアで見れば二位でジャックを抜けるであろうラインにいた。

後方を走るのには理由があって、ジャックの挙動を調べるという理由もあるのだろう。

ガーディアンもジャックの調査が目的だが、逆に上手い具合に利用されているかもしれない。

(やはり、この現象はアレが影響しているのかもしれない)

 レッドダイバーが影響としているモノ、それはSNS上における承認欲求等。SNSの炎上があるユーザーに力を与えている噂が浮上したのも平成の終わりと言われていた。

しかし、このようなオカルトじみたような都市伝説を誰が信じるのだろうか? ARゲームがイースポーツのジャンルに鳴りつつある状況でつぶやかれ始めていた、あの都市伝説を。



【自らが新たなガジェットを生み出し、それを行使できるARゲームがあるらしい】

【大規模テロ行為等に代表される犯罪行為全般が禁止されている以外に、厳しい条件がないようだ】

【それを動かすパワーとは?】

【太陽光ではないのか? ARゲームエリアに配置されている】

【それが違う物らしい。噂によるとSNS上の承認欲求や動画投稿等での感想や評価がパワーと言う話だ】

【そんな馬鹿な――何処かのアニメじゃあるまいし】

【アニメの話ではない。似たような要素はレッドダイバーにはあったという話だ】

【レッドダイバー? アニメが放送されたアレか】

 誰もが信じないような話だった。あの特撮番組であるレッドダイバー、本編中では不特定多数の承認などでパワーをwられる描写があった。

それが現実化したような都市伝説を――暮無くれないヒビキは半信半疑ながら、賭ける事にする。

これを利用すればSNS炎上を防ぐ事も可能なのではないか――と。炎上狙いの釣りやフェイクの類であれば、ガーディアン等に通報すればいいだけの話だ。

そして、彼の思惑は成功して見事なまでに特撮版とほぼ同じ様なデザインのレッドダイバースーツを生み出したのである。



 楽曲の方は、いかにもリズムゲームでありそうなトランス系やポップ系ではない。むしろ、ここで流れている事自体に違和感を持つギャラリーだっている。

(この楽曲は、まさか?)

 別の場所へ向かうヤルダバオト、彼の耳にもこの曲が聞こえてきた。この曲は有名アイドルグループの楽曲だったからである。

さすがに大手アイドルグループではないのだが、それでもこの曲が収録されている事自体に不思議な声はあるだろう。

実際、この楽曲は大手の楽曲権利団体が権利を保有しており、リズムゲームがソーシャルミュージックと呼ばれるジャンルばかりになったのは権利団体の仕業と言う声がSNSに拡散されたほどだ。

(あり得ないだろう。この曲は近日中に配信停止となる予定のはずだ)

 ヤルダバオトは焦るしかない。このようなゴリ押し宣伝をリズムゲーム運営が許すのか?

それを踏まえて、彼はメーカーのビルを探す作業に戻った。


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