罪な男

黒井 猫左衛門

罪な男

※注意書き


 このお話では『世にも奇妙な●●』チックな、非現実的な現象をテーマとしています。

 ファンタジー・SFなどを好まない方、そして文系の方は控えるべきでしょう。

 なお、読み物のくせしてこの話は決して良い気分にはさせないでしょう。

 それでも読んでみたいんだゼ! という鋼のメンタルをお持ちの方。ぜひ、お楽しみくださいませ。






 01


差出人:?¥+*

宛先:yuka0627@dokodemo.ne.jp


 報告


・2014年4月1日

  橋下拓人 & 水原莉子 済


・4月8日

  野木春樹 & 渡辺優衣 済


・4月15日

  新井蓮 & 高谷向日葵


・4月22日

  小泉啓介 & 上坂エリ


・4月30日

  日下部修哉 & 鈴木由佳




 02


 4月14日 深夜

 ただただ、日付と名前が綺麗に羅列されているだけ。差出人の欄は文字化けしていて、一体誰が送ったかは不明。

 いかにもミステリアスで不気味なメールがわたしの元へと届いていた。というか最後の日付、自分の名前入っちゃってるよ。

 なにか大事なメールなのかもしれないが、内容が理解できない為に、迷惑メールの欄へと入れておいた。よく見ると迷惑メールの欄には同じ内容のものがもう一つ入っていた。そういえば、1週間前に受け取っていたな。返信、しないほうがいいね、うん。

 さて、今日は特にやることもないし寝ようかな。

 そう考えていた時、携帯から着信音が鳴った。わたしは画面に映った名前を見た瞬間、飛び上がる。

 シューくん!

 一度、喉の調子を整えた後、軽く深呼吸をして、すぐさま携帯を取った。

「もしもひ!」

 噛んだ。噛んだ噛んだ噛んでしまった。

 心の中のわたしが恥ずかしさのあまり絶叫していた。

「お、おう。夜遅くにごめんな」

 シューくんは少し驚いていたが、その後すぐにいつもと変わらない調子で話し始めたようで、ほっとした。

「ううん、大丈夫だよ。それでどうしたの?」

「あ、えーと、次のデートの事なんだけどさ、ちょっと予定が入っちゃってさ」

「予定?」

「そうそう。えーと、家族の用事ね」

「そっか……」

 わたしはその言葉に俯いた。

 最近、シューくんは少し忙しい。夜遅くまで塾通いという噂も聞くし、デートの回数も前よりは減ってしまった。でも、シューくんが頑張っている姿を想像すると、責めることなんてできるわけがなかった。仮にわたしが器の小さい女だなんて思われてしまったら嫌われてしまうかもしれないもの。いや、そうやって打算的な考えをしてしまうわたしはやっぱり性格悪いのかな……。

「シューくん……。他に空いてる日とかってあったりするかな? いや、ないならないって言って大丈夫だよ!」

「うーん、ちょっと今月は難しいかな。ごめんね」

「いや、うん。気にしないで」

「おう、じゃあ明日も学校あるし、そろそろ寝よっか。おやすみー」

「おやすみー」

 電話が切れてしばらくした後、わたしは布団にダイブし、思いっきりジタバタした。

「うううううううああああああああああ」

 こうやって特に意味もなくジタバタしてると、ストレス解消になっている気がしてちょっと楽になれる。ずっと続けていたらお母さんに、早く寝ろと言われたので布団に潜って目を瞑った。

 ストレス、解消し切れなかったな。




 03


 4月17日 午後

「ってことがあって、最近ちょっとブルーかなぁ」

 わたしがシューくんについての悩みを伝えるとメイちゃんは、はぁああと深くため息をついた。

「アンタのそういう悩み、アタシも言ってみたいもんだよ。ていうか、彼氏いない歴=年齢のアタシに愚痴られても困るわ! あぁああああ、彼氏いないとか余計よ!」

「自分で言って自分でダメージ受けてるじゃん……」

 思わずため息をついてしまった。メイちゃんは美人さんだけど、それが逆に怖い印象を与えてるんだよなぁ。

「どうせアタシなんて怖い女よ」

 自覚はあったらしい。

「まぁ冗談はさておき、その日は気晴らしにアタシと遊ぶ? 歌い放題飲み放題のフリータイムしちゃう!?」

「う、うん。メイちゃんとも最近遊べてないし、そうしようかな」

 アンタの前で歌っていない曲を覚えたから、カラオケで披露したい。メイちゃんは遠回しにそう言っているのだろう。でも、わたしも溜まったストレスを解消したかったし、誘いに乗ることにした。

 適当に談笑しながら歩いていると、向こうからいかにも仲の良さそうなカップルがこちらの方角へと、ゆっくり歩いてきた。わたしは面白半分にメイちゃんの指を眺めたが、メイちゃんは真顔で歩くだけだった。

 メイちゃんは普段、にこにこと笑い合っているカップルを見かけると、

「リア充爆発しろ!」

とか言って、起爆スイッチを押すようなそぶりを見せるのだった。

 らしくないメイちゃんに、疑問を感じたわたしは聞いてみた。

「いつものやつ、しないの?」

「あー、あれねー……。ちょっと前まではアタシもノリノリでやってたけど、最近のあのニュース見ちゃうと、どうも気分が乗らないっていうか、あれなのよね……」

「ふーん」

 指示語ばっかりで会話の内容が全く入ってこなかった。そういえば今日、メイちゃんは現国の追試だったような?

「なんかリアクション薄いな。ニュース見てないの?」

「んー、スポーツ興味ないの」

「スポーツじゃねえよ! 近頃、1週間に一度の間隔で小さな爆破事件が起こっているの。理由はよくわからないけど、被害者はいつも恋人カップルなの」

「なにそれ……」

「今も言ったけど、本当に原因がつかめないんだって。爆破関係だと、テロリストが有力かもしれないね。あ、最後のはアタシの勝手な想像よ。もしかしたら、アンタ達バカップルも襲われちゃうかもしれないね?」

「やめてよ。気味が悪い」

 メイちゃんはからかいのつもりで言ったのだろうが、わたしはその得体の知れない事件に恐怖を感じ、つい真面目に返してしまった。

「ごめん、今のはさすがに笑えなかったね……」

 メイちゃんはわたしの異変に気づいたのか、素直に謝った。

「いや、わたしもカッとなったかも。ごめん」

 結局、その日は気まずい形で別れた。

 SNSの方でも互いに謝りあったし、大丈夫とは思うが、悪いことしちゃったな……。




 04


 4月21日 朝

「お待たせー、もしかして遅刻してる?」

「いや、待ち合わせの15分前だし、むしろ早いよ」

「アンタは一体何分前に来ていたんだ……」

 25分前、はさすがに早すぎだったかな。

 わたしはメイちゃんと一緒に遊ぶ為、池袋へ来ていた。提案者はメイちゃん。美味しいお店もレジャー施設もカラオケも、なんだってあるからだそうです。

「では鈴木由佳くん」

「うん!」

「最初に行くところといえばもちろんあそこだよね」

「そうだね」

「アタシ達が行くところはズバリ」


「ラウワン!」

「アヌメイト!」


 空気が凍りついた。ちなみに前者はわたし、後者はメイちゃん。これは、また一悶着つけるしかないっぽい!

「メイちゃん、さすがにラウンダワンは譲れないよ。だってアヌメイト行ったら、いくらお金使うかわかんないもん。最初にラウワンが安全! 絶対安全!」

 いつもより積極的に話すわたしに、メイちゃんは少々慄いていたが、そちらももちろん引けを取らない。

「バッカアンタ、ラウワンなんて行ったら日が暮れちまうでしょ! あのね、オタグッズってのは服とか装飾品と同じくらい価値があるの。だいたい、夕方なんかに行ったら欲しいものなくなるでしょ!」

「メイちゃんの欲しがってるBL本はそうそう簡単になくならないよ! 結構その、マニアックなやつなんだから!」

「おいいい! 言っとくけどここ駅前だから! アタシの性癖を公衆の面前で暴露するなあ!」

 乙女のしょうもない口争いでは決まらないので、結局じゃんけんで最初の行き先を定めた。

「うぅ……。アヌメイト……」

「そんな半泣きで言われても。じゃあ行こっか」

「うん……」




 05


 4月22日 昼頃

「そしてぇかーがやーく、ウ・ル・ト・ラ・ソオル! ヘエェイ!」

 メイちゃんは物凄くアゲアゲだった。

 まぁ本来の目的はカラオケだったし、テンション高まるのは不思議でもないんだけど。アップダウンの差が激しいよこの子。

「83点……。微妙ね。こんだけ気持ち込めて歌ったのに」

 力の入れすぎが原因だと思うが、黙っておいた。

「んじゃ次、アンタの番」

「うん。あ、そうだ」

 わたしはこの前のことをメイちゃんに謝った。

「いいよ、あれはアタシも悪かったんだから。てか、今はそんなことより楽しも!」

「うん……」

 5日ほど前のメイちゃんの話の後、わたしは自分なりに事件について調べてみていた。といっても、ただネットで軽く検索しただけだが。

 事件が最初に起きたのは、日付が4月1日になってちょうどのこと。広島県在住の橋下拓人さんが、自宅の寝室でバラバラの黒焦げになって発見された。第一発見者は拓人さんのご両親。上からとてつもなく大きな音がしたので向かってみると、既に拓人さんは亡くなっていたという。

 そして同時刻、広島県在住の水原莉子さんが、同じく自宅の寝室で似たような遺体となって発見。

 さらに1週間後の深夜0時、佐賀県在住の野木春樹さんと長崎県在住の渡部優衣さんがまたしても同じような遺体となって発見される。

 またまた1週間後の同時刻、栃木県在住の新井蓮さんと高谷向日葵さんがこれまた黒焦げ死体で発見というニュースが挙がっている。

 メイちゃんの言った通り、きっかり1週間後に事件は起こっている。もし次があるとするならばそれは、4月22日の深夜0時。つまり、今日の真夜中ということだ。

 そして付け加えるならば、死亡する人は男性1人、女性1人となり、死因は謎の爆発によるものとなるのだろう。

 わたしはこの名前になぜだか既視感を覚えていたが、今は思い出せなかった。

「ねえ、由佳!」

「ん、え、なに?」

「曲始まってる!」

「あ」

「もっかいやり直しな」




 06


 4月22日 夜

「メイちゃん、今日はありがとう。結局、アヌメイトは行けなかったけど……」

 お出かけが終わり、わたしはお礼を伝えるべくメイちゃんに電話をかけていた。

「だから言ったじゃーん。今度は絶対最初ね。でも、今日はアタシも楽しかったし、許す!」

 がははーと、メイちゃんは大きな声で笑っていた。

「うん、そういえば、この前の追試どうだった?」

「また別の日に持ち越しだってさ。めっちゃ怒られたよ……」

 怒られたんだ……。追試のこと、言っておけばよかったな。

「とりあえず、また明日学校で話そうよ」

「そうだね。じゃあ、おやすみ」

「うん」

 電話が切れた後、わたしは時間を確認した。

 23時59分。

 もし爆破事件が起こるなら、あと一分で遂行されるのだろうか。

 わたしにとっては、対岸の火事である出来事のはずなのに、心が少し痛かった。

 リロリロリリン。

 なんの脈絡もなく、携帯から発せられた音に驚いたが、それはすぐにメールとわかり安堵した。

 中身を開き、その内容に気づくとわたしは頭を抱えた。



差出人:♫%#$

宛先:yuka0627@dokodemo.ne.jp


 報告


・2014年4月1日

  橋下拓人 & 水原莉子 済


・4月8日

  野木春樹 & 渡辺優衣 済


・4月15日

  新井蓮 & 高谷向日葵 済


・4月22日

  小泉啓介 & 上坂エリ 済


・4月30日

  日下部修哉 & 鈴木由佳



 またこのメールか。これで4件目。

 何が目的で送っているんだろうかと考え、なにげなく内容に目を通した瞬間、わたしは戦慄した。

 これ、よく見たら爆破被害に遭った名前の人達だ! さらにいえば、日付も正しく記載されている。どうして気づかなかったんだ。4月22日の部分に記載されている名前の人たちは見たことがなかったけど、もしかすると、これから爆破被害に遭うってことなの?

 そして4月30日にはー、鈴木由佳!?

 これって、わたしの名前……!

 わたしは呼吸を忘れていた。さらにとなりには、シューくんの本名が書かれていた。

 なんとなく、このメールがどういう意図をはらんでるのか、本能で理解した。

 殺害予告。

 その証拠に、被害者の名前の隣には「済」と赤文字で記入されている。迷惑メールにしてはあまりに悪趣味で、恐怖を煽られるものだった。

 でも、小泉啓介と上坂エリが死んだとはまだ決まっていないわ。落ち着くのよ。

 しかしそれと同時に、本当にこの二人が爆破事件の被害に遭っていたならば、殺害予告の線は間違いないと、激しく動揺している自分もいた。

 そして次の日の朝。皮肉なことに、どこのテレビのチャンネルも、新しい爆破事件のニュースで持ちきりだった。


 4月30日、深夜0時。

 小泉啓介と上坂エリは、黒焦げになっていたそうだ。




 07


 4月25日 昼頃

「しつこい」

「しつこいって……。自分が死ぬかもしれないのよ!?」

 小泉啓介と上坂エリの死から3日後、わたしは毎日のごとくシューくんに電話をかけていたのだが、冷めた反応をされるばかりだった。

「たしかに、俺のとこにもそういうメールが来たよ。お前から聞いてメールの中身を理解した時、正直マジでびびったさ。でも、こんなのどうやって防ぐんだよ。おまわりさんに、5日後ぼくは爆発してしまうので助けてください、とでも言うのか? 信じてくれるわけないだろ」

「修哉は死ぬのが怖くないの!?」

「だから! 防ぎようがねーだろ! 何日も考え込んでんじゃねえよ。それとも、このメールはお前のいたずらか? 構って欲しいのか?」

「もう知らない!」

 怒りのあまり、携帯を投げつけた。画面が割れたかもしれないが、正直そんなことはどうでもよかった。次第につらさが襲ってきて、わたしは泣いた。

 ひとしきり泣いた後、携帯を手に取ると、案の定画面が割れていた。しかし、機械自体は作動するようで、開いてみると一件のメッセージが入っていた。


【別れる】


 誰からのメッセージかは明確だった。

 泣きじゃくったからなのか、不思議と悲しみは湧いてこなかった。ただただ、納得するだけ。

 本当に冷静になって考えてみれば、対策の仕様もないのは事実なのか。修哉はわたしの話を聞いたその時しか信じていなかったし、それからはいつもの楽観的な判断で物事を捉えていたけど。

「さっきからギャーギャーうるさっ、てどうしたの!?」

 注意しようと部屋に入ってきたお母さんが、わたしの赤く腫れた目を見て心配そうに駆けつけた。

 わたしはお母さんの顔を見ると、なぜだかまた悲しくなり、思わず抱きついて再び泣き出した。

「うん、うん」

 お母さんはただそう発しながら、わたしの頭をそっと撫でた。

 死にたくない。




 08


 4月29日 朝


「よし……。できた」

 わたしは俯きながら、書き上げた原稿を白い封筒に入れ、引き出しにしまった。今日、で終わりかもしれないんだよね。

「由佳ー! さっさと支度しちゃいなさーい!」

「はーい」

 最後の日とはいえ、学校は休みにならない。でも、なぜだか行きたくないって気持ちはわいてこないんだ。制服に着替え、お弁当をしまってバッグを持ったわたしは玄関へ行かず、居間に向かった。

「ねえ、お母さん」

「弁当はしまったんでしょ。ならさっさと学校行っちゃいなさいよ。ん? なに?」

 なんでお母さんは、娘が大事なこと言おうとしてる雰囲気を感じ取れるのかな。すごいな……。

「ええと、あのさ。泣き虫なわたしをここまで育ててくれてきたこと、とってもうれしいよ。口下手だから他に言うこと思いつかないけどさ。わたし、お母さんが一番好き。大好きだよ」

「……」

「あはは……。いきなりなに言ってんだって話だよね。ごめんね、じゃあ行ってきます」

「由佳!」

 わたしが少し涙目になりながら、家を飛び出そうとすると、お母さんに呼び止められた。

「お母さんも由佳のこと、いっちばん好きよ」

 気づけば、お母さんの瞳も少し潤んでいた。

 しばらくすると、いつもの調子に戻り、

「いってらっしゃい、車に気をつけるのよー!」

 と元気よく送ってくれた。




 09


 4月29日 夕方


 放課後、わたしは好きなことをたくさんして時間を潰した後、帰る前に寄り道をした。

 中村と書かれた表札に気づき、やっと辿り着くことができた。追試は終わっているだろうし、もう家かな。

 ピンポーン。

「はいはい中村ですー。あ、由佳ちゃんだ!久しぶり~。ちょっと待っててね」

 スピーカー越しに響く元気な声の後、おばさんはドアを開けてくれた。

「あの、メイちゃんに会いにきたんですけど」

「うんうんそうよね。せっかくだからあがってきな。芽衣の部屋わかる?」

「はい」

「そう、じゃあごゆっくり~」

 2階に上がり、右へ曲がったところにある部屋をノックする。間延びしたような声を耳にし、わたしは静かにドアを開けて中に入った。

「ママの馬鹿でかい声で誰だかわかってた。ようこそ」

 メイちゃんは太陽のような笑みで歓迎してくれた。

「ほんじゃ、今日はなにやる? あいにくアタシはプレステしか持ってないから、ゲームは古いけどね」

「いや、ちょっと聞いてほしい話があって」

「ん? いいよ、なんでも聞きまっせ」

 なんか、メイちゃんのこのテンション、いつもの感じとはわかっているけど、調子狂うな……。

「あの、今日はありがとうを言いにきたんだ。中学の時に知り合って、寡黙なわたしと仲良くしてくれて、一緒に遊んだりしたこと。とっても楽しかったよ」

「やめてよ」

 メイちゃんはちょっとわたしを睨んでそう非難した。

「その言い草、まるでお別れみたいじゃない。らしくないよ」

「そうだね……。ごめん。でも、感謝してるのはほんとだよ」

「……」

 メイちゃんは少し悩み、悩んで悩み抜いた末に、なにかひらめいたような顔をした。

「アンタ、立ち上がって英語のTのポーズを作ってごらん」

「あ、うん」

 わたしは言われた通りのポーズを形作った。すると、メイちゃんも立ち上がり、わたしに勢いよく抱きついてきた。

「ちょっ、メイちゃ」

「ずっとだよ」

「え?」

「由佳はずっと、アタシの親友だから」

「そっか……」

 わたしも、包み込むようにメイちゃんのことを抱きしめた。

 あぁ、幸せだなぁ。

 ガチャリ。

「遅くなってごめんね~。はいお菓子だよおおおおっと、お取り込み中でしたか。これは失礼」

 突然入ってきたおばさんにわたしたちは驚き、すかさず抱きしめ解除した。抱きしめ解除ってなんだよ。

「ママ、そういうんじゃないから!」

「大丈夫! ママは女の子同士の色恋もいける口よ!」

「実の娘にそういうこと言わないでほしかったよ! なんか色々ショックだわ!」

 この親子については、わたしも衝撃だよ……。




 10


 4月29日 深夜


 夜の公園って、想像していたより怖いな……。最初に抱えた感想はそんなものだった。

 わたし、鈴木由佳はこれから死ぬ。多分死ぬ。

 そしてその死に方というのが爆死なだけに、他の人達に迷惑のかからない場所を選んだ。お母さん、ごめんなさい。メイちゃん、ごめんなさい。

 遺書は既に家の引き出しに入れてある。思い残すことはほぼないかな。

 あとは、シュー君。

 なんだかんだ言って、もしかしたらシュー君も死んでしまうのかもしれないと考えると、それはつらかった。

 あと5分か。

 なあんか、今日はとっても疲れたなぁ。わたしはじわじわと睡魔に襲われるのを実感していた。どうせ痛みを感じるくらいなら、寝ていた方がいいよね……。


 神様、次に目を覚ます場所は地獄ではなく、天国でお願いします。


 最後にくだらないお願い事を唱えて、わたしは意識をなくした。






 結末


 天国ではなく、見覚えのある天井だった。

 目を覚ましたことに気づいたお母さんが不安げになにか言っていたが、わたしはもう一度寝ようとした。

 ん?

 飛び起きた。

「お母さん! わたしって生きてる!?」

「生きてるわよ。にしても由佳、びっくりしたわよ。自分の娘が公園で寝ているって、知り合いのおまわりさんから電話があったのよ。本当になにやってんのあんたは! でも、無事でよかったわ」

 これは幻なんかじゃなくてほんもののお母さんだと、心の中の自分が告げていた。てことは、やっぱり生きてるってことなのかな。

「お母さん、ちょっとテレビ点けて」

「は? それよりも色々聞きたいことが」

「いいから、1分で終わるから」

「わかったわよ……」

 不満げなお母さんの声とともに、情報番組のチャンネルが視界に映る。爆破事件についての新しいニュースはなくなっただろう、そんなわたしの思惑は無残にも裏切られた。

「ちょうど8時間前。時刻は4月30日の深夜0時でした。被害者は、東京都在住の日下部修哉さんと綾瀬奈々さん。死因は謎の爆死だそうです」

「そんな……。どうして……」

 どうしてシュー君が死んだの。それが1番の謎。

 でも、もう1つわからないことがある。

 綾瀬奈々って誰?

 あのメールリストにはどこにも載っていなかったはず。どうしてわたしではなく、綾瀬奈々という人が死んでしまったのか。

 ふと、わたしはメイちゃんが言っていた事件の内容について思い出した。


「被害者はいつも恋人カップルなの」


「リア充爆発しろ!」


 カップルではなく、「恋人カップル」という単語に、わたしはなにか違和感を覚えた。まさか。

 たしかに、わたしは5日前にシュー君と別れている。それはつまり、恋人という関係性が取り消されたことになる。

 でも、そんなくだらない理由なの? そんなくだらない理由で、人が死ななくてはならないの?

 じゃあ、綾瀬奈々という人は、シュー君の新しい……。

 本当に、罪な男。殺人罪の悪党は死刑という裁きを受けた、というわけね。

 わたしは自分の手で、テレビのスイッチを切った。






 あとがきのような解説のようなもの

(ネタバレを回避したい方は、先に本編を読むことをお勧め致します。)


 どうも、オーロラ猫です。

 まずは拙い上にすっきりしないボクのネット小説を読んでくださった方、本当にありがとうございます。これからも投稿していこうと思うので、お付き合いいただけると助かります。(この敬語合ってるのかなぁ……。)

 さて、今回の話のテーマは「リア充爆発」。

 ボクの友人がよく、

「リア充なんて爆発してしまえ!」

「アイツらはいつか●●●にしてやる……」

 とか散々恨み節を唱えているのを思い出し、もし本当に爆発したらどうするのと考えたところ、できあがったのがこの『罪な男』です。

 ちなみに、その友人の好きなアニメのジャンルはラブコメだそうです。お前リア充嫌いじゃなかったのかよ! 2次元と3次元の差別が露骨すぎる!

 でも、ラブコメっていいですよねぇ。

 偽の恋人を演じたり、彼女や幼馴染みが修羅場ったり。

 ラブコメについてはまた機会がある時に、だらだらと話すかもしれませんね。

 それでは、あとがきを終えたいと思います。

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