JAZZ!
ニャイター
ジェズ・ウォーダンはジャズが好き シロPART1
僕の毎日はこの店で珈琲を飲む事から始まる。
通学路に在る喫茶店。朝早くから
高校三年生の春、桜が咲き寒さも少しずつ薄れている。このまま冬が終わればいい、寒いのは苦手だ。
授業に出ても話は聞いていない、これ位の内容は中学生の頃に済ませてある。家から近い、それだけがこの学校に通う理由だ。
今日の授業は全て終わった、僕は右手で鞄を背負い帰路に就いた。
「あっ、はっくん」学校に通う理由がもう一つあったな、こいつが通うからだ。
「もう帰り?いつも早いね」
「お前も今、帰ってるじゃないか」
「今から帰るなら何処か寄ろうか?」
「今日もお前が決めてくれ」考えるのが面倒だった、まぁこいつに任せれば間違えは無いだろう。
「なら隣町に行くか、人喰い
「獣?隣町は森じゃないぞ」楽しめそうだろ?とか言うんだろうな。面倒だな。
「楽しめそうだろ」いつもこれだ、前は巨大な
仕方がないな、付き合うか。
「なら、今度こそ俺を楽しませてくれよ」僕達は隣町に向かって歩き始めた。
まだ空は明るい。
この町は何故か栄えている。著名な店が在る訳でもない、有名人の出身地という訳でもない、だが僕らの住む町より断然栄えている。
「獣は何処だ?」
「夜になると現れるらしいけど、なら昼は一体何処に居るのかな?」聞いているのは僕なんだが。
「身を隠せる暗くて人のいない場所、廃墟とか」
「そう、てな訳でここに行こう」
見せられた写真には二階建ての家が写っている、二階部分は窓のある壁一つ以外は崩れて屋根は全く残っていない様だ。
「下見はしたんだろ、どうだったんだ」
「床に血痕があったけど獣の痕跡は見当たらなかったな。でもね」
「でも?」地下室が在るとか言うのか、まさか宝箱でも在るのだろうか。
「地下室があって、中に大きな箱があるんだよ」当たった、箱の中には何があるだろうか。
「行こうぜ、箱だけでも回収しよう」
「家の中に置いたりするなよ、それ大きいだろ」
バス停に着きバスに乗った、ここから向かうと早いらしい。獅暮は乗って早々寝てしまった。
「少し休めるな、まあ疲れてないがな」僕は右手でウォークマンを開き左手でカセットを入れた、僕の左手はこの時の為にある。
「懐かしい」前から聞こえた、いつの間に居たのだろう。
「それ、何処にあるんだ」彼女はウォークマンを見ている。まあ最近見ないからな、これ。
「もう売ってないと思います、懐かしいですよね」
「懐かしいのは曲だけだ、機械は知らない」よく聞こえるな、音量は最低限にしてあるのに。
そうだ、貯金を使ってもうすぐ別の物を買うから譲ろうかな。捨てるのは勿体無い。
僕は紙に住所と名前を書き彼女に渡した。
「家に来てくれたらこれ、明日にでも渡しますよ」
「面倒だ、それを今渡せ」僕は今揺すられているのだろうか?否、実際揺すられているのか。
「今は無理です」実力行使とか言われたらどうしよう。
「ならお前が死んだらそれを貰う」
「それなら良いですよ」
獅暮は寝てる。僕は獅暮の鞄から紙を取り出し、成り行きで遺書を書き始めた。
「君の名前は?」
「ジェズ、ジェズ・ウォーダン」日系には見えなかったが何系だろう?きれいな顔だ。
「書けました、もし僕が死んだらこれで遺産は全て君の物です」身寄りもいないし良い機会だ、遺産問題は解決した。
「お前、変だな」強欲を体現した様な者に言われるとは、そんなに変かな。
「奇抜な格好ですね、その耳何処で買ったんですか?」
無視された、だんまりだ。
「君も好きなんですか?この曲」
「写真見せろ」会話にならんな。写真って廃墟の写真の事か、まあ見せてはいけない物でもない。僕は写真を渡した。
「撮ったのそいつだろ、よく生きてるな」
「廃墟を撮っただけで死んだりしませんよ」
「お前は今日死ぬけどな」怖い予言だな。
目的地に着いた、獅暮を起こし僕達はバスを降りた。
廃墟に着いた、僕達はその2階で縛られている。
「じゃあ死んでもらおうか」
「嫌です」廃墟に着いた途端にこれだ。隣には殴られたのか全身が痣だらけの男が縛られている、呼吸をしている様子から生きているのは分かる。
「おい、こいつら地下に入れとけ。聞こえてるか!」血痕と大きな箱、そこに閉じ込められる自分等、嫌だな。
「ここ有名ですから、地下に入れてもバレちゃいますよ」
「箱を見つけたから大丈夫、その中に入れるから気付かれないよ」パイプとペンチを持っているが水道業者には見えない。
逃げないと更に危ない目に遭う気がする。獅暮は何故か動かない。
「おい、逃げるぞ、起きろ」
「よし、外れた」縄が切れてる、壁の割れ目で切った様だ。
男達が消えた、僕は隣の男を背負い階段を下り始めた。
「地下室は音があまり聞こえないんだ、早めにずらかろう」僕達は1階に着き出口に向かおうとした。
悲鳴が聞こえ、僕達の足は止まった。
「コノヤロオ!」悲鳴は怒声に変わったがその声は掠れ直ぐに消えた。
「逃げるぞ」僕達は走り去ろうとしたが床が崩れ地下に落ちてしまった。落ちる時、子どもの頃の思い出が見えて懐かしかった。
両足と腰が痛い。背負っていた男は無事だがその分僕の足に重さが乗ってしまったのだろう。
獅暮は手を痛めたのか包帯を巻いている。
「折れてはいない、持って来て良かった」
「地下室は二つ在ったのか」隣の部屋があの地下室だろう、壁に穴が開いているのに中の人の音がしない。
「うう、痛い」男が目を覚ました。立ち上がった事から足は動く様だ、もう背負わずに済みそうだな。
「おい、逃げるぞ、男達は隣だ」
「はっくん、ここには階段がない。逃げるなら瓦礫を積み上げるか隣に行くしかないと思うよ」
面倒だな、三人で協力すれば一人はすぐ出られるが残される者は二人で待つ事になる。
「もし男達が襲って来たら困る、人数を減らしたくない」
「隣で何かが起きている、他の組にでも襲われたのか、或いは獣か」外道の男達に獣か、どっちに襲われても怪我を負いそうだ。
ぐちゃり。
「何か聞こえたな、なんだ?」
「はっくん、瓦礫を積もう、隣に行くのは良くない」言われなくても分かる、急いでこの場を去るべきだ。
瓦礫を積む音で消えているが未だにあの音が響いている。あの部屋は危ない、近づいてはいけない、頭の中が逃げる事で埋め尽くされる。
べちゃ。
扉に何かが飛ばされ潰れた、早く逃げないと。
「よし、逃げよう」男を先に行かせる事にした、男が瓦礫の山を這う。後ろの壁で何かが潰れる、何度も潰れる。
「後で警察を呼ぼう、救急車は要らないな」獅暮が登りながら言った。同感だ、あの男達が生きているとは思えない。
獅暮が登り終え僕に声を掛ける、だがその姿は視界に入らなかった。入る前に吹き飛んだからだ。
瓦礫に何か掛かった。
これは、血?
後ろを見た、壊れた壁の前にいる人は猫の着ぐるみを着ていた。
あれが何者かは分からない、だが今するべき事は分かる。僕は瓦礫を駈け始める。
下半身が痛い、だがあの猫が待ってくれるとは思えない。
右足を捕まれた気がする、後ろを振り向くと二足で立つ猫がいた。
着ぐるみじゃない、これは本物だ。
僕は壊れた壁に投げられた、片手で投げられる重さでは無いだろうに。全身が痛くて足の痛みが気にならなくなった。幸運の無駄遣いだ。
「先に上のやつらを殺すか」喋った?もう常識は使えない様だ。これは、夢か?
「現実だよ」何故か目の前にあの少女が立っている。死ぬ前に最後に見る姿がこれか、それとも僕の体か。
「ここは危ないから早く逃げな」
「あれ寄越せ、お前死ぬだろ」ウォークマンの為にここに来たのか?凄い執念だ。
「それならここに。でも壊れたかも」外枠が割れてしまっている、もし中身も壊れてしまったなら使い物にはだろう。
「もう売ってないんだろ、他のは何処にあるんだ」
「家に使っていないのがあるけど、それも動かないかも」殺される前の会話がこれか、
彼女は黙った、何を考えているのだろう。
体の感覚が戻ったので僕は瓦礫を登った。地上ではあの男が解体されていた。
吐きそうだ、生の死体がこんなにも辛い者だとは。僕もああなるのか。
「おい!お前ならこれ直せるか?」手にウォークマンを持っている。
「壊れてるのかい?」もう声を抑えなかった、抑えても彼女の声で気付かれるからだ。
「音が変なんだ、もし生きていたら直せるか?」
「さあ、でも死んだら直せないのは確かだよ」僕は笑っていた、笑うしかなかったのもあるが、この状況でこんな会話をする事が可笑しくて堪らなかった。
「なら助けてやろうか?」彼女は瓦礫を飛び越え、僕の前に立った。3メートル以上ある筈だがそれを軽く飛び越えた。
「本当に?助けてくれたら何でもしてあげるよ」
「嘘をつく理由がないだろ」このふざけた状況を変えてくれるのなら、僕は何だってしてやる。魂だって売ってやる。
「交渉成立だ、後悔するなよ」
「なんでそこまでしてくれるの?」
本当に彼女はあの化け物を倒せるんだ。根拠は無いが、断言出来る。
彼女は笑って答えた。
「私はジャズが好きなんだよ」
「なんだ、お前」化け猫は彼女を見た。口から血が垂れている、あの男の血だろうか。
「今すぐ自殺しろ」
「気は確かか?」
「善意で言ってるんだよ、早く死ね」彼女が何を言っているのか分からない。はい、分かりましたと死ぬと思うのか?
「お前、人間じゃないだろ。見逃してやるから他の獲物を見つけるんだな」化け猫は食事を続ける。
「話が分からないのか?」
「この人間達は俺の獲物だ、食べ終わった物はやるよ、勝手に持って行け」もしこれに頷かれたら、僕も獅暮も食われてしまうぞ。
「ハイエナ風情とこの私を一緒にするな、それに私の獲物はお前なんだよ」
「何?ギッ!」彼女は化け猫の右手に噛み付いた、速過ぎたのか見えたのは飛び掛かった後だった。
「お前え!」腕を振り彼女を剥がした。
「不味いな、まだヒトの方がましだ」化け猫の右手が千切られている、いつの間に切ったのだろう?
「人間風情に化けている癖に、強いじゃないか」
「猫風情がよく言う、少しだけ本気になってやるよ」彼女の体が大きく広がっていく、濃い灰色の毛、白い牙、夕暮れで反射する赤い眼。
彼女は狼だった。
狼は化け猫の右腕を咬み付いた。解こうとするも強く咬み付いているのか全く外れない。
体重を乗せ飛ばそうとするが逆に利用され、化け猫の右腕は玩具の様に取れてしまった。
化け猫が叫ぶ、それは怒りだろうか、痛みだろうか。狼はそれを見詰めている。
口元が笑っている、彼女はこの状況を楽しんでいるんだ。
化け猫が左腕を振り下ろす、それを口で受け止めた狼は先よりも大きく見えた。
そのままそれを噛み砕いた。化け猫は猛進するも反対に後ろ両足で蹴り飛ばされ木に激突する。
遠吠えが響く。猛獣とは思えない奇麗な声だ。僕は遅めの白昼夢でも見ているのか?
狼は徐々に小さくなり人の形に戻った。拳だけは戻さずに化け猫の前で立ち止まった。
「最後に言い残す事は?」
「俺の負けだ、好きにしろ」そう言われると彼女は化け猫の左目を潰した。
化け猫は鳴き叫ぶ、彼女はそれを見て笑っていた。
「ははは、好きにしろって言ったのはお前だからな!」そう言うと彼女は化け猫の体を切り裂き始めた。
全身の肉を爪で引き裂かれ、四肢が外れ、全身が刻まれ化け猫は鳴き続ける。
舌が縦に裂け左目は抉られ、腹に爪を刺され悶える。
「お前には後悔するな、なんて言わない。後悔しろ!生まれた事を後悔しろ!生きてる事を後悔しろ!生かされた事を恨め!」
「そして神を恨んで死ね」頭を潰された化け猫は何も言わなくなった。
僕は何故か泣いていた。
彼女は日が沈むまで笑い続けていた。
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