エンド×レス・ストーリー

黒幕横丁

第1話 神さま

 突然だが、君は神を信じるだろうか?

 神といっても様々いるのだけれども、僕、山田太一が信じているのは創造主という名の神だ。

 世界を作って、動かしているそんな創造主が、

 僕の隣にいる。

 ちゃんと実体としているのだ。しかも、教室で僕の横の席に座っている。黒髪を可愛くおさげにして、僕の通っている高校の制服まで着て、流行のライトノベルを読みふけっている。

 彼女の名前は清水聖子。このクラスのマドンナ的な存在だ。

「清水さんおはよう」

「あ、杉本くん、おはよう」

「聖子ちゃん、おはよう」

「咲さん、おはよう」

 クラスメイトからの挨拶をにこやかな笑顔で答える彼女。そして、また小説の世界へとのめりこむ。

 彼女はクラスの誰からも愛されている。少なくとも、この三年F組のクラスメイトからは。

 しかし、クラスの皆は彼女がこの世界を作っているだなんて知らない。でも、何故か僕だけがそのことを知っているのだ。

 彼女の世界にとって僕はただのNPC(ノンプレイヤーキャラ)のハズだ。どうして、僕だけがそんな事を知っているのだろうといつも考えていた。

 コレを見ている君は、『そんなの神である彼女に聞けば良いだろう』と思うかもしれない。しかし、彼女自身は、自分が神であることを知らないのだ。

 前に一度尋ねたことがある。あれは、いつの頃か忘れてしまったけれども。

「私が神だなんて、何かの冗談だよ」

 と苦笑いで返されてしまった。

 それっきり、彼女を詰問することはしなくなったけれど、それでも彼女は神なのだ。

「山田。数学の宿題やってきてる?」

 クラスメイトの堀越が僕の席までやって来て頼み込んできた。

「数学? どこら辺の奴だっけ?」

 僕は鞄から数学の教科書を取り出し、堀越に渡す。

「えーとな、ここら辺」

 ペラペラとページをめくり、該当ページを開いて堀越は指を指して僕に見せた。


 そのページは文字も記号も書かれていない、白紙のページだった。


 それを見た僕は、ノートを取り出し、適当に数式を作る。

「ここの解法さえ苦戦しなければ、簡単だったよ」

 そして、式を見せると堀越は目を輝かせる。

「流石、清水さんの次に頭が良い山田だ。コレちょっと借りるぞ」

 そう言って、堀越は自分の席へと戻っていった。

「……あんな適当な式で良かったんだな」

 僕は再度数学の教科書をペラペラと捲る。


 全てのページが真っ白なのだ。僕だけがそうというわけじゃない。クラスメイトの全ての数学の、いや、全ての教科書においてページは白紙なのだ。


 変なのはソレばかりじゃない。教室に掛けられている電波時計は針が捻じ曲がっていて正確な時間を読み取ることが出来ない。

 最も学校という機関として異常なのは、


 先生を始めとする大人が全く居ない事。


 まるでピーターパンに出てくるネバーランドのようだ。歳も取らず、子供たちで暮らす、そんな世界。

 そんな世界を彼女は作ったのだ。


 彼女は何故こんな世界を作って暮らしているのだろうと思ったこともある。しかし、彼女が創造主ということを認めない以上、この問いは出来ない。

「そうだ、清水さん」

「ん? なぁに、山田君」

 読みかけのライトノベルから僕に視線を合わせる清水さん。

「これから学食へ一緒に行かない?」

 僕の誘いに彼女は針の捻じ曲がっている電波時計を見る。

「あ、もうそんな時間なのね。本に夢中になりすぎて気づかなかったわ」

 そう言って単行本に栞を挟んで本を置いた清水さん。

 もちろん今が昼かどうかは分からない。しかし清水さんが、今が昼だと認識した瞬間、教室が一斉に昼休みモードになるのだ。

「あ、山田が清水さんをお昼に誘っているぞ!」

「ヒューヒュー!」

 クラスメイトは僕が清水さんを食事に誘ったことを囃し立てる。

「ち、ちがっ。そういうことじゃないって」

 僕は慌てて否定するが、教室の熱気は冷めることはない。

「は、早く行きましょう、清水さん」

「はいはい」

 そう言って僕達は盛り上がっている教室を後にした。

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