女神君臨

冬雪 依織

0 Prologue

 この世界には五つの魔力、五つの国が存在している。


 第一の魔力、「水」。かたまれば世界を透かす氷の水晶と化し、波になれば国を飲み込み、無に帰す。恐ろしくも美しいその力は、水司りし国「ヴィアベル」によって崇められ、国は水と時の女神「メーア」の加護を受けている。水の国に攻め入ろうとしたならば、その国は荒波に呑まれ、海中に棲む水神龍「ヴォルティーチェ」の餌となるという伝説が存在している。


 第二の魔力、「花」。戦火渦巻くこの世界でも、花の国「ペトルペタル」に咲く大輪たちはその花弁を閉じない。この国にあるのは凛と咲く花々だけではない。花の力は轟然たる大音響とともに大地を揺るがすことができる。生命の息吹から成り立つこの力を持つ国は、花の女神「ブロッサム」の加護を受けている。花の国に攻め入ろうとしたならば、その国の花々は枯れ、地神龍「ゼルミナシオン」の足踏みによって大地が裂かれるという伝説が存在している。


 第三の魔力、「炎」。非常に好戦的な炎の男神「エタンセル」の加護を受ける国、「フラムバーン」の国民たちが司るその力は、あらゆる物を灰に変え、この世界を紅く染めてゆく。燃え盛る炎は、言わば炎の国の民の滾る闘志、女神の情熱の心の具現化である。炎の国に攻め入ろうとしたならば、その国は炎神龍「ブルチャーネ」の息によって火の海と化し、灰になり風に乗って舞い散ってゆくという伝説が存在している。


 第四の魔力、「闇」。永遠の月の国、という異名を持つ国「フィンターニス」は、朝が来ぬ代わりに月と星々が輝き、花々が育たぬ代わりに機械文明が栄える地である。闇の力は夜を呼び、夢を魅せる。国の人々が崇める闇と幻の男神「ドゥンケル」は、人々に幻想を与えるとされる。闇の国に攻め入ろうとしたならば、その国の人々は甘く滑稽な妄想に憑りつかれ、闇神龍「ドゥンケルハイト」の幻の世界の中で自滅していくという伝説が存在している。


 第五の魔力、「光」。闇の国と対で、永遠の太陽の国という異名を持ち、夜が来ぬ代わりに太陽が輝き、空は美しい群青で染まっている。光の力は人々の心を癒し、悪を祓う。光の国「リュミエール」の人々が崇める光と命の女神「ルーチェ」は、人々を守り、国の未来を照らすとされる。光の国に攻め入ろうとしたならば、その国は日照りに遭い、身を枯らしながら、光龍神「リヒト」の慈悲の中、国が滅亡するという伝説が存在している。


 それぞれの国に、守護神、神龍、伝説が存在しているが、どれも不確かであり、御伽噺の可能性も存在する。国民は盲目的にそれらを信じ、この世界を生きているのである。しかし、各国の王家は、それらが御伽噺ではないことを知っている。なぜならば、王家は守護神の直接の加護を得て、過去に起きた国の滅亡の危機が二度と我が国に起こるまいと神龍に祈りを捧げているからである。中には、神と運命の契りを交す者もいれば、神龍に命を捧げる者もいる。近年では、王家の血を引かぬ者が神と関わっていくことさえある。戦火止まぬ世界とは言え、今では血を流すような戦いは起こっていない。起ころうものなら、五神龍が怒り狂い、守護神達のさらに上の存在、女神「オーディール」が世界を消してしまうからである。


 守護神の他にも、世界全てを統一する神として存在する「オーディール」の他、機械司る神や、海に棲む水神龍のお供をする従者など、神々は多数存在している。このような世界に、これから何が起きてゆくのか。是非見届けていただきたい。この世界に生きる者たちの「戦い」を。


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